泡沫の欠片

ちーすけ

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怒涛の催事

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ご飯も食べて、出来ないものは出来んと開き直った清牙が、ゲーム対戦で熱中しすぎて駆郎君とムエタイが始まりそうになったりと、騒がしく過ごしていたら、舞人君が立ち上がる。
「希更、ミー行くぞ」
どこに?
なぜに?
そんな2人に、舞人君は笑う。
「BERIDE。見たいんだろ? 話付けてある。まあ、袖からだけど、見れんよりはマシだろ」
いつの間に?
「え、でも…」
清牙を見て私を見て戸惑う希更の姿に、駆郎君の笑みが深くなる。
「希更ちゃんが、見たいの?」
黒いです。
「えっと、でも、今日はここから出ない方が、良いんだよね?」
行きたい。
行きたいけど、大好きな駆郎君を困らせたくないし…と分かり易い希更の姿に、駆郎君が折れる。
「大丈夫。一緒に行こうね」
「イイの?」
「大丈夫だよ」
にこやかな会話だけれど、全然大丈夫な気がしない。
「つー訳で、姐さんは清牙宜しく」
「宜しくねぇわ」
なんで、私だけ居残りなのか。
「私も「俺も行く」」
ほらって顔の舞人君に、言いたい事はあれど…。
「希更もミーも」
「清牙さん、カエちゃんお願いしますね」
「行ってくるね」
置いて行く気満々である。
私の保護者肩書どこ行った?
「清牙。1人で「暴れるからな」」
妙な脅迫は止めて下さい。
「じゃあ、行ってくるな」と、舞人君は娘さん達+駆郎君にスタッフ2人を連れて、にこやかに旅立ってしまう。
「ちょっ」
「ほら、行くぞ」
当然のように肩を抱くな。
やっぱりお前も行くのかと、周りを見るが、世話係がいない。
残っていた黒服のお兄さんを見れば、頷かれた。
「御一緒します」
それ、違う。
いや、私じゃ清牙の本気の暴走は止められないんだし、必要措置?
慌てて追いかけて、グネグネの通りを駆け足。
清牙は足の長さがあるので余裕な所がまた腹立たしい。
機材やら人やら、どうしても通りは狭くなってしまう。
その合間合間に横道があるので、巨大迷路みたいなものだし。
時々表にも出るから、方向感覚が分からない。
こっちは見失ったら、方向音痴で自由人の王子清牙しか残っていないのだ。
下手すれば、自分達のブースに戻ることさえ難しい。
不安しかないので、追い駆けるのも必至だ。
そのまま何とか追いついた場所では、キラキラしい爽やかな少年達が舞人君と言葉少なに話し、希更とミーがキラキラ集団と握手。
そしてそのまま会場へと出て行ったのだが…。
「駆郎ざまぁ」
お前、言い方、な。
ついさっきまでのべた甘乙女モード希更が、完全にファンモードに移行しており、駆郎君が全く目に入っていない模様。
キラキラしい眼差しで、黒い駆郎君の視線に全く気が付かないまま、ステージに釘付け。
それを見て舞人君は苦笑いし、ミーと頷きあっている。
まあ、希更はまだまだお子ちゃま。
恋愛脳がそんなに育ってないから、ちょっとした事で気が逸れるのだよ。
だが、真っ赤な顔してキラキラお目眼で、歌って一緒に手だけのフリ踊っている姿を見ていれば、好きなのは丸分り。
駆郎君の顔が顰めっ面になっていくのも、よく分かる。
分かるんだけどねぇ。
「なんで、あんなんが良いんだよ。俺の方が歌巧いし、カッコいいし、足長いし」
最後のは確実に、身長問題だからね。
そしてなぜ、お前までがブスくれる?
「今の、アイドル様だよね」
ダンスメインで大勢で、要所要所でソロ立ち。
オバチャンには、グループの違いも歌の違いも、ダンスの違いも、良く分かりません。
正直見分けはつかないけれど、希更からすれば、大きな違い。
なんかやたら詳しく色々言っていたもん。
「因みにミーはtuwevulファンです。小遣いの大半だけでなく、バイト代まで注いでいます」
「あ゛? どう考えても、単体なら俺の一人勝ちだろうが」
何と、競り合ってるんですかね?
だが、言える事もある。
「清牙にはない、可愛さ謙虚さ爽やかさと、ダンスじゃね?」
清牙、ライブ中、煽りはするが、踊らないじゃん。
まあ、あんまり、踊っているロックバンドは見た事ないけど。
昔はいたんだけどねぇ。
最近のは結構大人し目だよね。
棒立ちとか、ウロウロするぐらい?
跳ねたり股割りしたり、マイク倒したり、マイクと踊ったり、それも、個性だと思う訳だよ。
「踊り、か。踊ればイイんだな?」
そして、なぜか、清牙の何かに火が付いた模様。
「駆郎、出るぞ」
「何?」
たったか、駆郎君の肩を組んで、耳元で何か。
一瞬固まった駆郎君だったが、清牙が来てもステージ釘付けの希更を見て思うところがあった模様。
頷いて、歩き出す清牙と駆郎君。
あんたら、どこ行こうとしている?
そっち、ステージ。
そして、袖にいたスーツのお姉さんとジャンバーの人に何か言って、マイク強奪。
そのまま、曲終わりに当然のようにステージに出て行ってしまう。
「姐さーん」
そしてそれを見ながらの、ゲラゲラ笑いながらの舞人君の手を合わせてのおネダリ。
「はいはい。いってら」
もう、こうなっては止まらないだろう。
私達は動きませんよ。
2人も3人も同じである。
結局は3人でいきなり飛び出した奴らの姿に、現在のステージ主がびっくり。
そら当然だよね。
会場も驚いてるんだか、喜んでるんだか?
キャーキャー、SPHYのライブではあまり聞こえない黄色い爆音が膨れ上がり、メインボーカルらしき男の子が戸惑った声を出す。
『え? SPHY? え? 清牙さん?』
『許さん』
お前、本当、言い方、な。
『え? 俺らなんかしました?』
『俺らの姫達が、お前ら見てキャーキャー言ってるのが面白くない』
『は?』
ぽかんとした顔に、一斉に上がる爆笑。
どんな理由?
皆そう思っただろう。
『さっきの、サビだけでイイ。ちょっと見せろ』
えっと、何様かな?
清牙は、後ろにいた他のBERIDEのメンバーにマイク押し付け、そして駆郎君舞人君仲良く並んで即席ダンス講座開始。
なぜか、キャーキャーお嬢さん方の黄色い声援が響き、妙に納得。
即席な筈なのに、なんか、当たり前に踊ってるし。
そう言えば、清牙、昔アイドルだった。
流したような簡単な動作でも、違和感はなく動いている。
間違いなく、踊れる人の動きである。
そしてなぜか、駆郎君も舞人君もざっざっと動いて違和感ナシ。
なぜに、踊れるの…って言うか、どうしてそうなる?
そんなこっちの笑いも何のその、当然の様に、スマホ抱えるファンに、スタッフ。
まあ、貴重映像、だよね。
その許可くらいは、清牙様も事前に出してた模様。
『よっしゃ、行くぞ見とけ』
そして宣言するのはステージ袖。
おい、プロ。
客はどうした…と思いつつも、始まる先ほどの曲。
当然、即席のダンス口座はサビの部分だけだったので、清牙がマイクを奪い返し、その斜め後ろに駆郎君と舞人君が出てそれっぽく歌って踊っている。
違和感はないが、違和感ないように、3人立てて合わせてくれている、BERIDEの皆様がお疲れ様である。
まあ、皆笑顔なんだけどね。
突然のステージジャックに、嫌そうな顔する事なく楽しそうに踊っている謙虚さよ。
メインV勝手に奪って、清牙歌って踊って好きにしてるのにね。
そして、サビの部分に入る前に、後ろの少年にマイクを押し付け、なぜか3人が前面に出る。
最前線で3人仲良く並んで本気で踊りだすとか、マジですか?
ファンの皆様キャーキャー言ってますよ?
最早、誰のファン、観客なのかも分からない。
「これ、大丈夫なのかね?」
「大丈夫じゃねぇよ!!」
そこに走り込んできたマー君は、汗だくでご立腹。
スタッフ集めてなんやかんやと指示を出している。
まあ、当然だよね。
全く予定になかったステージジャック。
タイムテーブル大丈夫なのかね?
「どっか、削っちゃったりしちゃう?」
「しねぇよ。最終さえ間に合えば、長くなっても問題ねぇ」
まあ、この手のイベントは、スケジュール通りにはいかないのが当たり前。
余裕持って組んでいても、時間押すのも当たり前。
お客様だって、楽しいんなら、時間伸びても問題はない。
私なら、当然喜ぶ。
要は、終わった後、ちゃんとお家なりホテルなりに帰れればイイのだ。
「ただ、バス会社に連絡入れとかなきゃだろうな」
臨時便、時間影響出るだろうしね。
「それでしたら、ウチからも出します」
そして出てきた、世話係。
わっちゃわっちゃする裏方無視で、楽しく踊って歌い切った嬉しそうな清牙を見ながらの宣言。
まあ、駆郎君も舞人君も、間違いなく、楽しそうなんだけどね。
あんな姿見せられては、下僕としてはお仕事増えるのも本望だろう。
『よしっ、気が済んだ。邪魔したな』
そして颯爽とステージ袖に戻ってくる清牙達。
『え? ホント、あの人達何? 特別サービス? ジャックするんじゃなかったの?』
そんな、戸惑った振りの声を出す少年達も、笑顔で会場を沸かす。
キャーキャー黄色い声援が吹きすさぶ中、アイドル様は臨機応変に切り替え。
『んじゃ、気を取り直して続けるよ』
予定通りとばかりに次の曲に取り掛かり、タオルを受け取った清牙は希更を見て一言。
「俺達だって踊れる」
違うがな。
あんた、それが言いたいが為だけに、人様のステージ上がったんかい!
「セイちゃん、BERIDEの邪魔しちゃダメでしょ! カッコ良かったけど!!!」
娘さんは大興奮。
「駆郎君、踊ってもカッコ良かった」
「そう?」
駆郎君、娘さんの視線が自分に戻ってきてご満悦。
「ミーどうよ?」
舞人君の笑顔に、ミーも頷く。
「カッコ良かったですよ」
ですけど…とは、顔だけ。
まあ、ファンも、見てるだけのこっちも間違いなく面白かった。
控えめに言っても最高です。
やっぱ、歌は断然清牙のが巧いので、総合的に見ても、やっぱ楽しかったし。
裏の大変さとは隔絶してるので、好き勝手言える立場なんだけどな。
後の皺寄せ総浚えの総監督様は、そうはいかないよね。
「清牙、てめぇ、後で〆る」
激怒マー君に耳を引っ張られピーピー泣く清牙。
「ちょ、今、痛いっす。今、十分」
「「すみません、ウチの清牙が」」
「お前ら全員だよ!」
残った手で駆郎君と舞人君の後頭部を結構な音を立てて叩く。
マー君怒ってはいるけど、声、笑ってるよ。
まあ、マー君から見ても、楽しかったと。
なら、多少の苦労は仕方がない。
成功成功。
そんな楽しい気分に刺さる影。
「楓さん」
そこでなぜか、申し訳なさそうな黒服さんから一言。
「社長が、出来るだけ速やかにブースに戻って籠っててくださいと。社長は仕事が増えたので、しばらく戻れないからと」
だから、なんで、それを私に言うの!?
って云うか、ついさっきいた健吾君がいねぇ!!
「お前がちゃんと、清牙見てないからだろ」
マー君?
私お客様。
清牙の世話係じゃないから。
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