実はαだった俺、逃げることにした。

るるらら

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復帰した俺に不穏な影

忘却の元幼馴染5(公爵視点)

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 「はぁっ…はぁっ…!!」



 私はホテルに繋げていた転移陣を使い移動し、必死に大森林ギルドへと向かって走っている。アルディウスが返した“呪い”から開放されると、一気に記憶が戻り死にたくなるほどの絶望を何度も繰り返し思い出した。

 アルディウスを追い詰め敵意を向けられた初めての日、アルディウスに謝罪をする前に消えてしまったと知った日、長年探し続けても手がかりのない毎日、そしてやっと会えると思った日には既にまた居なくなっていた6年前…。

 あの日の絶望が、記憶が、感情が湧き上がり苦しみを思い出させる。光のない両目で私を睨む幼いアルディウスが皮肉にも消えかかっていた姿をしっかりと思い出せた。

 思い出したと同時に、目的も思い出した。私はアルディウスに会わなければいけない。アルディウスがそれを望んでいないとしても。

 私の思いが呪いとなるほど強烈な熱意だとするならば、それは愛ではないのか?諦めるなど絶対に出来ない。私のアルディウスに会いにいかねば。

 直ぐに行動に移した私に、エリンティウスは顔色が悪いままなのに付いていくと言って聞かない。フィリスティウスすら公爵家の仕事を代理で執事に押し付ける始末だ。

 記憶が戻った私達を見て、アーダングラウド家の執事は少しばかり喜んでいるようだった。彼は幼いアルディウスを可愛がっていたようだから。



 「大森林ギルドには連絡を入れたのかエリン?」
 「それが、どうにも様子がおかしく…ギルドマスターのアントムから歯切れの悪い答えが…。」
 「なに?どういうことだ?」
 「それが……アルディウスが単独で森に入っている、と…。」
 「な、なんだと……!?」



 エリンティウスから聞いた話に私は絶句した。今回のスタンピートは過去に例がないほど巨大なものだと知っているからだ。そんな危険な場所にアルディウスが単独で…?何故そんな危険なことを!

 カッと頭に血が昇る。可愛いアルディウスが魔物に囚われたらどうするんだ!共に話を聞いていたフィリスティウスなど仏頂面が更に険しくなり、只でさえ怖い顔がさらに般若のようになっていた。

 とにかく情報を手に入れアルディウスを迎えにいかなければ。あの子を守らなければ!!



 「エリン、戦闘になっても大丈夫だな?」
 「はい、問題ありません。魔力回復薬も掻き集めてあります。」
 「よくやった。ギルドマスターに話を聞き、状況次第では森に入るぞ。覚悟は出来ているな?」
 「もちろんですとも。…兄上は…。」
 「俺が行かずしてどうする。アルディウスの兄である俺がな。……なに、この中で俺が1番強い。心配などしていないだろう?」



 フンッと鼻を鳴らしてフィリスティウスは言う。悔しいが、確かにこの中で1番強いのは間違いなくフィリスティウスだ。190cmを越す巨体はまさに引き締まった筋肉達磨。私が見てきた中でも最上級のαである。

 腰に携える長剣は並の人間では扱えないアーダングラウド家の当主が持つ家宝だ。魔物など瞬時に細切れにされるだろうな。



 「…見えて来ましたよ大森林ギルドが。」
 「さて、語らう時間もないが、ロンバウトよ焦るなよ。」
 「あぁ、わかっている。……すぐに行くからねアルディウス。」



 
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