上 下
67 / 103
復帰した俺に不穏な影

忘却の元幼馴染4(公爵視点)

しおりを挟む




 エリンティウスの様子がおかしくなり、病院へと運ばれ検査をされると”呪い返し“を受けたようだと魔術士の医師が言った。いつ、どんな折に”呪い“など掛けたのか。エリンティウスは”呪い“と言う言葉でさらに正気を失ったように泣き続けていた。

 精神の安定を、と。医師が言うには返された呪いは初めに掛けた者の強い思いが”呪い“となったのだから、こればっかりは本人が打ち破るしか方法がないと言われたそうだ。

 私があの子を呪うはずがない、そう言い続けていたが、魔術士の医師と少し話したあとには納得したように項垂れた。呪いたかったわけではない、とにかく可愛い弟が無事か心配なだけだった。そう呟くエリンティウスはもう何も話さなくなってしまった。

 ……アーダングラウド家には二人の兄弟しかいないはずなのに、エリンティウスは弟がいたと言い続けている。それが気になってフィリスティウスに会いに行った。

 長男であるフィリスティウスすら弟の存在は知らないと言う。隠し子でもいたのだろうか?疑問が募る私とフィリスティウスに、長く働くアーダングラウド家の執事が何か言いたそうに口篭る。

 とても悲しそうな顔をしていた。それは私にも向けられていて気になって仕方がない。ここ数カ月、こんなことばかりだ。

 エリンティウスも、この執事も私達が知らないことを知っている。それを兎に角はっきりさせたかった。



 「……この方に、アルディウス様に見覚えはありませんか?」



 初老の執事は大事そうに1枚の絵を見せた。そこには、灰色の髪にエリンティウスと同じ紅い目をした男の子がいた。

 赤いふくふくのほっぺに、くりくりとした大きな目。どこか控えめに微笑む絵姿にぞくり、と背筋が寒くなった。執事が言ったアルディウスの名が、必死に私へエリンティウスが伝えようとしていた名だとすぐにわかった。

 この子が、アルディウス?まるでヒヨコのような……。



 「うっ……!」


 思い出そうとすれば、あの時のように激しい頭痛が襲ってくる。決して思い出すな、と戒めるような激痛に吐き気すら覚えた。



 「アルディウス様は、16年前に行方不明になられたアーダングラウド侯爵家の末の子にございます。」



 ガンッ、と頭を鈍器で殴られたような衝撃が走る。そんな話は知らない…昔馴染みのアーダングラウド家でそんな事件があれば大規模な捜索が…。捜索が……されていたんだ。



 「6年前に、大森林ギルドで冒険者をされていると情報が入りジャンクオリアー卿…貴方様は自ら向かわれたはずです。エリンティウス様と、共に。」



 長い長い道のりを、必死に馬を走らせて大森林ギルドへと向かった記憶が蘇る。あれは、何故あんなにも急いでいたんだっけ。

 会いに行かなければいけない人が、いた、んだよな……そうだ、エリンティウスと共に人がいたんだ。

 頭が割れそうに痛む……それを彼は望んでいないと、攻撃をされているみたいにどんどん比例して痛みは強くなる。

 なんで思い出そうとすると、拒絶するようにこんなに痛む!耳の奥で声が聞こえた。



 「ロンバウト様のこと、心底っっっ大嫌いです。」




 幼さが残る声、それは過去、私に向けられた初めての敵意だった。それから謝ることすら許されず、彼は消えてしまったんだった。

 ぼたり、頭の痛みが消えたと同時に痛みに耐えかね鼻血が垂れる。鼻血は止まる気配はない。そして、思い出してしまった己の罪に、忘れていた事実に気づいた私は頭を抱えて絶叫するしかなかった。



 
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【完結】別れ……ますよね?

325号室の住人
BL
☆全3話、完結済 僕の恋人は、テレビドラマに数多く出演する俳優を生業としている。 ある朝、テレビから流れてきたニュースに、僕は恋人との別れを決意した。

変なαとΩに両脇を包囲されたβが、色々奪われながら頑張る話

ベポ田
BL
ヒトの性別が、雄と雌、さらにα、β、Ωの三種類のバース性に分類される世界。総人口の僅か5%しか存在しないαとΩは、フェロモンの分泌器官・受容体の発達度合いで、さらにI型、II型、Ⅲ型に分類される。 βである主人公・九条博人の通う私立帝高校高校は、αやΩ、さらにI型、II型が多く所属する伝統ある名門校だった。 そんな魔境のなかで、変なI型αとII型Ωに理不尽に執着されては、色々な物を奪われ、手に入れながら頑張る不憫なβの話。 イベントにて頒布予定の合同誌サンプルです。 3部構成のうち、1部まで公開予定です。 イラストは、漫画・イラスト担当のいぽいぽさんが描いたものです。 最新はTwitterに掲載しています。

悪役令息に転生して絶望していたら王国至宝のエルフ様にヨシヨシしてもらえるので、頑張って生きたいと思います!

梻メギ
BL
「あ…もう、駄目だ」プツリと糸が切れるように限界を迎え死に至ったブラック企業に勤める主人公は、目覚めると悪役令息になっていた。どのルートを辿っても断罪確定な悪役令息に生まれ変わったことに絶望した主人公は、頑張る意欲そして生きる気力を失い床に伏してしまう。そんな、人生の何もかもに絶望した主人公の元へ王国お抱えのエルフ様がやってきて───!? 【王国至宝のエルフ様×元社畜のお疲れ悪役令息】 ▼この作品と出会ってくださり、ありがとうございます!初投稿になります、どうか温かい目で見守っていただけますと幸いです。 ▼こちらの作品はムーンライトノベルズ様にも投稿しております。 ▼毎日18時投稿予定

結婚式当日に「ちょっと待った」されたので、転生特典(執事)と旅に出たい

オオトリ
BL
とある教会で、今日一組の若い男女が結婚式を挙げようとしていた。 今、まさに新郎新婦が手を取り合おうとしたその時――― 「ちょっと待ったー!」 乱入者の声が響き渡った。 これは、とある事情で異世界転生した主人公が、結婚式当日に「ちょっと待った」されたので、 白米を求めて 俺TUEEEEせずに、執事TUEEEEな旅に出たい そんなお話 ※主人公は当初女性と婚約しています(タイトルの通り) ※主人公ではない部分で、男女の恋愛がお話に絡んでくることがあります ※BLは読むことも初心者の作者の初作品なので、タグ付けなど必要があれば教えてください ※完結しておりますが、今後番外編及び小話、続編をいずれ追加して参りたいと思っています ※小説家になろうさんでも同時公開中

運命を変えるために良い子を目指したら、ハイスペ従者に溺愛されました

十夜 篁
BL
 初めて会った家族や使用人に『バケモノ』として扱われ、傷ついたユーリ(5歳)は、階段から落ちたことがきっかけで神様に出会った。 そして、神様から教えてもらった未来はとんでもないものだった…。 「えぇ!僕、16歳で死んじゃうの!? しかも、死ぬまでずっと1人ぼっちだなんて…」 ユーリは神様からもらったチートスキルを活かして未来を変えることを決意! 「いい子になってみんなに愛してもらえるように頑張ります!」  まずユーリは、1番近くにいてくれる従者のアルバートと仲良くなろうとするが…? 「ユーリ様を害する者は、すべて私が排除しましょう」 「うぇ!?は、排除はしなくていいよ!!」 健気に頑張るご主人様に、ハイスペ従者の溺愛が急成長中!? そんなユーリの周りにはいつの間にか人が集まり…。 《これは、1人ぼっちになった少年が、温かい居場所を見つけ、運命を変えるまでの物語》

生意気な弟がいきなりキャラを変えてきて困っています!

あああ
BL
おれはには双子の弟がいる。 かわいいかわいい弟…だが、中学になると不良になってしまった。まぁ、それはいい。(泣き) けれど… 高校になると───もっとキャラが変わってしまった。それは─── 「もう、お兄ちゃん何してるの?死んじゃえ☆」 ブリッコキャラだった!!どういうこと!? 弟「──────ほんと、兄貴は可愛いよな。 ───────誰にも渡さねぇ。」 弟×兄、弟がヤンデレの物語です。 この作品はpixivにも記載されています。

天涯孤独になった少年は、元兵士の優しいオジサンと幸せに生きる

ir(いる)
BL
ファンタジー。最愛の父を亡くした後、恋人(不倫相手)と再婚したい母に騙されて捨てられた12歳の少年。30歳の元兵士の男性との出会いで傷付いた心を癒してもらい、恋(主人公からの片思い)をする物語。 ※序盤は主人公が悲しむシーンが多いです。 ※主人公と相手が出会うまで、少しかかります(28話) ※BL的展開になるまでに、結構かかる予定です。主人公が恋心を自覚するようでしないのは51話くらい? ※女性は普通に登場しますが、他に明確な相手がいたり、恋愛目線で主人公たちを見ていない人ばかりです。 ※同性愛者もいますが、異性愛が主流の世界です。なので主人公は、男なのに男を好きになる自分はおかしいのでは?と悩みます。 ※主人公のお相手は、保護者として主人公を温かく見守り、支えたいと思っています。

異世界転生して病んじゃったコの話

るて
BL
突然ですが、僕、異世界転生しちゃったみたいです。 これからどうしよう… あれ、僕嫌われてる…? あ、れ…? もう、わかんないや。 ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━ 異世界転生して、病んじゃったコの話 嫌われ→総愛され 性癖バンバン入れるので、ごちゃごちゃするかも…

処理中です...