実はαだった俺、逃げることにした。

るるらら

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復帰した俺に不穏な影

忘却の元幼馴染3(公爵視点)

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 「やはりスタンピートの影響か魔物の動きが活発化しているな。ヨルダンと大森林ギルドからの情報は特に変わりなかったか?」
 「は、はい…特に…。」
 「なんだエリン、顔色が悪いな。少し休んで来るといい。働きすぎだ。」
 「私がこうなっているのは貴方のせいですよ…。」



 少し体調を崩したものの、忙しい毎日に変わりなく私は黙々と仕事を熟していく。何かぽっかりと感情が抜けてしまったような気もするが、きっと気のせい…だろう。

 アンダーグラウド公爵も少し寝込んだ話が来たが、すぐに仕事を熟すようになったと聞いて、一時的な疲れが原因だろうなと思った。の彼とは長い付き合いだからな。彼が良く働く男だと知っている。

 そんな日々が続く中、エリンティウスだけは顔色がずっと優れず何か私に問おうにも口篭ることが多くなった。



 「ロンバウト様も、兄上も本当に忘れてしまったのですね…。」
 「ん?何をだ?」
 「あの子を…ずっと探していた※※※※※※のことを…。」
 「今、なんて言ったんだ?うまく聞き取れなかったぞ?」
 「※※※※※※、わかりました?」
 「………ノイズが掛かったようにうまく聞こえん。」



 エリンティウスが伝えようとする何かはノイズが走り上手く聞き取れない。本人は痛みに耐えるように眉を顰めた。最近、エリンティウスはこんな調子で様子がおかしい。

 仕事に支障をきたしている訳ではないが心配になる。彼は優秀なαだ。彼がこんなにも弱る姿なんて見たことがない。

 グッと胸を押さえながらもエリンティウスは何度もノイズを走らせ私に何かを伝えようとしてくるが、私には一向にその声が届かない。

 これは、……なにか術が掛けられているのだろうか?エリンティウスの不調は異様なものに見えてきた。



 「病院に行ったほうがいいぞ、最近のお前は様子が変だ。」
 「………っこれが冷静にいられるというのですか!貴方はあの子を忘れてしまった!兄上までもが!!」
 「先程からあの子、あの子と…。」
 「※る※ぃ※※!あの子は…私の弟!懺悔をしなければいけない人!」



 エリンティウスは苛立ちを隠そうともせず、ノイズを出し続けた。こんな必死な姿のエリンティウスを、私は知らない。

 次第に声にハリが無くなり、痛みを堪えた瞬間にエリンティウスは大きく咳き込み血痰を吐いた。本人も驚いく……そして、悲しみに絶望した表情で呟く。



 「わ、私はもうあの子の名を呼べぬというのか……大事なあの子の名を、もう、二度と…?あ、…あぁ……そんな……。」



 口の端を血で濡らし、拭うこともせずにエリンティウスは自ら吐き出した血痰を呆然と見つめていた。声は枯れ聞きとりづらいが、掠れていたが彼の言葉は理解出来た。

 ぼろりぼろり、大粒の涙がエリンティウスから流れる。その表情は、絶望で染められていた。



 「エリンティウス!早く病院に行きなさい!血を吐いたではないか!」
 「……あの手紙が、あ※でぃ※※の思いだとするなら……そうか……そこまで、私はあの子に……。そっか……。」



 まるで自嘲した笑みをエリンティウスは零したまま、紅い目を押さえ嗚咽を漏らした。何故か、その姿が昔の自分と重なって見えた。

 そんな記憶はないはずなのに、エリンティウスの姿に自分の中の何かがざわついた気がした。


 
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