27 / 107
怒涛の催事
12
しおりを挟むご飯も食べて、出来ないものは出来んと開き直った清牙が、ゲーム対戦で熱中しすぎて駆郎君とムエタイが始まりそうになったりと、騒がしく過ごしていたら、舞人君が立ち上がる。
「希更、ミー行くぞ」
どこに?
なぜに?
そんな二人に、舞人君は笑う。
「BERIDE。見たいんだろ? 話付けてある。まあ、袖からだけど、見れんよりはマシだろ」
いつの間に?
「え、でも…」
清牙を見て私を見て戸惑う希更の姿に、駆郎君の笑みが深くなる。
「希更ちゃんが、見たいの?」
黒いです。
「えっと、でも、今日はここから出ない方が、良いんだよね?」
行きたい。
行きたいけど、大好きな駆郎君を困らせたくないし…と分かり易い希更の姿に、駆郎君が折れる。
「大丈夫。一緒に行こうね」
「イイの?」
「大丈夫だよ」
にこやかな会話だけれど、全然大丈夫な気がしない。
「つー訳で、姐さんは清牙宜しく」
「宜しくねぇわ」
なんで、私だけ居残りなのか。
「私も「俺も行く」」
ほらって顔の舞人君に、言いたいことはあれど…。
「希更もミーも」
「清牙さん、カエちゃんお願いしますね」
「行ってくるね」
置いて行く気満々である。
私の保護者肩書どこ行った?
「清牙。1人で「暴れるからな」」
妙な脅迫は止めて下さい。
「じゃあ、行ってくるな」と、舞人君は娘さん達+駆郎君にスタッフ2人を連れて、にこやかに旅立ってしまう。
「ちょっ」
「ほら、行くぞ」
当然のように肩を抱くな。
やっぱりお前も行くのかと、周りを見るが、世話係がいない。
残っていた黒服のお兄さんを見れば、頷かれた。
「御一緒します」
それ、違う。
いや、私じゃ清牙の本気の暴走は止められないんだし、必要措置?
慌てて追いかけて、グネグネの通りを駆け足。
清牙は足の長さがあるので余裕な所がまた腹立たしい。
機材やら人やら、どうしても通りは狭くなってしまう。
その合間合間に横道があるので巨大迷路みたいなものだし。
時々表にも出るから、方向感覚が分からない。
こっちは見失ったら、方向音痴で自由人の王子清牙しか残っていないのだ。
下手すれば、自分達のブースに戻ることさえ難しい。
不安しかないので、追い駆けるのも必至だ。
そのまま何とか追いついた場所では、キラキラしい爽やかな少年達が舞人君と数少なに話し、希更とミーがキラキラ集団と握手。
そしてそのまま会場へと出て行ったのだが…。
「駆郎ざまぁ」
お前、言い方、な。
ついさっきまでのべた甘乙女モード希更が、完全にファンモードに移行しており、駆郎君が全く目に入っていない模様。
キラキラしい眼差しで、黒い駆郎君の視線に全く気が付かないまま、ステージに釘付け。
それを見て舞人君は苦笑いし、ミーと頷きあっている。
まあ、希更はまだまだお子ちゃま。
恋愛脳がそんなに育ってないから、ちょっとしたことで気が逸れるのだよ。
だが、真っ赤な顔してキラキラお目眼で、歌って一緒に手だけのフリ踊っている姿を見ていれば、好きなのはまるわかり。
駆郎君の顔が顰めっ面になっていくのも分かる。
分かるんだけどねぇ。
「なんで、あんなんが良いんだよ。俺の方が歌巧いし、カッコいいし、足長いし」
最後のは確実に、身長問題だからね。
そしてなぜ、お前までがブスくれる?
「今の、アイドル様だよね」
ダンスメインで大勢で、要所要所でソロ立ち。
オバチャンには、グループの違いも歌の違いも、ダンスの違いも、良く分かりません。
正直見分けはつかないけれど、希更からすれば、大きな違い。
なんかやたら詳しく色々言っていたもん。
「因みにミーはtuwevulフェンです。小遣いの大半だけでなく、バイト代まで注いでいます」
「あ゛? どう考えても、単体なら俺の一人勝ちだろうが」
何と、競り合ってるんですかね?
だが、言える事もある。
「清牙にはない、可愛さ謙虚さ爽やかさと、ダンスじゃね?」
清牙、ライブ中、煽りはするが、踊らないじゃん。
まあ、あんまり踊っているロックバンドは見た事ないけど。
昔はいたんだけどねぇ。
最近のは結構大人しめだよね。
棒立ちとか、ウロウロするぐらい?
跳ねたり股割りしたり、マイク倒したり、マイクと踊ったり、それも、個性だと思う訳だよ。
「踊りか。踊ればイイんだな?」
そして、なぜか、清牙の何かに火が付いた模様。
「駆郎、出るぞ」
「何?」
たったか、駆郎君の肩を組んで、耳元で何か。
一瞬固まった駆郎君だったが、清牙が来てもステージ釘付けの希更を見て思うところがあった模様。
頷いて、歩き出す清牙と駆郎君。
あんたら、どこ行こうとしている?
そっち、ステージ。
そして、袖にいたスーツのお姉さんとジャンバーの人に何か言って、マイク強奪。
そのまま、曲終わりに当然のようにステージに出て行ってしまう。
「姐さーん」
そしてそれを見ながらの、ゲラゲラ笑いながらの舞人君の手を合わせてのおネダリ。
「はいはい。いってら」
もう、こうなっては止まらないだろう。
私達は動きませんよ。
2人も3人も同じである。
結局は3人でいきなり飛び出した奴らの姿に、現在のステージ主がびっくり。
そら当然だよね。
会場も驚いてるんだか喜んでるんだか?
キャーキャー、SPHYのライブではあまり聞こえない黄色い爆音が膨れ上がり、メインボーカルらしき男の子が戸惑った声を出す。
『え? SPHY? え? 清牙さん?』
『許さん』
お前、本当、言い方、な。
『え? 俺らなんかしました?』
『俺らの姫達が、お前ら見てキャーキャー言ってるのが面白くない』
『は?』
ぽかんとした顔に、一斉に上がる爆笑。
どんな理由?
皆そう思っただろう。
『さっきの、サビだけでイイ。ちょっと見せろ』
えっと、何様かな?
清牙は、後ろにいた他のBERIDEのメンバーにマイク押し付け、そして駆郎君舞人君仲良く並んで即席ダンス講座開始。
なぜか、キャーキャーお嬢さん方の黄色い声援が響き、妙に納得。
そう言えば、清牙、昔アイドルだった。
流したような簡単な動作でも、違和感はなく動いている。
間違いなく、踊れる人の動きである。
そしてなぜか、駆郎君も舞人君もざっざっと動いて違和感ナシ。
なぜに、踊れるのって言うか、どうしてそうなる?
そんなこっちの笑いも何のその、当然の様に、スマホ抱えるファンに、スタッフ。
まあ、貴重映像、だよね。
その許可くらいは、清牙様も事前に出してた模様。
『よっしゃ、行くぞ見とけ』
そして宣言するのはステージ袖。
おい、プロ。
客はどうしたと思いつつも始まる先ほどの曲。
当然、即席のダンス口座はサビの部分だけだったので、清牙がマイクを奪い返し、その斜め後ろに駆郎君と舞人君が出てそれっぽく歌って踊っている。
違和感はないが、違和感ないように合わせてくれている、BERIDEの皆様がお疲れ様である。
まあ、皆笑顔なんだけどね。
突然のステージジャックに、嫌そうな顔することなく楽しそうに踊っている謙虚さよ。
メインVo勝手に奪って、清牙歌って踊って好きにしてるのにね。
そして、サビの部分に入る前に、後ろの少年にマイクを押し付け、なぜか3人が前面に出る。
最前線で3人仲良く並んで本気で踊りだすとか、マジですか?
ファンの皆様キャーキャー言ってますよ?
最早、誰のファン観客なのかも分からない。
「これ、大丈夫なのかね?」
「大丈夫じゃねぇよ!!」
そこに走り込んできたマー君は汗だくでご立腹。
スタッフ集めてなんやかんやと指示を出している。
まあ、当然だよね。
全く予定になかったステージジャック。
タイムテーブル大丈夫なのかね?
「どっか、削っちゃったりしちゃう?」
「しねぇよ。最終さえ間に合えば、長くなっても問題ねぇ」
まあ、この手のイベントは、スケジュール通りにはいかないのが当たり前。
余裕持って組んでいても、時間押すのも当たり前。
お客様だって、楽しいんなら、時間伸びても問題はない。
私なら、当然喜ぶ。
要は、終わった後、ちゃんとお家なりホテルなりに帰れればイイのだ。
「ただ、バス会社に連絡入れとかなきゃだろうな」
臨時便、時間影響出るだろうしね。
「それでしたら、ウチからも出します」
そして出てきた、世話係。
わっちゃわっちゃする裏方無視で、楽しく踊って歌い切った嬉しそうな清牙を見ながらの宣言。
まあ、駆郎君も舞人君も、間違いなく、楽しそうなんだけどね。
下僕としては本望だろう。
『よしっ、気が済んだ。邪魔したな』
そして颯爽とステージ袖に戻ってくる清牙達。
『え? ホント、あの人達何? 特別サービス? ジャックするんじゃなかったの?』
そんな、戸惑った振りの声を出す少年達も、笑顔で会場を沸かす。
キャーキャー黄色い声援が吹きすさぶ中、アイドル様は臨機応変に切り替え。
『んじゃ、気を取り直して続けるよ』
予定通りとばかりに次の曲に取り掛かり、タオルを受け取った清牙は希更を見て一言。
「俺達だって踊れる」
違うがな。
あんた、それが言いたいが為だけに、人様のステージ上がったんかい!
「セイちゃん、BERIDEの邪魔しちゃダメでしょ! カッコ良かったけど!!!」
娘さんは大興奮。
「駆郎君、踊ってもカッコ良かった」
「そう?」
駆郎君、娘さんの視線が自分に戻ってきてご満悦。
「ミーどうよ?」
舞人君の笑顔に、ミーも頷く。
「カッコ良かったですよ」
ですけど…とは、顔だけ。
まあ、ファンも、見てるだけのこっちも間違いなく面白かった。
控えめに行っても最高です。
やっぱ、歌は断然清牙のが巧いので、総合的に見てもやっぱ楽しかったし。
裏の大変さとは隔絶してるので、好き勝手言える立場なんだけどな。
後の皺寄せ総浚えの総監督様は、そうはいかないよね。
「清牙、てめぇ、後で〆る」
激怒マー君に耳を引っ張られピーピー泣く清牙。
「ちょ、今、痛いっす。今、十分」
「「すみません、ウチの清牙が」」
「お前ら全員だよ!」
残った手で駆郎君と舞人君の後頭部を結構な音を立てて叩く。
マー君怒ってはいるけど、声、笑ってるよ。
まあ、マー君から見ても、楽しかったと。
なら、多少の苦労は仕方がない。
成功成功。
そんな楽しい気分に刺さる影。
「楓さん」
そこでなぜか、申し訳なさそうな黒服さんから一言。
「社長が、出来るだけ速やかにブースに戻って籠っててくださいと。社長は仕事が増えたので、しばらく戻れないからと」
だから、なんで、それを私に言うの!?
っていうか、ついさっきいた健吾君がいねぇ!!
「お前がちゃんと、清牙見てないからだろ」
マー君?
私お客様。
清牙の世話係じゃないから。
0
お気に入りに追加
1
あなたにおすすめの小説
ちょっと大人な体験談はこちらです
神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない
ちょっと大人な体験談です。
日常に突然訪れる刺激的な体験。
少し非日常を覗いてみませんか?
あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ?
※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに
Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。
※不定期更新です。
※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。
クラスメイトの美少女と無人島に流された件
桜井正宗
青春
修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。
高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。
どうやら、漂流して流されていたようだった。
帰ろうにも島は『無人島』。
しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。
男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
ママと中学生の僕
キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。
フリー台詞・台本集
小夜時雨
ライト文芸
フリーの台詞や台本を置いています。ご自由にお使いください。
人称を変えたり、語尾を変えるなどOKです。
題名の横に、構成人数や男女といった表示がありますが、一人二役でも、男二人、女二人、など好きなように組み合わせてもらっても構いません。
また、許可を取らなくても構いませんが、動画にしたり、配信した場合は聴きに行ってみたいので、教えてもらえるとすごく嬉しいです!また、使用する際はリンクを貼ってください。
※二次配布や自作発言は禁止ですのでお願いします。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる