泡沫の欠片

ちーすけ

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波状攻撃爆散

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移動したスタジオでも、子供…希更巻き込んでの大騒ぎ。
拓斗抱えた清牙に、男の子3人ビビる。
子供達は分厚い仕切りのあるブースの中なんで、絶対的な距離感と壁があるの筈なのに、な。
そして不機嫌な駆郎君が、希更見てにっこり。
そのまま当たり前のようにスタジオの扉を閉めようとして、舞人君に叩かれる。
蹴り入れられるように奥へと押し込まれ、そのまま健吾君に促されて入って行ったお客様を見つつ、私ら残りが入ろうとして希更の絶叫。
『ああああああっっ!』
何事?
「大丈夫、元哉はやっぱ追い出して『大丈夫ですか!?』」
心配そうにわちゃわちゃする駆郎君押しのけて、ブースから出てきた希更は、お客様に突撃。
手を掴んで持ち上げて、それからにっこり笑った。
「駆郎君がごめんなさい。怪我、なさそうで良かったです」
それはもう満面の笑みに、舞人君の腕が駆郎君に巻き付いて、希更との距離が出来る。
それを見て、拓斗抱いた清牙が椅子に座り、希更を見る。
「何があった?」
嫌そうな清牙の言葉に、希更は口を尖らせる。
「駆郎君が、この人、階段から落とした」
バイオレンスな…。
幾つもの白い目が、駆郎君にグサグサ突き刺さる。
その空気に居たたまれなくなったのは、駆郎君ではなく、お客様。
「いや、駆郎の…褒められた行為じゃないけど、彼女に失礼な事を言ったのは俺、私なので」
「何を言ったとしても、階段から蹴り落とすのは、駆郎君がダメです」
あ、希更、ばっさり。
それを受けて、駆郎君固まり、顔が青ざめる。
そしてお客様も動揺しているらしく、視線が落ち着かない。
でも、まあ、当然の意見だよね。
暴力はいけません。
先に、言葉で意思疎通を図りましょう。
暴力はその後です。
「それも、このお兄さん、私を心配して言ってくれていたのを、駆郎君、なんか勘違いして、私の話全く聞いてくれなかったんだから」
うわぁ、希更の怒り、ここで爆発。
ぷーっと不貞腐れて、ギャンギャン吼えてます。
「そのまま仕事があるって駆郎君出て行っちゃうし、美咲ちゃんは救急車呼ぼうとしてたのに、てっちゃんが大丈夫とか笑ってるし」
それはまあ、大事だよね。
一軒家の…あの広さでの階段蹴り落とされたら、角度によってはヤバいだろうし。
その上相手はプロのKか、ピアニストか?
指に障害でも出た日にゃぁ、まあ、刑事告訴だってあり得たかもしれない訳で…。
「皆出て言った後、美咲ちゃんが言ってたよ。駆郎君は絶対に「うわあああ!! ハイっ、この話は終わりで!!」」
なんか、駆郎君が、舞人君本気で振り払って、希更の口塞いでる。
なんか、都合の悪い話を止めたかったんだね。
まあ、今は何とかなっても、後で幾らでも聞き出せるんだけど。
相手希更だよ?
私が聞いてるのに、黙秘出来る訳、ないじゃん。
「あの、お嬢さん。あの時は大変失礼な事を言ってしまって、申し訳ありませんでした」
床に膝をついて頭を下げたお客様に、口を抑え込まれた希更はきょとん。
そして、口を塞ぐ駆郎君の肩を叩いてから、駆郎君を睨んでお客様を見る。
「あのね。心配してくれたんだよね? お兄さんにも、ちゃんと説明出来れば良かったんだけど、色々起きちゃってワーワーなって、それどころじゃなくなったから、てっちゃんにちゃんと、伝言頼んだんだけど」
「え?」
お客様、何も聞いてない模様。
「あの、糞親父」
ああ、駆郎君唸ってる。
これは、近日親子喧嘩勃発の兆し?
「聞いてないんだ?」
「あ、はい」
「なら、今更だけど言うね。心配しなくても大丈夫。私は演奏者になりたいんじゃないから。でも、音楽楽しいよね」
「あ………」
そしてお客様崩れ落ちた。
「お兄さん大」
そして駆郎君、大人げなさ過ぎ。
お客様に近寄ろうとした希更を確保してブースの中に入ってしまった。
そして何やら密談中。
さっきのあれやこれややら、色々お願いしてる模様。
「マユラ、もう良いから、あっち行って歌ってこい」
「え? この状況で?」
「舞人、駆郎引っ張り出せ。あの馬鹿も、こっちで現実見せろ」
「あいあい」
面倒臭そうな舞人君が駆郎君をブースから引きずり出し、代わりに入ったタテが、マイクスタンド前に。
そこで成り行き見守っていた、玲央君に指突き付けた。
『坊や、そこは私の場所』
「マユラ、阿保やってないで…」
そう言って、内部スピーカーに話しかけた清牙が止まる。
「取り合えず、希更の演奏あれば歌えんだろ。ガキ共も大人しく見てろ」
そう清牙が言って、マイクスタンド前と、キーボード前での入れ替わり。
タテと玲央君が。
希更と璃空君が。
2人がスタンバイして、お互いでアイコンタクトしてから希更が曲を弾きだした。
「あの馬鹿」
「楓も黙ってろ」
分かってるけど…と、そう見守る中で始まった、希更の演奏によるタテの歌での『鈴百合』。
項垂れていたお客様がピクンと動き、顔を上げてからの聴きの態勢に。
そして、眉間に皺。
一回終わってから、清牙は「もう一回」と告げる。
それを聞いて、玲央君から水を受け取って飲んだタテが、もう一度構えるのを見て、希更が確認。
また、弾き始め、歌う。
そして最後まで弾き終わる前に清牙は「もう一回」と告げた。
そして今度こそ最後まで弾ききって、希更がへばる。
慌てたように璃空君が支えるのを玲央君が引き受けて、舞人君の静止振り切って駆郎君が中に。
そして、ぐったり気味の希更を抱えて戻ってきた駆郎君の目が怖い。
「清牙」
「わぁってる。ちょい無理させた。だが、それもこれも、全部、お前の所為だろうが」
「それとこれとはっ」
「もう良い!!」
それを遮ったのはお客様。
ぐったり希更に、いつの間にか水を持って来た健吾君。
それを受け取って、自分で飲む元気あるみたいだし、大丈夫じゃね?
「そういう、事…」
ん?
「まあ、それを、言われていても、確かに、俺に対処は出来なかった」
え?
何を落ち込んでる?
いきなり、なんか深刻モード?
「これだから、音楽に愛された奴らは…」
え?
なんか、恨み節始まった?
「ふふっ、俺には土台無理な、話でっ」
なんかぶつぶつ言ってます。
それをぶった切るのは、悪魔ゆっ君。
「今、自分の才能嘆かれても、聞かされる方が良い迷惑。気が済んだなら、署名して帰れば」
うわっ、ゆっ君超攻撃モード。
マー君止めろよと見れば、マー君の目付きも怖い。
「えっと、なんか良く分からんが、私、コーヒーとか飲み物淹れてくるし、穏便に行こうじゃないか」
皆で刺々しくて怖いんですよ。
音楽素人には、何が起こってるのか、さっぱり分かりません!!
「それなら自分が」
そう言って颯爽と消える健吾君。
違う、そうじゃない!
逃げたいのは私!
心構えする時間下さい。
そんな嘆き虚しく、清牙に呆れた目で見られた。
「楓、お前が、この中で、音楽に関しては一番の素人だ。感想」
何をいきなり振ってくるか!?
そうなるのが嫌で、逃げ出そうとして失敗した直後なの、分かっててやるなよ!!
「良く分からん!」
開き直って言えば、清牙の目付きが冷たい。
「音楽的なこと聞いてねぇ。マユラの歌は何度も聞いてんだろ。今日のマユラの出来は?」
それなら、まあ。
「30点」
『カエちゃん酷い!!』
阿保か、あの女。
「発声も準備もなく、いきなり歌ってんじゃねぇよ! 3回目まで声、全然出てねぇじゃねぇか」
『いや、だって。歌ってれば調子出てくるし』
本当の阿保か?
「歌番組、リハがあっても、待ち時間恐ろしく長いからな。このド新人。扱い最下層の中で、一発本番で、どんだけ自分の調子維持して最高潮でぶつけるかの話だっつってんだよ」
『だって、これ、お遊びだし』
「遊びでも、いきなり声出すな!」
『思いっきり歌いたい時も「立山、プロ舐めてる?」』
ゆっ君の氷の笑顔に、タテも大人しくなる。
それを見て、清牙は嫌そうに溜息。
「楓。さっきの3曲で一番マシなのは?」
「3番目」
「なんで?」
何でって。
「一番声高く出てた」
「希更の演奏は?」
「良く分からんけど、楽しそうだったのは2曲目?」
3曲目の終盤だと腕に違和感があったのか、顔引きつってたし。
「その違いは」
え?
まだ聞かれんの?
「だから、私は良く分からんと」
「全部、曲のアレンジが違うくらいは気付け」
マー君の言葉に、首をひねる。
そして考え、思い出す。
3曲とも、タテの声の出方が違った。
最高潮には程遠い。
全体的に、得意の高音が出てないし伸びてないし、ただでさえ無い声量が、マイク通しているにも拘らず、細やか過ぎてみっともない。
1曲目は特に、音程保つの精一杯の有様だった。
伸びないわ、高音言えるものじゃなく、誤魔化しつつ歌ってた感が半端なく、ドラマにかかっていた曲とは別次元。
間違いなく、歌番組でこのまま流れようものなら、「ああ、ドラマのは高度なミキシングだったんだね」と鼻で笑われる。
だからって、2曲目も酷かった。
一回目よりは多少声が伸びて来てたけど、Max高音程には程遠い。
全体的に音楽は暗い。
3曲目でやっと、高音歌えるかな?
でも、やっぱ、きつそうに歌って…うん?
段々、声に合わせて曲が高く…?
「タテが歌える高音域に合わせて、希更が、曲調整してた?」
タテのその時出る高音に合わせた伴奏で、きつそうだなとは思ったけど、無理やりひっくり返るような音程でもなく、ただただ、暗い曲調、だな…と。
ドラマの曲と、感じ、かなり違うな…と。
「だから、全部、間奏から、サビ迄、アレンジ変えてる」
え?
マー君の嫌そうな説明に、おいおいと思ってしまう。
これ、清牙に今言われた、超即興じゃん。
何の前準備もなく、いきなりで、3曲全部変えてきたの?
それも、タテの声の出る範囲ギリ攻めて?
え?
もう一度希更を見れば、水飲んで落ち着いたのか、顔色は悪くない。
だが、疲れてるのかぐったりはしている。
それを大事に抱える駆郎君は、私を見て溜息。
「今回は、俺のサポートが無いし、高音域の調整ぐらいしかしてないけど、舞人まで入ると、リズム迄変えてきますよ。希更ちゃんの曲に、決まった譜面は存在しません」
なに、それ?
「希更ちゃんは、歌い手や、その他メンバーの調子や勢いに合わせて、毎回違うアレンジで弾きます。勿論、原曲のキーを基本にしますけど。希更ちゃんが調子に乗ると、全体で喧嘩になります」
希更、あんた、何やってんの!?
「駆郎、お前も、希更に乗っかって結構やりたい放題だからな」
舞人君の突込みに、目を逸らす駆郎君。
「音合わせは、色々試す為の時間だし」
その手の言い訳で、好き勝手遊んでるのね…。
その話を受け、清牙が希更を咎める。
「希更。お前、毎回違う音入れるなっつってんだろうが」
「だって、気持ち良く、歌えた方が良くない? 出来るんだから、よりカッコ良くしたいし」
「お前の伴奏で歌ってると、毎回試されてるみたいで面白いのは確かだけど、毎回違うと、音響が困るんだよ。CEやらSE入れるタイミング狂うだろうが」
「だって、気持ち良く歌ってくれる方が、弾いてて楽しいし、舞人君もダカダカやってくれるもん」
「いや、合わせる身になれ? お前と駆郎が組むと、完全に魔改造だからな」
SPHYまで遊んで転がすド素人。
怖過ぎです。
「駆郎。定番の演奏も決めたんだよな? 希更の許可取って」
静かに清牙の流された視線を受け、駆郎君は思いっきり、またもや視線を逸らした。
絶対に、清牙とも希更とも視線を合わせようとしません。
ああ、コレ、ダメな奴。
「つまりは、お前が勝手に、定番楽譜決めたんか?」
「………」
ここで、だんまりしてどうするのか…。
それは清牙も思ったのだろう。
駆郎君を睨んだ後溜息を吐き、ブース内のタテを睨んだ。
「何よりマユラ」
あ、清牙ちゃんの声が低い。
「お前、声がブレ過ぎ。ボイトレは?」
『だって、その、自分なりに』
「やってないんだな?」
そう云う地道な訓練っぽいの、タテ、大っ嫌いだしなぁ。
『何より、そう云うのって、お金かかるん「健吾」』
「至急用意します」
そう、です……よねぇ。
「いや、明日俺が連れて行く」
その言葉に、タテの顔が固まっている。
清牙がらしくない事言いだした上に、私頼んでないし、そんな面倒なのはなくてもイイかなぁ的に。
そんな、分かり易いタテの感情は、誰も聞いていないし、早々に却下されており…。
健吾君が更に言い募る。
「ですが、それでは」
「分かってる」
びしっと、タテを指さす清牙ちゃん。
拓斗が起きてる時にはそれやるなよ?
教育上問題だから…では、なく。
「こいつの超高音域は、特化の専門家が必要だ。とりあえずは明日から、基礎毎日みっちりやらせる。基礎固める前に、専門家をなるべく早く探せ」
『えぇぇっ、私「我が儘言える立場だと思うなよ? お前のそのナイナイの状態でウチの看板下げさせるくらいなら、金輪際歌わせない方向で、完璧に潰す」ハイ』
完全に、清牙の目が座ってます。
清牙の本気の剣幕に、タテも黙る。
って云うか、タテも、一応の危機感はあった模様。
ただでさえ声量無い私より、更に声量無いのは、Vとしては致命的。
間違っても、今のタテじゃ、ライブはこなせない。
室内では勿論、野外なんて、あり得ない。
出来るのは、精々が歌番組の、一曲放送くらいなモノ。
声量肺活量体力、音程調整…もう、全部が全部、ダメダメです。
口パク音声有の他のパフォーマンス重視の、グループとかでのアーティストならともかく。
ソロの歌い手マユラでは、今のままでは使い物にならないって事である。
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