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そして出会う俺とお前
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しおりを挟む「ふぁ……マジで死んだかと思った。」
ワイバーンに叩き落とされ地面に落下し、大小様々な魔物に囲まれ絶体絶命の俺であったが、マーニアムの加護により一時的に身を守られていた。
ぼんやりと籠手に掛かった加護と同じ光がドームのように俺を包み魔物達からの攻撃を防いでくれている。シュルシュルと籠手から伸びたマーニアムの髪が俺の怪我を癒そうと神経系の毒で侵された傷を撫でる。
痛みが引くと、散漫になっていた気が元に戻りどっと疲れを感じる。いやはや、本当に死んだかと思った…。
甘えてばかりではいけないとわかっていても、やはり周りに助けてもらってばかりの俺はまだまだ甘ちゃんであると自覚してしまった。
今回の単独で西の森に乗り込むことにしたのは、俺が癇癪を起こして我儘を言ったに過ぎないと今更ながら自覚する。こんな自体にならないと自覚しない自分が情けなくなる。
マーニアムもこんな俺に落胆しているのではないか?そう思うと一層情けない気持ちになった。
「………しかし、これからどうしたものかなぁ。」
魔力は殆ど尽き転移の魔法を発動できず、尚且つ右肩の怪我は思ったよりも酷く動く気配無し。神経系の毒はマーニアムの加護で薄れつつあるが、逃げ出すにはあまりにも無茶難題になっていた。
……全力で走っても魔物を引き連れてしまうし、ギルドカードでアントムさんに連絡しようにも通信がうまく行かない。魔力妨害を受けているのか機能しないのはちょっと予想外だ。
ちょっと人間離れしたくらいでは解決できない範囲だったな。はぁ~、なんて大きなため息をついてしまった。
この事態からどうやって抜け出すか考えていると、俺の耳に聞き覚えのある美しい声が響く。ハッとして意識を向ければ、その声は焦ったような、怒っているような声で俺に話しかけてきた。
『アルディウス、大丈夫ですか!?』
「あっ、マーニアム。これが大丈夫に見えるの?」
『其方はすぐに大怪我を負いますね、見ていられませんよ!』
「ははは、返す言葉もない…。」
『いつもそのように無茶をして…其方を心配する者は多くいるのだから、もっと自分を大切にしてください。』
はて、俺を大事に思っている人なんているのだろうか?血の繋がる家族には疎まれ、幼馴染であった王子には散々なじられ…保護者達は俺がマーニアムと繋がりがあるから面倒を見てくれているだけだ。
タサファンやエルダは同じ冒険者なだけだし。まぁ仲はいいけど深い仲でもない。面倒はたくさんかけたけど。マルさんだって、俺を保護してくれた人であれ家族になったわけじゃない。
果たして、この世界に俺を心配してくれる奴なんているのかな?
『アルディウス、其方が思う以上に愛されていることを知りなさい。』
「はぇ?」
『私とて、其方が傷つく姿は見たくはありません。私との約束を果たさずに其方があの世に旅だってしまうだなんて悲しい思いはしたくありませんよ?』
「約束って、何かしたっけ?」
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「いや、食い意地…。」
『こほん、……そのようなわけでアルディウスには長生きしてもらいませんと!……おや?』
「ん?どうかしたの?」
『ふふっ、どうやらお迎えが来たようですね。私は去ります。』
「迎えって……保護者達か?」
『さて、どうでしょうね?』
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