52 / 125
戯言から催事
4
しおりを挟む駆け付けてミーも最終リハを終わらせ、後は開場開演を待つばかり。
出演者である歌い手さんは、その為の衣装チェンジに余念がないが。
そこに忍び寄る駆郎君は、どっかりカウンターテーブルに座り、睨んでくる。
なにかな?
心当たりがあり過ぎる。
「イイんですか?」
それこそ、何が?
「清牙に、マユラさんが胸押し付けて、この後のホテルを誘ってますけど? 周りを一切気にすることなく」
本当に、お馬鹿な子だな。
「イイも悪いも、清牙がイイなら受ければいいし、嫌なら怒鳴り散らすんじゃないの?」
「嫌だとはっきり断りつつ、嫌そうに美凉華ちゃんにくっついて回って、美凉華ちゃんが迷惑そうにしているのを、舞人が爆笑してますが、マユラさんが懲りずに追い回してます」
まあ、何て愉快な楽屋でしょう。
「清牙には、嫌なら怒鳴り散らして泣かせれば良いと、言っといたんだけどねぇ」
「分かってるなら、貴方が止めて下さい…って言うか、アレ、なんなんです?」
一種のコメディだよね。
「端的に言うなら、私への嫌がらせかな?」
「友達、なんですよね?」
「昔の?」
私は思いっきり、伸ばしてくれた手を、振り払った人間だ。
そうされても仕方がないと思っているし、何を言われても仕方が無いとも思っている。
今、ここにいてくれることは有難いとは、思ってるんだけどね。
「私へはともかく、清牙は関係ないんだから、普通に嫌がってくれて良いんだけどねぇ。清牙こそ、どうしちゃったの?」
普段の清牙なら、喚いて目の前の椅子蹴飛ばして振り払うくらいのことはする。
流石に、女子を直接殴りつける事はしないだろうけど。
「見てるだけの僕にでも分かります。マユラさんは、清牙には全く欲がない」
「そんなことないんじゃない? 今回の話もあるし」
「そこまで、本気に見えないんですよ」
「あれ? 手抜きでもしてる?」
「まあ、それに近いものは感じますね」
あのお馬鹿さんは、本気で、何をやっているのか。
「だとしても、自分で誘っている以上、清牙が受けたら股開くって」
「清牙の曲がどうしても欲しい訳でもなく、清牙に恋愛感情がある訳でもなく、SPHYのVoへのステータス目当てでもなく、清牙とセックスしたいと?」
「ざっくり言うと、そんな感じかな?」
それでどうこうって事にはならないのに、あの子は本当にお馬鹿だから。
「それをあなたは止めないんですね?」
そうは言うけどさぁ。
「男ってでっかい胸好きじゃん。それが誘ってきたら、顔や性格抜きにして、一回乗っかとこうかって考えるような生き物でしょ?」
「変な一括りにしないでくれます?」
ああ、そう言えば、駆郎君は典型的な例外でしたね。
「判断基準はどうあれ、選ぶのは本人で、私が口出す問題じゃないでしょ?」
「なるほど。清牙のアレ、野生の本能か…」
何で、そこで、私を見る目が一層冷たくなるのかね?
「あの人外せば、純粋にイベント楽しめたと思うんですが?」
そう来る?
「でも、根性論に清廉求める、世界的祭典スポーツ選抜でもないんだから、汚れ欲望結構でしょ。キャラはないと、盛り上がらんよ?」
「裏事情から無駄に懇切丁寧に逐一放送する、どこぞの育成番組じゃないんですから、そんな盛り上がりはいりませんよ」
まあね。
なんだかんだと結果が全て。
途中経過なんかどうでもイイ。
そこを出すことで親近感だとか見守ってる感を前面に出して、成長一体感を出すのもまぁ、戦略なんだけど。
それは、その過程も合わせての売りで合って、結果の出来不出来が、どうでも良くなる。
歌なんてもんは本来、それだけ聞いて、相手に揺さぶりかけるもの。
それ以外を付随しなければ得られない結果なんて、ないも同じ。
間が開けば、意味を為さない。
一度なら有効だが、何度も使えば、逆効果。
その後には結局、結果だけが求められる。
なら、最初っから、結果だけで勝負するのが正道ってもんでしょ。
SPHYはそうやって、今いる訳だし。
折角SPHYが手掛けようって言ってんだから、その駒にも、正道走って貰わなきゃ。
「んじゃ、発破かけてきますかね」
いい加減、清牙が…ミー、限界なんじゃなかろうか?
立ち上がり、楽屋へ向かえば、近付けば近付くほど騒がしい。
「別に、一度試してみるくらい良くない? 私のおっぱいも悪くないと思うけど?」
「だから、いらねっつってんだろ」
「あっち、激しいって噂だったけど、そうでもない感じ?」
「だかぁらぁ」
関係スタッフが顔を顰めている中、扉を開け放ち、騒ぎの元凶を見る。
「タテ。最後の忠告。真面目にやれ」
「……やるし」
睨んでくるタテに笑い、そして姐さんを見れば、困惑気味にこちらを見ている。
「そいつ、本番まで隔離しましょうか?」
「まあ、大丈夫だと、思う…かなぁ?」
若干引き気味に、不機嫌清牙と、その清牙に張り付かれたミーを見る姐さんの目が、不安そうだったが、まあ、ね?
「清牙、女性楽屋に入らない」
基本はそこ、だからね?
「だって、そいつが押し入ってきて」
「阿保か」
普段の清牙なら、振り払って引きずり出すぐらいするだろうに。
まあ、本番直前の、胸ばっかりのロングドレスにピンヒールの女の髪を引っ掴んで引き摺り出すのは、流石の清牙でもしないだろうけど。
どう見ても、そこまでキレてるようには見えないしな。
面戸臭そうと云うか、戸惑ってる感じ。
「扉にはね。施錠機能がついてんの。なぜ使わない?」
だから、籠ってろって言ったじゃん。
部屋に入ったら鍵かける。
これ、日本の常識だと思ってたんだけど?
「……」
清牙もやっと、その事実を思い出したらしい。
清牙の場合、いつもお世話係さんが何くれとやってくれるから、自分で何かをする発想が低過ぎるのだ。
「カエちゃん」
涙目の、背中におんぶ虫の清牙を引っぺがし、駆け寄ろうとするミーの前に手を広げる。
「あんたね? この程度の事で泣いてたら、独り立ち出来んでしょうが。いい加減、自分の身は自分で守れ」
幾ら、SPHYの後ろ盾があっても、その場でどうにかしなければならない問題はある。
その場を逃げ切れればなんとかなるかもしれないが、自分で何かをしなければ逃げ出すことも不可能な危機だって、なくはないのだ。
今のうちに、安全圏だからこそ、頭使って間違えろ。
「それでは皆様。開場10分前です。ご準備お願いいたします」
にっこり言い切ってから部屋を出れば、壁にもたれて肩を竦める駆郎君が一言。
「最初から、そうして下さい」
最初から言ったところで聞く筈ないし、聞いたとしても5分で終わるじゃん。
その後の方が長くなって、とっても面倒。
「それで、舞人君は?」
「流石に外撮影はカエさんに任せるのは危険なので、大笑いしながら出ていきました。もう戻ってきます」
私の何が危険なのか?
今更逃亡はせんって。
0
お気に入りに追加
1
あなたにおすすめの小説

百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
クラスメイトの美少女と無人島に流された件
桜井正宗
青春
修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。
高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。
どうやら、漂流して流されていたようだった。
帰ろうにも島は『無人島』。
しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。
男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?
ちょっと大人な体験談はこちらです
神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない
ちょっと大人な体験談です。
日常に突然訪れる刺激的な体験。
少し非日常を覗いてみませんか?
あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ?
※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに
Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。
※不定期更新です。
※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

会社の上司の妻との禁断の関係に溺れた男の物語
六角
恋愛
日本の大都市で働くサラリーマンが、偶然出会った上司の妻に一目惚れしてしまう。彼女に強く引き寄せられるように、彼女との禁断の関係に溺れていく。しかし、会社に知られてしまい、別れを余儀なくされる。彼女との別れに苦しみ、彼女を忘れることができずにいる。彼女との関係は、運命的なものであり、彼女との愛は一生忘れることができない。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。

体育座りでスカートを汚してしまったあの日々
yoshieeesan
現代文学
学生時代にやたらとさせられた体育座りですが、女性からすると服が汚れた嫌な思い出が多いです。そういった短編小説を書いていきます。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる