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戯言から催事
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しおりを挟む「さて本日はSPHY主催ライブ、ですが。いつもと違います。歌うのは3人の女性アーティスト。知っている方もいれば、知らない方もいるでしょう。その中から、皆様には、SPHYの楽曲提供に相応しいアーティストを選んで頂きたい。ああ、勿論、無理にとは言いませんよ? 該当者無しでも構いません。皆様の心でお選び下さい」
嫌だわ、健吾君ったら厳しい。
いつの間にか、そんな選択枠まで用意してたのか。
流石、SPHYの下僕代表。
下僕責任者の頂点。
SPHY至上主義。
「前振りも経歴も、この場には不要。これから歌を聞いて見て、それだけで、お選びください。では早速始めましょう」
暗転直後に出てくるのはミー。
厳選なじゃんけんの元、出番は決められた。
最悪、ミーの収録が押した場合は、ミーを最後に回す案も出ていたんだけど、間に合って良かった良かった。
大手事務所の全面協力の元、フワモコアイドル全面押し出した、可愛らしい姿。
上半身はもこもこで、髪飾りももこもこ。
だけど、下はバルーンなミニスカ。
可愛らしさを追求しつつ、すらりとした生足は惜しみなく出す。
まあ、残り二人が巨乳なので、胸元晒しても勝ち目はない為の戦略。
曲もSPHYと言えばの、復帰後で一番売れた、某アニメ曲『慙愧』。
誰もが知っているし、耳に聞き慣れているし、SPHYの曲の中ではかなり歌い易い分類。
原曲イメージはさておき、間違いなく振付師がついているだろうダンスは、あざとく可愛い。
歌は、練習してきたんだろうねぇ。
踊りながらにしては充分な及第点。
ただ、総合評価として、歌は可もなく不可もなく、アイドルっぽく可愛く踊って、男達の目に優しい。
序に言うと、下僕達は、ミーがSPHYの身内で可愛がられており、その流れのままの応援もあるので、敵愾心もなく、娘さん頑張ってるじゃん目線の温かい目。
どう考えても、残り二人には不利な始まり。
そのままラストまで可愛らしく歌い切り、暗転。
その次出て来た姐さんは、事務所に来た時同様シンプルな白シャツ。
ただ、身体に沿ったシャツに細身の黒パンツで、でっかい胸がこれでもかと自己主張。
一部に、どこぞで聞いた「類友」の声が上がっているが、まあ知らない。
選んだ曲がまた、あのホラー映画の主題歌『彼岸』。
SPHYの下僕達なら間違いなく、映画は見てはいなくても曲は知っているだろうソレ。
けど、あれ、集客率あんま良くなかったからねぇ。
歌番組でも多少流れていたので、知ってる人は知っている、SPHYにしては売れ行きがイマイチだったエロ曲が、女性にしては低く逞しい声で始まる。
見たまんまのゴスペル系。
力強く、唸る様に響く声に、一瞬で会場が静まり、そして歓声。
結構やるじゃんと、納得された模様。
清牙の、歌う時だけは繊細で艶やかでエロい、男性にしては高めの声とは違い、ただひたすら力強い。
力でねじ伏せるように歌い切った後に、会場に広がる怒声は大きな盛り上がりの証明。
そしてまた暗転して出てきたのが、胸がっパリ開いた、エロいロングドレスの、エロい垂れ目の巨乳。
それだけで会場は静まり息をのみ、始まったのが、医療ドラマの主題歌『思ひで』。
こっちはホラー映画とは逆に、結構な視聴率のあった人気ドラマだけに、結構売れた曲。
当然、知名度も高い。
そんな、母親への愛を謳うその歌を歌い出す前に、奴は言った。
「やっぱなし。音いらない」
はあ?
天下のSPHYの演奏遮って、お前何言ってやがる?
そんな敵意で会場が満ち溢れる中、静まり返ったその中に、突如響く天使の歌声。
高く、どこまでも高く透き通る声は、清牙にはない。
だが同時に、清牙の持つ声の強さもなく、隠微な艶とも真逆。
だけど、ただただ綺麗に高らかと響く声に、何かを怒鳴ろうとしていた会場は静まる。
一度サビ迄歌い切ってから合図を送り、舞人君のドラムが走り、駆郎君のギターが響く。
そこから続く高らかな声には、清牙の声にはない、只澄んで響く清らかさがあった。
静まったまま、歌が終わり暗転。
静けさの中、視界が戻り、颯爽と現れた司会者がニヤリと笑う。
「さて、投票開始。これから24時間以内ですよ。私が何かを言うのは違うでしょう。心のままに投票下さい。貴方の決定が、全てです」
そこで言葉を区切り、司会者はさらに笑う。
「そして、こんな早過ぎる時間に、全部終わりました解散ですと言われて、皆様、納得出来ますか? 出来ませんよね? 当然、SPHYだって、消化不良。我らが「うるせぇ。さっさと歌わせろ!!」」
司会を蹴り飛ばしてステージに立つ清牙は獰猛に笑う。
「俺の歌、好き勝手弄りやがって。これからが本番だ。ついてこい!!」
言い切るより早く走るギターに、叩き込まれるドラム。
先ほど歌われた順番通りに歌われた曲は、同じであって同じではない。
これは俺の歌だ、俺が一番だと、絶好調に伸びる歌声に、会場が湧く。
やっぱ、これだよこれとばかりに、清牙の声に張り合う様に、客の声が重なり混ざり、会場を揺らす。
そのまま、新曲のアニメ主題歌と車のCM曲まで歌って、まだ歌い足りないとごねる清牙を駆郎君が引っ張って、本日終了。
アンコールはなし。
飽く迄も、メインは楽曲提供バトル、だからね。
バーカウンターではアルコール回転で大忙し。
皆でワイワイ寸評しながら投票する者もいれば、1人でじっくり考える者、様々居るらしい。
本日はこの後のライブ予定はないので、SPHYの曲が延々流れるようだ。
そんな中、ハイウエストのキャミワンピの上にざっくりカーディガンを羽織ったタテが歩いてきた。
舞台メイクも落とし…ても、顔付きエロいけどね。
メイクが全体にあざとい系。
「清牙、歌い足りないって喚いてたよ?」
「それ、いつもの事。あいつ、ライブ大好きだから」
「それ、分かる」
ライブ会場で投票しているのか、仲間と騒いでるのか、こちらに気が付いては視線が流れ、結局スマホに戻っていく。
SPHYの下僕達は、基本お行儀が良いのだ。
ライブ中ははっちゃけるけど。
「楽しかった?」
「酔っぱらいのエロ親父の相手するより、よっぽど」
そらそうだ。
純粋に、歌を聞いて反応してくれるのだ。
勘違いした奴ら相手の嫌々より、そら楽しいだろう。
「カエちゃん。私、ちゃんと歌ったよ」
「そうだね」
歌うの好きだからね。
私に腹を立てようが、思う事があろうが、何だろうが、そら、客がいる前で、手抜きはないだろうと、思ってたけど。
まあ、リハ総無視で、好き勝手すると迄は思ってなかった。
「私も、色々あったけど……」
あ、ヤバい。
「カエちゃんの馬鹿ああああああ!」
ぎゅうぎゅうに抱き着いてくるタテを慌てて抱き留める。
一瞬で何事と視線が集まるが、にっこり笑えば、視線を外してくれた。
「いっつもいつも、何にも言わないで、勝手に決めて!! もうっ、もうっ!!」
ぎゅうぎゅうに抱き着いてきて、バーカウンターの高めの椅子のおかげか、身長差が和らぎ、どこぞの誰かと同じく、胸に縋りつくのは止めてくれ。
「相変わらず、おっぱい気持ちイイし!!」
「俺のだからっつって」
あ、なんか、遠くから雄叫びが聞こえる。
「私が育てたおっぱいだもん!!」
「遺伝子上の発育な。誰にも育てられてないから」
「カエちゃんがまな板の頃から育てたもん!!」
「流石の私も、小学校入学そうそう、胸はないって」
「私のおっぱいを、あのエロガキ!!」
「顔。後声」
さっきまでのエロい儚げな雰囲気、完全、吹き飛んでるから。
顔上げて人の胸押し上げて遊ぶな?
「楓さん。あちらにお願いします」
呼びに来た健吾君の笑顔が若干、ひきつり気味。
まあ、さっきの雄叫びと良い、絶対、煩いのが待っている。
「私、帰ってイイかな?」
「駄目です」
「それなら私も一緒に行く」
ぴしりと固まる健吾君の笑顔もものともせず、べったり人の肩に頭乗せて胸を揉むタテ。
「今日泊めて」
「あいにく予備の布団がなくてな」
「一緒で良いし」
「アンタ、絶対に胸揉むじゃん」
「そりゃ揉むよ? 柔いし、気持ち良いモン」
「却下」
「シングルマザーに、余分なお金はないの」
「えぇぇ? 今ならまだ、電車走ってるし。アンタの元旦那、IT企業の社長じゃん。養育費は確り貰ってんでしょ?」
「今日は、お家に帰る気ないモン。カエちゃんが泊めてくれないなら、その辺で男引っ掛けちゃうから」
「そう言うのは止めなさい」
「だったらいいよね?」
「カエちゃん。本当に、清牙さんが暴れ出てくるから、戻って」
いつの間にか、健吾君は戻り、次の説得役にミーが来た。
フワモコ衣装からは着替え、普通にチュニックにレギンス姿。
完全なるオフ姿である。
そのミーの姿に、目を和ませる下僕達。
下僕達、ウチの娘さん好きよね?
ミーだろうが希更だろうが、ニコニコしていると、下僕達もニコニコになる不思議。
今はミー、困り顔だけど。
それもまた、可愛い、だろう、多分。
「やだ。このまま、カエちゃんは私と帰ります。我が儘坊やには適当に言って」
「いえ、私の叔母なんで、勝手に連れて行かないで下さい。私未成年なんで、深夜俳諧で捕まります」
それはさすがにないと思うよ?
て云うか、誰の入れ知恵?
ミーに、その切り返しスキルは絶対にない。
「そっか。なら一緒にカエちゃん家泊まる? お風呂広い?」
「1人でもギチギチ」
「えぇぇぇっ。皆でお風呂入ろうよ」
「入らんし、ミーは寮に帰るからな?」
「じゃあ、今度皆でお泊りしようね? 今日は、私がカエちゃんの家にお泊りだけど」
「本当に、健吾さんと舞人さんの顔が死んでますから!!」
ミーの本泣きにより、おんぶお化けと化したタテを背中に引き連れて、楽屋へ。
酒の一杯くらい、ゆっくり飲ませろよ。
扉を開けた途端、私の腰は清牙によって引き寄せられ、だがしかし、背後から腕を回したタテの手に、がっつり胸を鷲掴み。
「離せ!!」
「もうっ、乱暴っ」
「離せっつとんのじゃ!!!」
「煩いなぁ。代わりに私の触らせてあげるから」
「いらねぇよ!!」
「だよね。大きさはそんなに変わんないのに、カエちゃんの方が柔いんだよね」
「知らねぇよ!!」
ああ、煩い。
「二人とも離れろ」
「「やだ」」
仲が良いね、お前ら?
ガルガル、人の頭の上で唸るの止めてくれないかな?
「お前、やっぱレズだな!? なんか、変な気がしてたんだよ!!」
「違いますぅ。私はノン気の異性愛者ですう」
「だったら」
「ただ、カエちゃんのおっぱい、ホント柔らかくて気持ちいんだもん。これ以上のおっぱい、ちょっと他にないから、触るの好きなだけ」
「触るな!」
「やだってば。そもそも、私の方が早く、それこそ、まな板の頃から育てて、愛してきたんだよ? 毛も生え揃ってないような小僧に、とやかく言われたくありませぇん」
「毛はあるに決まってんだろうが! って言うか、お前に見せたことはねぇよ!!」
「ギャンギャン五月蠅いなぁ。これだからお子様はぁ」
「だから触るな!!」
「やだって言ってるでしょぉ!」
「俺のおっぱいだ」
「私のおっぱいですぅ」
ホント、いい加減にしてくれないかな?
「私のおっぱいは私の付属品であり、譲渡されることはない。お前ら、離れろ」
「ああ゛?」
「カエちゃんが意地悪云う」
唇を尖らせて垂れ目の上目遣いで清牙を見てから、私の腕を抱き込んでおっぱいを押し付けてくるタテ。
「当たってる」
「当ててる。これでお相子」
「私は、人のおっぱいに執着はないけどな」
自分のにも、あまりないけど。
っていうか、この2人が特に、私のおっぱいに執着し過ぎている気がする。
「もう終わったし、公平性とかもないし、良いじゃん。帰ろ? 一杯話したいことあるし」
話をなぁ、聞くのは良いんだよ。
だけど、話すのは苦手と云うか、さぁ。
「酒が入ると、あんた、脱ぐしキスしてくんじゃん」
「ちょっとくらい良いじゃん」
「よくねぇ!!」
だからね?
煩いんだって。
暑いんだって。
「良し分かった。飲みに行こう! 健吾君、ミー宜しく。姐さん、カラオケ行きましょう」
「は? 私も行くの?」
「え? イイの?」
「良くねぇよ!!」
さっきから五月蠅いなぁ。
「清牙、私は旧友と親睦を深める必要があります。子供は大人しく帰りなさい」
「子供じゃ「酒飲めないじゃん。アンタが来ると、酒飲みにくい」っっっっ!!!!」
ごめんねぇ。
清牙が一番嫌な、自分ではどうしようもない年齢の事言っちゃって。
「駆郎君舞人君、清牙お願い」
その言葉に、2人の行動は早かった。
「いやまあ、この場合、仕方ないとは思うんですけどねぇ」
「本当に面倒だな」
がっつり背後から羽交い絞めする舞人君と、そこに気を取られて足元お留守になった清牙の足元を引っかける駆郎君。
「てんめぇらっ!!!」
巻き舌ですねぇ。
「さっさと行っちゃってください。あんま持ちませんから」
「じゃあ、清牙、良い子に帰る様に。お疲れ様でした」
慌てて荷物をひっつかんだ姐さんの腕を掴み、ライブハウスの外へ。
取っ捕まる前にと、目に入ったカラオケボックスに飛び込んだ私達は、ちゃっちゃと酒を頼むのであった。
酒でも飲んでないと、やってらんないのでな。
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