泡沫の欠片

ちーすけ

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波状攻撃爆散

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タテが本泣きで、ゆっ君の繰り返し教育のお陰でグズグズになった頃、下手糞呼ばわりで名誉を大きく傷つけられたご当人登場。
ちゃんと、到着一時間前に連絡を入れ、現場到着しても連絡を入れ、菓子折り持ってジャケット着てきた、細身神経質そうなお兄さん。
ここには、圧倒的に見た目整い過ぎた清牙がいるのでアレだけど、写真の撮り方によっては、イケメンピアニストとか煽れそうな人。
「お忙しい所、我が儘言って申し訳ありません」
初対面で当然の如く、控えめで固い言い方は、この事務所にいる現在の人間の中では、圧倒的な、常識人の片鱗である。
まあ、ここの、変人奇人の割合が異常に高すぎるのだが。
なので、通された会議室で頭を床にグリグリ本泣きしているタテの姿見て、一瞬でドン引き。
「え?」
固まった。
「本当に申し訳ありません。ここの馬鹿女があり得ない暴言吐いて、大変不愉快な思いをさせました。関係者として深くお詫び申し上げます」
取り敢えず、謝らないと話にならないと頭を下げたら、活動再開。
「いや、あの…それ…そう云う、話は…」
タテの、萎れてえぐえぐ泣く不細工顔に、本気で引いている。
まあ、誰が見ても、ドン引き間違いなしの姿ではあるが。
関係者知人知り合い関係なく、イイ年した女が鼻水垂れ流して本泣きしていたら、大抵ビビるって。
「ううっ、申し訳、ありません、でし…うっ「黙れ」」
そして頭押さえつけられて謝罪するタテがまた泣き出そうとしたところに、寝ている拓斗抱えた清牙が現れ、その人は更に後ろに下がる。
「拓斗起きるだろうが」
「うううっ、私の拓斗っっっっ!!!」
あ、今、ゆっ君つねった。
相当痛かった模様。
「あの、本当に」
戸惑いつつも、ボロ泣きのタテを見て、芸能人清牙が子供を抱く、なんか、不思議な絵図らには、更に困惑気味。
畳みかけるなら今だろう。
「すみません。この女、ちょっと前まで歌っていたバーのオーナーから、やくざに売られそうになって逃げ回ってる精神不安で、貴方に八つ当たりしてしまったみたいで。言い訳に「ああ、そう云うのは良いんです」」
あれ?
戸惑いつつ、ドン引きしつつ、その人ははっきり言った。
「私は、譜面通りに弾きました。それをこの人は、歌い難そうにしていた。だったら、なぜ、この人が歌い易い楽譜を用意していただけなかったのか。アレは、この人の音域からしても、本来の楽譜じゃなかった。なぜ、そのようなことになったのか、理由を知りたい。私の技術に不安があるのなら、そう言っていただきたかった。そもそも、なぜ、そんな私を呼んだのか。分からないことだらけです」
うわぁ。
謝罪どうのではなく、完全に、音楽本質そのものの、問題と云うか…。
間違いなく、これ、楽譜用意した駆郎君が悪いのでは?
希更が自ら、サポートに渡す楽譜を、用意するとはとても思えない。
犯人は間違いなく、駆郎君である。
勿論、駆郎君なりの考えがあって、用意された楽譜なんだろうなって事は、分かるんだけど…。
そこに、渦中の人登場。
「お早う。ウチまでマスコミ来て…」
そして、お客様を見る駆郎君の目が、纏う空気が、一瞬で冷たく光る。
「元哉、なにしてんの?」
あ、お知り合い、なのね。
険悪な方向で…。
「あ、まあ、いるのか」
そんな駆郎君を見て、一瞬嫌そうな顔をしてから無表情になったお客様。
それを見て、駆郎君の機嫌が更に低下。
声も、一段と低くなる。
「はああ? お前が、ここに、何の用だって、聞いてんだけど?」
「俺が、その人に下手糞言われたKだよ」
タテを見て駆郎君見て、それを受けた駆郎君の冷ややかな眼差しが、タテに。
そしてこれまた、駆郎君の口元に、薄っすらとした上から目線の笑みが浮かぶ。
「‥‥ああ、ね、え」
そこで、駆郎君が真っ黒にドヤ顔。
えっと、どうなってるんですかね?
「お前じゃぁ、ねぇ」
うわ、完全に、煽りやがった。
上から目線からの、鼻からの笑いに、冷めた笑い。
この人、駆郎君に完全、敵判定されてる…。
バチバチだよ!
「健吾。なんで、よりによって、こんなド素人にサポートさせようと思ったの?」
うわ、言いたい放題。
言い方、タテより酷くね?
「鉄太さんの推薦です。とりあえずの歌番組で組むのは、鉄太さんでしたので」
まあ、良く、超多忙なオジサマ押さえられたなぁと思わんでもないけど…。
「あの子の曲に、こんな下手糞、使うなよ」
うわぁ、ばっさり。
それを受けてのお客様の目線が、マイナスに。
怒ってるとか反発してるとかではなく、温度と云うか感情がマイナス傾向に。
「あなたはそう言うだろうと、鉄太さんにも言われていましたが、技術は鉄太さんのお墨付きです」
「現に、マユラさんに、下手糞言われてんじゃん。こんな、作詞作曲どころか、演奏も出来ない、楽譜読むのも怪しい、ド素人から」
「ちょっ、私までディスらないで!!」
相変わらず、タテ、立ち直り早いねぇ。
まあ、ゆっ君が面白そうって、タテを早々に開放したからだけど。
「おっ、清牙、お前…え?」
そして、のんびりやってきた舞人君が、不穏な会議室の空気に気付くよりも早く、目にした、拓斗抱えてる清牙の姿に、心底固まった。
「お前ら、イベントの企画打ち合わせやるって‥‥」
そこにマー君迄表れて、拓斗抱える清牙見て怯んだのは一瞬。
「清牙、お前、子供に何かあったらどうする? こっちに寄越せ」
「俺の技術がお前より劣るのは事実だ。だが、そこまで言われる酷い演奏は、今までにはないし、これからもしない」
「胸張って言うのがソレ? その程度で良く…まあ、サポートだなんだって、そんなもんか」
「そんな仕事はした事は無い」
「いや、清牙、お前、なにやってんの?」
「清牙、見てる方が怖い。寄越せ」
ああ、なんか、あっちでこっちで大混乱。
それを見て悪魔爆笑。
収拾つかねぇなぁ思ってたら、清牙が拓斗をお尻から背中を支える片手抱きにして、駆郎君の頭叩いて、マー君に指付き付ける。
「俺は、チビの扱い覚えた。壊さないし、安心して寝てるだろうがっ。そして、周りの大人五月蠅過ぎ。チビが寝てんだぞ。皆黙れ」
声を抑えた、完璧な清牙の反論に皆静まる。
ソレを見て、駆郎君を睨んで、お客様をも睨む清牙。
「そしてそこの馬鹿2人。ついでにマユラも、大体、話は分かった。全部、希更と、それを甘やかした、駆郎が悪い」
え?
清牙には、この良く分からない展開の状況、理解出来てんの?
「スタジオ行くぞ。マユラ、希更の演奏で歌え」
「清牙。それでは」
健吾君の言葉に、清牙は嫌そうに顔を歪める。
「駆郎」
お前が全面的に悪いんだろと見られ、駆郎君溜息。
「ごめん。こいつに、希更ちゃんと遊んでるとこ見られた」
それはもう、言い訳する前から、こっちの隠したい事、完全にバレているのでは?
「多分それもあるから、あの糞親父も、こんな、ド下手呼んだんだと思う」
「駆郎」
清牙の言葉に、駆郎君の顔が歪んで、プイっと顔をそむけた。
あれぇ?
駆郎君ってば…もしかして、清牙の顔を真正面から見たくない、表面上の言葉にはない、なにか、複雑怪奇な軋轢があったりしたり?
「取り合えず、こいつとしては、最初から難しくてもなんでも、正しい楽譜さえ渡されていたら、仕事は出来た。それをさせなかったのは、こっちだろって言いたいんだろ? そういう話じゃねぇって分からせるのが、手っ取り早い。そして、あの曲のサポートに、オヤッサンが呼ぶくらいだから、そうおかしな腕でもない筈だ」
まあ、そうだね。
「お前、事情は説明すっから、契約証書け」
「はあ?」
「あの曲書いたの、ガキなんだ。それをこっちが示した期限まで、黙ってろって奴だ」
「ガキ…」
その言葉を口にしたその人は、駆郎君を見て、そして泣きそうな顔になる。
「それならまず、その子に謝らせてほしい」
言いながら視線が完全に床。
萎れたように俯いてしまったんですが?
え?
それこそ、何の話?
いきなり、急激に真っ暗な悲壮感が漂い始めたんだけど?
「俺は、彼女に、酷い事を言ってしまった。だから、駆郎が怒っている」
ああ、うん。
駆郎君の敵認定は、希更が絡んでいたのだと。
それもあるから、最初から、そこはかとなくバレている要素がある為、オジサマは駆郎君に何も言わないで、Kのサポートに彼を呼んだ経緯が、あったんだと。
なるほど、分かり易い。
そして、単純明快な駆郎君の結論は、とにかく早い。
「お前は契約書だけ書いて帰れ。もう、それでイイだろ。サポートには俺が入る」
「駆郎。俺らの仕事と、被った時どうすんだ? テレビ、間違いなく被ってる、そう云う話だろうが」
舞人君の言葉に、駆郎君が嫌そうに顔を顰める。
「そう云う事なら、俺やろうか?」
「ユキさんは黙って下さい。あなたより、此奴のが、まだマシです」
それ、言っちゃうんだ。
ゆっ君笑ってるよ?
後で報復されるよ?
「だから、何度も言わせんな」
怒鳴らない。
だけど声の通りは良い清牙。
腕に抱く拓斗は揺れもせず、でも煩くはないのかスヤスヤ爆睡。
器用だな。
「だから、スタジオ移動すんぞ。希更の演奏とマユラの歌聞け。それが手っ取り早いってぇのっ。そこの。お前、契約書に署名はするよな?」
「はい、勿論。彼女が関わっているなら、当然かと」
ああ、なんか、一気に解決の兆し?
拓斗を抱えたまま歩く清牙に、それについて行く面々。
駆郎君は嫌そうにその人を見ているけど、舞人君に押し出されるようにして歩いて行く。
そして、健吾君に促されて動き出したお客様。
私は、完全に人の気配が遠退いてから、足が痺れて動けないタテを絶叫させていた。
いや、だって、早く痺れ取るには触りまくるのが一番じゃん。
スタジオ入って煩いって清牙に怒られたけど、悪いのタテです。
その間悪魔は笑ってました。
マー君は疲れたように、本泣きのタテ支えて移動していたけど。
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