全てを諦めた公爵令息の開き直り

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続編2 手放してしまった公爵令息はもう一度恋をする

24話 未熟な占い

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「リム兄ちゃん!おきゃくさんだよ。もうおかねくれた!」
「ウル、静かにしろ。……あぁ、いらっしゃいませ。」

その子のお兄さんと思われる少年は、僕ら5人の中で一番小柄な僕に背格好が似ていた。
歳は、僕より幼く見受けられる。
それに何より、黒いフードを目深く被っているが、その隙間から見えるのは、僕と同じ様な銀色の髪だった。
ただ、大部分は隠されてよく見えにくいというのもあるが、アイスシルバーの…僕の様な薄い色合いではなく、灰色に近いシルバーグレーの暗めの色合いの様に見える。
そして、鮮やかな孔雀の羽色を思わせるピーコックグリーンの瞳が涼やかだ。
ウルと呼ばれたその子供も、同じ色合いをしているが、幼い事もあり、兄の様な涼やかさよりも愛嬌を感じる。

ただ。
子供の方はともかく、その目の前の少年の出で立ちは、いつぞやのヒブリスおじさんと対峙した時の事を思い起こさせた様で、サフィルも殿下達も若干顔を顰めてしまった。

「……あ、あの、よく当たるって、最近話題になってるって街の人達に聞いて。僕も視てもらいたくなっちゃって。お願い出来ますか?」
「分かりました。では、貴方様の事を占わせてもらうので、前の席にお座り下さい。お連れの方も後ろの椅子にお掛け下さい。」

訝し気な後ろの面々の視線にも動じず、彼は淡々と口にすると、正面に座った僕の目を見やって、尋ねて来た。

「では、どういった事を占いましょうか。」
「どうしよう。僕、占いって初めてで……何を視てもらえばいいかな?」
「そうですか。でしたら、これからの事をざっくり視てみましょうか。」
「じゃあそれで、お願いします。」

いつの間にか兄の隣に立ち、そのフードの裾をギュッと握る子供の姿は不安げだが可愛らしい。
その姿にフッと笑みを零すと、その子がこちらに気付いてニコッと笑ってくれた。
すると、そんな僕の前に透明の丸い大きな石が置かれる。
完全に透き通っていて、綺麗な球体をしている。
水晶……だろうか。
下にはフカフカの敷布が敷かれており、その石を大事に扱っているのが分かる。

少年は、その石に触れるか触れないかといった所に両手で覆って、何やら難しい顔をして視ていたが、おもむろに口を開いた。

「………随分数奇な運命を辿られたんですね。こんな複雑なのは初めて視た。」
「?」

僕にはただの透明なままにしか見えないが、彼には何か違うものが見えているのだろうか?
彼の顔がどんどん険しくなっていく。
僕はそんな彼と眼前の球体をチラチラと見比べていたが。

「わっ!」

急にバチッと何かが弾けたのを感じた。
その瞬間、彼は球を覆っていた手を引っ込めて、バッと僕の方へ向かって叫んだ。

「駄目だ!逃げろっ!!」
「?!」

急に尋常じゃない様子で怒鳴られて愕然とする僕に、彼はハッと気を取り戻した様子でこちらに目線を向けて来た。

「兄ちゃん!」
「……ウル。ごめん、大丈夫だ。」

大声で声を荒げた兄に驚いた彼の幼い弟が、掴んだままの服の裾をグイッと引っ張って泣きそうな顔を見せると。
彼はようやく落ち着きを取り戻して、その小さい頭を撫で、心配する幼子を落ち着かせた。

「急にすみません、失礼致しました。……危険な影が、貴方を飲み込もうとする様子が視えたので、つい……。」
「危険な影?何だ、それは?」

僕の隣から、身を乗り出して尋ねて来たのは、サフィルだ。
見た事も無い様な厳しい顔で、彼を問い詰め様としている。

「わかりません。ただ、煙の様な靄が、この貴公子様のお姿を飲み込もうとされる様子が視て取れただけで……。これが何を暗示しているのか、そこまではよく分かりません。大体はその人が抱える不安や苛まれている事がある時に、そういうものを視る事もあるのですが、それにしては様子がおかしかった……。ただ、一つ気になるのは……貴方は魔術がお使いになれますね?」
「え。何で分かって……」
「やはりそうでしたか。……俺達と似た、力の気配を感じました。懐かしい、感じが。こんな西方域の発展した大都市の街中で、未だに魔力を持つ方とお会い出来る事があるなんて。驚きです。……申し訳ございません。なにぶん未熟者でして、さっき視たものがどういう意図を示していたのか、俺には全く見当が付かず、これ以上は占い様がありません。気分を害される様な事しか申せず、大変失礼を。お代は結構ですから、どうぞお許し下さい……。」

カタカタと震えながら頭を下げて許しを請う少年に、掛ける言葉が見つからない。
しかし、後ろから身を乗り出し、承服しかねると言って来たのはロレンツォ殿下だった。

「んなもん当たり前だ。おい、占いってのは、無駄に相手を不安がらせて終わりなのか?分からないなりに何か言える事があるだろう。」
「ひっ」
「ウル!」

少し声を荒げた殿下に、幼子は震えて涙目になり、その弟を兄は気丈に庇って自身の後ろへ隠す。

「殿下。子供が怖がっていますよ。ごめんね、驚かせて。大丈夫だから泣かないで。ね?」

出来るだけ優しい声音で話しかけたら、その子は後ろから少しだけ顔を出した。

「うん。ぼくもごめんね。お兄ちゃんのこと、よくわかんなかったんだ……。ただ、魔力のある人たちをみるのは占いしてからはじめてだったから、それで変なのがみえただけかもしれない。」

だから、上手にみれなくてごめんね。

しょんぼりとした様子で伝えて来る子に、僕は目を丸めた。

「君にもお兄さんが視たモノが見えたの?」
「うん。……お兄ちゃんからは、にてる感じがする。となりのむらさきの目のお兄ちゃんとお兄ちゃんの後ろに立ってる騎士?の人とはぜんぜんちがう。」

サフィルとテオの事だろうか。
この二人と僕は、全然違う感じらしい。

「僕は、母親が此処とは違う遠い所から来た人だったから、その所為かな?」
「そっかー。」
「ウル、そのくらいで。……ご期待に沿えず、申し訳ございません。あまり気になさらないで下さい。もしかしたら、貴方ではなく俺の漠然とした不安の所為で、変なイメージを視てしまっただけかもしれませんから。」

無邪気に喋る弟を制した兄は、重ねて謝罪を述べてきたから、僕らはもうそれ以上何も口に出来ず、此処を失礼するしかなかった。

幼子は手を振って、少年の方は頭を下げて見送ってくれた。

「お代払わなくて本当に良かったのかな…。」

あの場を離れてからそう呟く僕に、殿下がつまらそうに答えくれる。

「向こうがいいって言ったんだから、別にいいだろ。それに、アイツの弟にガッツリ渡してたんだ、あれだけで十分おつりがくるくらいだ。」
「……だといいんですが。」
「なんか、せっかく初めての占い体験でしたのに、何とも言えない結果で残念でしたね。」

気遣ってくれるサフィルに、僕は笑顔で返した。

「いいんだよ。売れっ子占い師って聞いてたから、もっと凄い所なのかなって思ったけど、二人とも苦労しているみたいだったし。言ってた様に、彼らの不安が形になって幻を見せたのかもしれないね。」

そう笑って、僕らは街の中心部の方へ戻って行った。
彼もああ言っていたし、その時はあまり気にしなかった。
僕自身、初めての経験だったし、よく分からないまま、気に留める事はしなかった。

でも、後になって思い知る事となる。
彼が視た姿というのは、決してただの思い違いなどではなく。
後に起こる事態の予兆だったのだと————…。
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