全てを諦めた公爵令息の開き直り

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続編2 手放してしまった公爵令息はもう一度恋をする

23話 巷で話題の

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ここ数日、殿下達と久々に城下を回って人々に話を聞いていると。
最近、巷でちょっとしたブームが起きているらしい。
よく当たる占い師がいるのだとか。
歳の離れた兄弟のコンビで、来る人来る人皆口をそろえて『凄い!』『完璧に当たってる!』『コイツは本物だ!』と言っては興奮しているものだから。
噂は噂を呼んで、瞬く間に話題になっているそうだ。

「占い……ですか。」
「はい、そうなんです!この前も、私の甥っ子のクルスがずっと気にしていたパン屋の看板娘のララとの事を占ってもらったら、まずはクルスの事をバッチリ当てられて、彼のアドバイス通りにアタックしたら、見事に上手くいったんですって~!」
「へー、それは良かったですねぇ。凄いな~、僕も見てもらおうかな…。」
「まぁ!流石クレイン様!是非そうしてみて下さいませ。」

街の市場の一角で女性物の小物を売っているヨランダさんに話しかけたら、物凄い勢いで喰い付いて来て、楽しそうに話してくれた。
ほどほどで失礼して、少し離れた区画の方にも僕らはあしを運んだが、そこでも似た様な話を耳にした。

「占いねぇ……。時々出没すんだよなぁ~。流れ者達だから、いつの間にか居なくなっちまうけど。」
「噂が本物かの究明も兼ねて、殿下も視てもらいます?」
「はあ?何で俺?」
「え?色々気になる事とかありません?将来の事とか、周囲との関係性とか、ソフィア様との事とか。」
「お二人の子供の事とか!」

僕の横から、ジーノが勢い良く身を乗り出して来た。
それに顔を真っ赤にした殿下が反応する。

「ジーノ!バッカ、おまっ!気ぃ早すぎんだろ!」
「えー、すみません……。でも、気になるじゃないですかぁ。いずれはお子も出来るでしょう?ねぇ、もしそうなったら殿下はどちらが良いですか?男の子?女の子?あ、両方ですか?」
「だからっ!まだそんなの考えらんねーよ!」
「あれだけソフィア様を大事にされてるのに?」
「…っ」

ジーノに冷やかす気は無く、ただただ純粋に聞きたくて尋ねている様だが、聞かれた殿下は赤面したままどう話をはぐらかそうか必死な様子で。
でも、常に傍で様子を見ているジーノからすれば、そんなにおかしな質問ではない素振りで。
悪意無く聞いて来る彼に、珍しく言葉を詰まらせて困っている。

その様子は一見すると微笑ましくて面白いが、隣のサフィルが微妙な表情になっているのに気付いて苦笑した。

“お兄ちゃんとしては複雑?”
“私もシリルとの関係を見守ってもらっているのでとやかく言えませんが、でも、妹の情事を知りたくはないなぁ…って。”
“じ…っ情事って…!”

二人のやり取りを見て、僕がサフィルと小声でひそひそ話していると、後ろから殿下に怒鳴られた。

「二人とも、聞こえてんぞっ!」

カンカンに怒っている殿下だったが、今までで一番怖くない怒り顔だった。

「あ、ハハハ。えーと、その。殿下は占いとかはあまり信じない方なんですか?」

街の人達とは違って、ロレンツォ殿下はあまり興味が無さげだったので尋ねてみたが、そんなに刺さるものは感じないらしい。

「別にどうでもいいかな。良きにしろ悪しきにしろ、当たろうが当たるまいが言い様で幾らでも言い訳が出来るだろうしな。」
「そんなもんなんですか?」
「占いってのはそもそも大昔からの何千何万人もの情報と分析を基にしたモノの結晶だからな。そこに占い師独自の解釈やスパイスが入る事で色が出る。ある者に素晴らしいと褒められた事象も、別のある者には最悪だとの忠告を受ける。当たれば凄いと感心するが、当たらなければ自分の考え方や捉え方が違ったのかと首を捻る。それを後日ぶつけても、それらしく言われてなんとなく納得してしまう。そんなもんだよ。」
「……殿下、やけに詳しいですね。というか、生きた経験則って感じ……。もしかして、占いやってもらった事が?」

街中をぶらつきながら尋ねる僕に、殿下はピクッと反応を示した。

「えぇ、そうなんですよ。まだ、私達がエウリルスへ留学していた頃、ベルティーナ様の具合が一向に良くなられなくて、滋養に効く薬草を探し求めたり色々していた折に、そんな事も……」
「そうだったんだ。」
「どいつもこいつも、在り来たりの言葉しか言わなかったよ。中には母上が回復する時期まで口にした奴もいたが、良くなる処か悪化したくらいだった。その点、救世の巫子は本当に本物だったな。」
「変に期待して、違ったらガッカリしちゃいますもんね。でも、どんなのか1回くらいは試してみたいなぁ。」

サフィルが口にする数年前の自身の話に、殿下は昔を思い出され、改めて巫子達の救済に対して感嘆される。
殿下の話ももっともだが、一度も経験のない僕としては、どんなものか気になってしまって興味を示すと。

「だったら、視てもらいましょうか。貴方が興味を持たれたのでしたら、是非。」
「いい?やった!どんなのだろ~。なんて言われるかなぁ?」

キャッキャとはしゃぐ僕達の様子を見て、殿下は軽く溜息をつきつつ。

「…ま、ものは試しだ。噂の確認がてら、行ってみるか~。」

そう言って下さった。

そうして僕らは、市場から少し離れて寂れた一画にある、例の占い師の居る屋台小屋までやって来た。

いかにもな簡易の掘っ立て小屋だったが、薄い黒色の布で覆って、なんとなく怪しげな雰囲気を出している。
街の評判を聞くに、かなりの人気が伺えたが、僕らが来た時には、待っているお客は居なかった。
ただ、視てもらっていた者は中に居た様で、僕らがその小屋の前まで来た時に、ちょうど出て来てそそくさと帰って行った。
しかしその足取りは何処か軽く、きっと良い事を言ってもらえたのだろう。
その後姿を見るだけで、初めての僕は期待が高まる。

その時、不意にぐいと手を引っ張られた。

「!」
「お兄ちゃん、どうぞ。入らないの?」

下から問われて目を向けると、僕の腰より下から見上げて来る幼い子供が、僕の手を掴んで尋ねて来たのだ。

「君は、ここの占い師の人?」
「うん、そう。あんないがかりなんだ。」

あどけない顔で笑うこの子供は、かなり幼い。
まだ4~5歳くらいなんじゃないだろうか?
そんな幼子が客引きに案内とは。
危なくないのだろうか、と心配になるが。
高い評判とは裏腹に、こんな子でも手伝いをしないといけないほどに、この者達の生活は厳しいものなのだろう。

案内のお礼に、と銀貨を一つ渡してやると、幼子は無邪気に笑って先に中へ入って行った。
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