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復帰した俺に不穏な影
忘却の元幼馴染4(公爵視点)
しおりを挟むエリンティウスの様子がおかしくなり、病院へと運ばれ検査をされると”呪い返し“を受けたようだと魔術士の医師が言った。いつ、どんな折に”呪い“など掛けたのか。エリンティウスは”呪い“と言う言葉でさらに正気を失ったように泣き続けていた。
精神の安定を、と。医師が言うには返された呪いは初めに掛けた者の強い思いが”呪い“となったのだから、こればっかりは本人が打ち破るしか方法がないと言われたそうだ。
私があの子を呪うはずがない、そう言い続けていたが、魔術士の医師と少し話したあとには納得したように項垂れた。呪いたかったわけではない、とにかく可愛い弟が無事か心配なだけだった。そう呟くエリンティウスはもう何も話さなくなってしまった。
……アーダングラウド家には二人の兄弟しかいないはずなのに、エリンティウスは弟がいたと言い続けている。それが気になってフィリスティウスに会いに行った。
長男であるフィリスティウスすら弟の存在は知らないと言う。隠し子でもいたのだろうか?疑問が募る私とフィリスティウスに、長く働くアーダングラウド家の執事が何か言いたそうに口篭る。
とても悲しそうな顔をしていた。それは私にも向けられていて気になって仕方がない。ここ数カ月、こんなことばかりだ。
エリンティウスも、この執事も私達が知らないことを知っている。それを兎に角はっきりさせたかった。
「……この方に、アルディウス様に見覚えはありませんか?」
初老の執事は大事そうに1枚の絵を見せた。そこには、灰色の髪にエリンティウスと同じ紅い目をした男の子がいた。
赤いふくふくのほっぺに、くりくりとした大きな目。どこか控えめに微笑む絵姿にぞくり、と背筋が寒くなった。執事が言ったアルディウスの名が、必死に私へエリンティウスが伝えようとしていた名だとすぐにわかった。
この子が、アルディウス?まるでヒヨコのような……。
「うっ……!」
思い出そうとすれば、あの時のように激しい頭痛が襲ってくる。決して思い出すな、と戒めるような激痛に吐き気すら覚えた。
「アルディウス様は、16年前に行方不明になられたアーダングラウド侯爵家の末の子にございます。」
ガンッ、と頭を鈍器で殴られたような衝撃が走る。そんな話は知らない…昔馴染みのアーダングラウド家でそんな事件があれば大規模な捜索が…。捜索が……されていたんだ。
「6年前に、大森林ギルドで冒険者をされていると情報が入りジャンクオリアー卿…貴方様は自ら向かわれたはずです。エリンティウス様と、共に。」
長い長い道のりを、必死に馬を走らせて大森林ギルドへと向かった記憶が蘇る。あれは、何故あんなにも急いでいたんだっけ。
会いに行かなければいけない人が、いた、んだよな……そうだ、エリンティウスと共に謝らなければいけない人がいたんだ。
頭が割れそうに痛む……それを彼は望んでいないと、攻撃をされているみたいにどんどん比例して痛みは強くなる。
なんで思い出そうとすると、拒絶するようにこんなに痛む!耳の奥で声が聞こえた。
「ロンバウト様のこと、心底っっっ大嫌いです。」
幼さが残る声、それは過去、私に向けられた初めての敵意だった。それから謝ることすら許されず、彼は消えてしまったんだった。
ぼたり、頭の痛みが消えたと同時に痛みに耐えかね鼻血が垂れる。鼻血は止まる気配はない。そして、思い出してしまった己の罪に、忘れていた事実に気づいた私は頭を抱えて絶叫するしかなかった。
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