全てを諦めた公爵令息の開き直り

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続編2 手放してしまった公爵令息はもう一度恋をする

44話 手放す決意

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翌朝。
意を決して扉を叩くと、変わらぬ声で返事が返って来た。
それに安堵してそっと扉を開けると、やはり変わらない笑顔で迎えてくれる。

「おはよう、アルベリーニ卿。」

隣には身支度を手伝っていたのか、テオが側に付いており、それで落ち着いているのだろう。
自分では、もう……。

改めて思い知らされるが、また昨日の様に激情に呑まれて縋り付く訳にはいかない。
私は一呼吸置くと、彼の正面に立ち、そして、片膝を付いて彼を見上げた。

「シリル。今まで無理に思い出させようとして、貴方に苦しい思いをさせてしまい、申し訳ありませんでした。貴方を苦しめたくはない。ここに居ても、記憶の欠けた貴方には辛いだけでしょう。そんな事にも気付けず、本当に申し訳なかったと思います。」
「え。そんな……。僕こそ、その、ごめんなさい。未だに思い出せなくて。お仕事にも、影響が出てますよね?皆の足を引っ張ってばかりで……」
「その心配なら、大丈夫ですから気にしないで。大きな山場を越えたばかりですので、しばらくは大した執務は無いのです。ですから、これを機に、慣れ親しんだご実家で、ゆっくり療養されてはどうでしょう?」
「え……。」

急な提案で、ビックリして固まるシリルだったが、私としては、充分に悩んで熟慮したのだ。

昨日、殿下から話を聞いて、自分の至らなさに気付いた。
私は、彼を守り支えるのだと豪語しながら、何も出来ないどころか、彼を苛む存在に成り果てていた事を。
自分の悲しい、寂しい感情だけを優先させて、彼を本当の意味で守れていなかった。

それでは、いけない。

殿下と、その後テオとも話し、決心した。
シリルを、彼の望む実家へ帰そう、と。

その決断は、身を割かれる苦痛を伴った。
決して手放さないとの誓ったのに。
けれど、彼を抱きしめ縋る事が、彼を苛むだけでしかないのなら。
本当に彼の事を想うならば、解放しなければならない。
私という呪縛から。

……でも。

「ただ、これだけは忘れないで。もし、貴方の記憶が戻らなくても、それでも私は貴方のモノです。私を愛することが出来なくても構いません。私は貴方に救われたから、今こうして居られるのです。だから、必要とあらば遠慮なく私を使って下さい。せめて傍にいる事を許せる様になれば、私を好きに使って下さって構いませんから。なので、それまでは、しばしお別れです。」
「……。」

笑って、見送ってあげたかった。
気兼ねなく帰れる様に。

でも、弱い私は、込み上げる想いを抑えきれず。
溢れる涙を堪えるのでいっぱいいっぱいだった。

それでも。
最後に、もう一度だけ。
彼の手を取り、その手の甲にキスをした。

もう、互いに愛し合う事が出来なくなってしまっても。
どうか、また。
私の存在を許せる様になれば、どうか傍に置いて下さい。
使い走りでも、気を紛らわせる為の玩具でも、何でも良いのです。
私は貴方のモノですから。

貴方の全てに服従致します。

その意味を込めたキスを贈った。
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