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波状攻撃爆散
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しおりを挟むまあ、大体の事情は分かった。
「要は、やくざに追い回されて先行き不安で、拓斗に被害が及ばないかとピリピリしてる中での音合わせで、自分が上手く歌えないからって、サポートKyの人に八つ当たりしまくったと」
「立山、お前、本気で、相変わらず馬鹿だね」
「馬鹿通り越して、人として最低だろ」
「違うの! 本当に歌い難いんだもん!!」
まだ言うか!!
「そんな私生活乱れた精神状態で、万全の態勢で歌えたと? 人様をとやかく言えるだけの歌だったと、本気で言い切るのか? そもそもが、私が声かけて、長谷先生が声かけなきゃ、そのまま埋まってたような場末の歌手が、何様のつもりで、その道で当たり前に飯食ってるプロを、下手糞呼ばわりするか。恥を知れ」
「ううっ、私、プロだもん。元から、歌、そこらの歌手より断然巧いし、声綺麗だし」
「黙れ。売れてこその結果だろが」
「売れなくても、双子業界人じゃん!!」
「お前、この状況で、俺らにも喧嘩売る? 買うよ。人生終わらせるか?」
「皆して酷いの!!」
またもや始まったタテの嘘泣きに、健吾君がわざとらしいまでの溜息。
「せっかく寝た子供を起こさない」
そして健吾君が視線を流したのは、清牙の腕。
身体を清牙の胸に預けてすやすや眠る拓斗の姿。
「なんか、いきなり不安定に揺れたと思ったら、急にパタンって動かなくなって、寝た。だから、お前ら静かにしろ」
いや、まあ、清牙の正論珍しい。
って云うか…。
嫌そうな顔。
でも、感情のままに怒鳴らない。
健やかに眠る拓斗が可哀想だから。
我慢して拓斗のこと考えて、動いているのだ。
あの、清牙が。
なんか、清牙が急激に成長しております。
「よっぽど拓斗気に入ったんだね」
「柔くて温かくて、なんか表情コロコロ変わるし、ジタバタ動く。小っちゃくて柔いフニフニの手でペタペタしてきて、面白い」
まあ、子供なんてそんなもんだろう。
「寝たんなら、そっちのクッションに置いて」
「このまんまで良いじゃん」
いや、清牙が良いなら良いんだけど。
「清牙、その抱き方どうした?」
お尻の下に腕通して、身体を支えるようにもう片方の腕を撒き付け、小さな体を支えて抱く。
普通に、寝ている子供を不用意に揺らさず安定させる抱っこ。
そんな知識、清牙にある訳がないのだけど。
「僕教えました。子守得意です」
夏芽君の言葉に、ああっと納得。
全力で体力勝負出来るお兄さんは、確かに子供に好かれるだろう。
夏芽君は戦闘大好きだけど、基本が正義の味方を目指しているらしいので、女子供には優しい。
希更にも優しいし、私の無謀な我が儘も、余程がない限り付き合ってくれるくらいだし。
子守には最適な人種かもしれない。
暴漢が現れない限りは。
これからも、子供の前での流血が無い事を、祈るばかりである。
「でもタテ、拓斗、そろそろトイレ行かせたが良くない?」
ここに来て飲み食いしてるし、ホテルから逃げてここまでの間に、トイレは行けなかっただろうし。
「おむつにしたから大丈夫」
「いや、一度おむつ外してんなら、拓斗可哀想でしょ」
一度パンツにすると、おむつの厚みとか、気持ち悪くなるのは、想像するだけでも分かる。
当然、子供は嫌がる。
「でも、やっぱ、色々あって不安定だったから、おねしょするようになっちゃって。洗濯も、しばらくままならなくて」
まあ、そうなるだろうけど…。
「ここなら安全だし、起きたら戻せば?」
「着替えない。おむつもないから、結構ピンチ」
あ、そうでした。
荷物放り出して、逃げてきたんでした。
「取り合えず、ゆっ君が必要最低限買い出し走って、荷物もどこまで回収出来るか…」
放り出した荷物もそうだし、逃げて放置したままの部屋も、ヤクザが絡んでるだけに、何がどうなってるのか…。
「楓さんはマユラさんと、ネットで買い物してて下さい」
は?
健吾君は一体、この状況で何を言っているのか。
「こいつは、これからみっちり、本気で泣き叫ぶ迄説教するつもりなんだけど」
「母親が本気で泣き叫ぶ程の説教されているのを、子供に見せてどうするんですか?」
お前の母ちゃん頼りないから、お前も頑張れっていう叱咤激励?
もしくは、最悪の場合は、母ちゃん見捨てて逃げろ。
それが大事、とか?
絶対的な、必要教育の一環で?
「それに、当事者がもう到着します」
ん?
「マユラさんが下手糞だと扱き下ろした相手が、納得がいかないと、今日の説教を先日の連絡で聞いており、明確な理由説明を求めてきたので、合流を受け入れておきました」
つまり、名誉棄損の精神的苦痛による損害賠償請求的な話?
「うわぁ、大事」
にこやかなゆっ君はやっぱり、悪魔じゃなかろうか?
「それと、マユラさんが放り出した荷物は、チェックアウトの際に怯えたように慌てて不自然だったマユラさんに、子連れだったことも合わせて心配したホテルの人間が、後を追って、その経過を見ていたようです。救助介入こそしませんでしたが、放置された荷物は回収してます。その際に、呼んでいた警察にも話が通してありました。浅見がそちらの警察とも話してくれています」
つまり、浅見さんは捜査に関連あるであろう所轄に挨拶回り中と。
忙しそうだ。
清牙の日課に付き合っていただけ、だっただろうに。
「マユラさんの部屋は、別所が向かいました。あまり、期待しないで下さい」
だろうね。
ヤクザ絡み。
碌な事になってないだろう。
「元御主人の方も、こちらで人を向かわせています。浅見がそちらにも話を付けてくるので、警察も何らかの対処をします」
いや、短時間で、相変わらず仕事が早い。
「取り合えず、昨日の件で、外が騒がしくなってます。この事が漏れて、さらに騒がしくなりそうなので、間違っても、外出しない様に」
そう言って健吾君は出て行ってしまう。
「なら、私、きーちゃんのトコ「黙れ」…」
なぜ、この状況で、まだ逃げられると思うのか?
「要は、煩くならない説教すれば良いんだもんね。やっぱ、鍋に水?」
「イ…」
ゆっ君の手が、タテの口を覆う。
当然頭振って爪立てたくらいでは、悪魔の手は剥がれないし、そんな抵抗すれば、ゆっ君は容赦しない。
タテは面白いくらいに、椅子から蹴り堕とされ、矯正正座に。
「!!!!」
何か言いたいらしいが、悪魔は笑顔です。
「子供が寝てる間に、ね?」
にこやかなゆっ君の言葉に、タテの目に光る涙が嘘じゃないと感じた今。
相変わらずのお馬鹿っぷり。
タテが余計な事言うから、ゆっ君怒るんじゃん。
確かに、双子がデビューしても売れなかったのは事実。
それを今更、大々的に蒸し返してどうする?
まあ、八つ当たりだったのは分かるんだがね。
マー君なら、落ち込んで終わりだっただろうに。
相手を選べ?
私の説教は後でもイイかと、流石に思えた、今日この瞬間だった。
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