泡沫の欠片

ちーすけ

文字の大きさ
上 下
28 / 125
怒涛の催事

13

しおりを挟む



そうに耳を撫でながら「盛り上がったんだしイイじゃん」と拗ねる清牙を無視してのんびり歩く。
今回は出遅れずに一緒に戻っているので、駆け足の必要はない。
まあ、足の長い人達が私達に合わせてくれているとも、云うんだけど。
出番まではまだあるので、急ぐ必要もないかと、途中合間から聞こえるステージ身に寄ったり、止まったりなんたりしながらゆったり戻っていたら、問題発生。
ブースを繋ぐ通路ではなく開けた隙間に、なんか柄の悪そうなのが5人いる。
間違いなくフェスTシャツ着て、関係者エリアにいるのだから、客ではない。
ないけど…。
「何方?」
「ああぁぁ、姐さん達は下がって下がって」
舞人君と駆郎君が前に出て、まあ当然最前線には清牙が立っているんだけど、どこぞのコメディの様に清牙に詰め寄る険悪さ。
「お前、またやらかしたんだって?」
「ああ? 汚ぇ面、近付けんな。息も臭ぇ」
「あ゛あ゛?」
一食触発だね。
駆郎君が笑顔です。
舞人君は若干下がり気味で私らの前。
そして私の後ろに黒服のお兄さん。
「お兄さん、仕事じゃないの?」
思わず聞けば、首を振られた。
「自分の仕事は、お嬢さん方の護衛ですから」
いや、違うよね?
自分所の商品、最優先で守ろうよ?
そんな一触即発の空気を、遠巻きに見つめる関係者各位。
「舞人君、あの人達誰?」
希更の率直過ぎる言葉は、実に大きく響き、清牙大爆笑。
「知名度低っ」
いや、まあ、私だって、流石に出演者全部知ってるほどのマニアじゃないし。
フェスに出て、清牙に絡んでくるぐらいには有名なのね…としか。
出演者リストに目を通したけど、2割ぐらいしか、顔が思い浮かぶのいなかったとか言えない。
「女連れで調子「ああぁぁっと、何年やってるんだった、っけ?」」
ああ、煽ってる煽ってる。
「てんめぇらぁ」
すんごい舌がぐるんぐるん巻いていらっしゃいますね。
大丈夫なんですかね、コレと見ていたら、なぜか駆郎君迄煽りだす。
「露出知名度売り上げ、全部可哀想な人達はもういいでしょ。戻ろうよ」
えっと、何があった?
分かるのは、SPHYと仲が大変宜しくないんですねってことくらい?
でもマー君が、SPHYとバチバチ所の出演はご遠慮願ったみたいな事言ってなかったっけ?
「っざ、けんなっ!」
やっぱ、そうなるのね、と、動く。
跳びかかってくる先頭のツンツン頭のお兄さんの腕を清牙が左腕で掴んで、右腕を振り上げる清牙のその腕を胸に抱きこむ。
「暴れんな」
それで清牙は止められたけど、興奮した兄さんの方はそうもいかない。
どうしようかなと思ってたら、ツンツン頭のお兄さんの足が降り上げられるのを、駆郎君が蹴っ飛ばして転ばせる。
だから、なぜ、君迄暴れるの?
「だから、動くな!」
ツンツン頭のお兄さんの仲間も含め、清牙が動き出すより先に、起き上がろうとしていたツンツン頭のお兄さんの頭を胸に抱きこめば、一瞬で空気が固まる。
「おま、なに、してんの?」
清牙、声が震えてますよ?
「男なんて、乳与えてれば大人しくなる単純生き物じゃない。さっさと落ち着け」
え?
そんな、妙な空気が流れたが、私は知らない。
だって、現に、ツンツン頭のお兄さんの動きは止まった。
「いいなぁ」
そんな声が聞こえる中、響く清牙の怒声。
「糞が!!」
ドゴって妙な音が真横から聞こえ、私はなぜか、清牙によって抱きしめられていた。
「俺のおっぱい、使うんじゃねぇ!!」
「誰が、お前のおっぱいか。私のもんじゃ」
馬鹿垂れがと、背中を叩き腕を緩ませるが、解放してくれる気配はない。
清牙に緩く抱きしめられたまま。
「姐さん、姫達泣きそうなんだが?」
舞人君の呆れた笑い声にそちらを見れば、ミーは本気で泣いている。
希更は意地っ張りなので、顔を真っ赤にしてミーにしがみ付いてるけど。
恐かったのねぇ…って、私の所為か。
「大丈夫だって。清牙が、私に怪我させる訳ないじゃん」
だって、清牙は私の事大好きだからね。
ツンツンお兄さんの振り上げた足も、駆郎君が出て来なくても、清牙がなんとかしたと思われる。
「ホント、腹立つ」
耳元で唸るな。
こそばゆい!
清牙の腕をバシバシ叩いて引き剥がし、脇腹おっさえて蹲るツンツン頭のお兄さんを見る。
「あら、結構イイ男」
「おい、こら」
清牙、煩いよ。
視線は煩かったが、怪我人放置しとく訳にもいかんだろ。
「肋骨とか、イッてない?」
近付いて、押さえる手ごと撫でたら、なんでか、後ろに転がって耳まで真っ赤。
「え? もしかして若い? 純情少年だったりした?」
よく見れば、肌艶がキラキラ?
「そいつら、帳つって、メディアNGな変態バンド。知らなくて当然だけど、俺ら以上に女がいねぇのよ。年は姐さんと変わらんけど、女慣れしてねぇから勘弁してやって」
まあ、随分尖った活動なさってるのね。
それで、なんで…言われるまでもなく、全国行脚中にバトったんだろうねぇ。
微笑ましいイベントではなく、戦闘的に。
清牙は自分が一番で、駆郎君も奏者としての絶大な自信があり、穏やかに大人に見える舞人君も、男には無駄に厳しいし。
総合して、3人共、かなりのナルシスト傾向にあり、喧嘩っ早い。
「ホテルに穴開けちゃった方達?」
「それはまた別」
あんたら、どこで、どんだけ喧嘩してるのかね?
今度はツンツンお兄さんにあまり近付き過ぎないようにしゃがんで覗けば、真っ赤な顔の涙目で睨まれる。
「あ、なんか、可愛い」
「かわっ!!」
「「「「「ぶふっ」」」」」
起こる笑いに、これで、大丈夫かな…と思う。
「お兄さん、立てる? 救護班呼ぶ?」
「テント勃ってて立てねぇんじゃねぇの?」
すかさずかかる清牙のお言葉は相変わらずお下品。
「清牙、早く戻るよ」
確り希更の耳を塞いでいる駆郎君の顔は顰めっ面だし。
「本当に大丈夫?」
聞けば、嫌そうに顔を顰めて、立ち上がる。
「浮かれてんじゃねぇよ、糞がっ」
うん、負け犬の遠吠えにしか聞こえないが、この状況、自業自得じゃね?
自分で絡んできたんでしょうに。
「ここで場外乱闘起こしてまで客呼びたかったわけ「ぁざけんな」」
怪我は何ともないのか、詰め寄ろうとしたツンツンお兄さんの前に黒服が立つ。
一応、お仕事してくれるのね。
「今のこの状況、それ以外に見えないんだけど? 仲良くしろなんて面白くない事言わないから、歌で曲で、勝負しなよ。折角メディア断ち切って我を通してる意味ないじゃん。自分達の音楽だけで、勝つんだろ?」
「歌も俺のが巧い」
だから清牙ちゃん、貴方はどうして大人しく出来ないかな?
「ほら、皆散った散った。お仕事お仕事。うちらも戻るよ」
これ以上揉め事起きたら、マー君が死んでしまう。
ツンツンお兄さん達を避ける様に大回りして、清牙の腕を引っ張り動く。
先導は、希更を連れた駆郎君。
一刻も早く、揉め事から安全圏へ移動したい模様。
そのまま、熱過ぎる視線を受けつつ戻ってきましたSPHYブース。
ブスくれた清牙をパイプ椅子に押し付け、お水を貰えば、娘さん達に抱き着かれる。
「「カエちゃん!!」」
そんな、泣かんでも良くない?
「清牙が煽るから乗っただけで、本気で殴り合いしたかった訳じゃないでしょ」
フェスに出てるプロなんだし。
まあ、絡みにやってくる根性の時点で、どうかとは思うけどね。
「清牙、なにやったの?」
当然、聞く前から原因は清牙断定である。
「あぁぁ、最初は仲良かったんだけどなぁ」
舞人君の苦笑いに、駆郎君は笑顔で希更を引き取って、でっかいヘッドフォンをかぶせてしまう。
「清牙が栄太…絡んできたVoの彼女寝取って、口説いて、大喧嘩になってギター壊された」
情報過多。
だが、駆郎君が喧嘩腰だった理由は分かった。
大事なギターの敵恨み辛みなのね?
「彼女とか知らねぇし。やった後言われても」
「健吾君、何してた?」
「まだ院生で、常時付き添いはしてなかったから、清牙の下管理が緩くてなぁ」
清牙?
「それで終わってれば良かったのに、清牙が栄太口説いたりするから、大喧嘩になったんだろ」
だからどうして、そうなったのか?
「え? 2回でヘタる女より、栄太の方が面白そうだったから?」
清牙の下半身事情なんて知りたくねぇよ。
「やっぱ、気が強いのとか、なかなか乗ってこないのって、燃えるじゃん。体力もあったが良いし」
馬鹿だ。
あっちはあっちで、複雑な思いで、近寄らなければいいのに、何か言わなきゃ気が済まない、と。
「清牙の子供、出てきたりしないよね?」
年齢考えると、ややこしい事間違い無しじゃね?
悪いのは間違いなく清牙なのに。
「ゴム無しでやった事ねぇよ。ゴムも自分でちゃんと用意してた」
そこで胸を張られても。
「本当に、大概にしときなさいよね」
ペシンと頭を叩けば、清牙は拗ねる。
「健吾の管理で、定期的に検査もしてるから平気だろ」
どこに普通や常識を当てはめればいいのか、ちょっと分からない。
分からないが、大丈夫だと思いたい。
特に、私に関わらなければ。
そんな大きな溜息を吐いた私に、舞人君の大きな溜息。
「姐さんよ、ソレ」
指示されたのは、背後で挙動不審なミー。
なぜに、そんなに顔が真っ赤なんだろう?
「刺激、強過ぎた?」
でも、ミー彼氏いたよね?
直接は聞いてないけど、済、だよね?
そんな思いのまま見れば、ミーは口をパクパクしたまま私に抱き着いてくることしばし。
「あの、清牙さん、両方」
ああ、そこの刺激が強かったのね。
まあ、田舎では珍しいかと思っていたら、顔を真っ赤にしたミーが舞人君を見て清牙君を見てまた私に抱き着いた。
「ちがっ!! それ、絶対に違うからな!! 昨日ちゃんと言ってただろうがっ!!!」
舞人君の強い主張。
ああ、昨日の部屋割りで思う事があったと。
だから、揉めていたのかとか、色々妄想爆発したのか。
ミーも想像力逞しいお年頃。
「清牙、罪な男だねぇ」
「イイ男だからな」
違ぇよ!
嫌味も通じやがらねぇと呆れるまま、舞人君はしばらくミーに、良く分からない言い訳を続けていた。
希更は意味の分からない、聞こえない話がまた始まったと、駆郎君に懐いていたので、一番平和そうだった。
羨ましい。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

クラスメイトの美少女と無人島に流された件

桜井正宗
青春
 修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。  高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。  どうやら、漂流して流されていたようだった。  帰ろうにも島は『無人島』。  しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。  男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?

ちょっと大人な体験談はこちらです

神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な体験談です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

会社の上司の妻との禁断の関係に溺れた男の物語

六角
恋愛
日本の大都市で働くサラリーマンが、偶然出会った上司の妻に一目惚れしてしまう。彼女に強く引き寄せられるように、彼女との禁断の関係に溺れていく。しかし、会社に知られてしまい、別れを余儀なくされる。彼女との別れに苦しみ、彼女を忘れることができずにいる。彼女との関係は、運命的なものであり、彼女との愛は一生忘れることができない。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

体育座りでスカートを汚してしまったあの日々

yoshieeesan
現代文学
学生時代にやたらとさせられた体育座りですが、女性からすると服が汚れた嫌な思い出が多いです。そういった短編小説を書いていきます。

壁乳

リリーブルー
BL
俺は後輩に「壁乳」に行こうと誘われた。 (作者の挿絵付きです。)

処理中です...