全てを諦めた公爵令息の開き直り

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続編 開き直った公爵令息のやらかし

30話 恐ろしい子

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「論より証拠ね。カイト、カモン。」
「えぇ~。ちゃんと手加減してよぉ?」

シルヴィアは右手の人差し指をチョイチョイと動かして、カイトに近寄る様に言うと。
カイトは気乗りしない表情でおずおずと彼女に近付いて、そして。
グッと手を握って拳を作り、彼女に向って振り上げた。

「ちょ、カイトッ」
「~えい!って、わふっ」

カイトが振り下ろした拳は、シルヴィアにぶつけられる前に、彼の体ごと後方へブワッと軽く吹っ飛んだ。

「?!」
「えっ何今の?!」

この場に居た皆がギョッとなって吹き飛ばされたカイトの方を見やっていた。
彼は上手に受け身を取れたお陰で、床に転がらずに膝を付くくらいで済んで。
スッと立ち上がって軽く膝に付いた埃を手で払っていた。

「ふふ。これが私がこっちで貰った能力。」
「……シルヴィアってば、こっちの世界に来る際に、ゼルヴィルツにさ、『救済の能力はカレンとカイトがあるからいいわ。それより、私は防御術付けて頂戴!防御に全振りで。』って言って。今のはその能力だよ。」
「『防御と治癒能力があれば完璧でしょ!』って、魔術師に言い放ってたのよ、シルヴィア。言われたゼルヴィルツもげんなりしてたわ。」

自慢げに笑うシルヴィアだったが、カイトとカレンは呆れて溜息をついていた。
異世界の人間を召喚できるほどの大魔術師を、顎で使うなんて。
僕の妹はなんて恐ろしい子なんだ、全く。

僕が巫子達の話を聞いて愕然としていると、何故かロレンツォ殿下の後ろに立って控えているジーノがシルヴィアからサッと視線を外していた。
あのいつもふてぶてしいジーノが、苦手なものでも見る様な目で視線を彷徨わせていて。
……さっきの術、きっと彼も喰らったんだな。

「んふふ。これで分かってくれたでしょ?いざとなったら、気に入らない奴は吹っ飛ばせるから、私が一緒にいた方が安全よ。」
「それは……そうかもしれないけど…」
「今度はいつまでこっちに居られるか分かんないの。一分一秒でも惜しいくらいだわ。だから、ウザい奴はさっさと蹴散らせて、お兄様と一緒に遊びたいのよ。たくさん思い出を作りたいの!」

ねぇ、だからいいでしょう?と。
シルヴィアは僕の隣に無理に割り込んで来て、まるで強引な恋人の様に僕の腕を掴んで、その両腕でギュッとホールドされた。

「そんな、テストさっさと終わらせて遊びに行こう、みたいな言い方されても。」
「お兄様……もう私には構ってくれないの…?」

うるうると碧い瞳を潤ませて訴えて来られて、可愛い妹のお願いを、どうして断る事が出来ようか。

「そんな、僕もシルヴィアといっぱい色んな事楽しみたいよ。でも殿下……どうしましょう…」
「…ここは二人で一緒にやるか?反対してもどうせ離れないだろうし。」
「えぇ、もちろん!」
「だよな。しゃあない。ここはシリルの案で検討してみよう。明日朝一でヴァレン兄上に相談して、この石も検査に出すわ。詳細は明日決まり次第詰めるから、今日は各々早めに休もう。」

殿下は溜息をつきながらそう言われ、それで各自散会となった。
カレンとシルヴィアはベルティーナ様に世話になり、カイトは殿下とジーノの世話で、各々散っていったのだった。

一緒に部屋へ戻ったサフィルは、改めて僕に心配だと口にしたが。
僕は再度彼に謝るしか出来なかった。
娼館フルールに飛び込んだ時は、まさかこの様な事態になるとは夢にも思ってなかったからさ…。

部屋へ入る前、しょんぼりと項垂れる僕の後ろから、テオの視線が突き刺さって来た。
ただ、その視線は僕というよりも隣のサフィルに向いていた様だが。
僕を心配してくれたテオが、部屋までピッタリ付いてくれたからだ。
流石のテオも、寝室にまでは一緒に入って来なかったが、『また二人きりになっても、執拗にシリル様を責めんじゃねーぞ。』と言わんばかりの視線で、サフィルはただただ困った顔をしていた。


「お、に、い、さ、ま~♪」
「…ん?ってうわぁ!」
「どうしましたっ?!って、シルヴィア様?!」

お互い、ただぎゅっと抱きしめ合って、あれからすぐに眠りについてしまったが。
急に耳元で楽し気な少女の声がして、フッと深い眠りから引っ張り上げられる様にして目を覚ますと。
僕の背中に抱き付いていたのは、シルヴィアだった。
サフィルもすぐに目を覚まして、彼女の侵入に心底ビックリした声を上げる。

「え、何で……。って、あ。テオ!何でシルヴィア止めてくれないんだよぉ…。」
「一度はお止めし、シリル様にお声を掛けようと扉もノックしたのですが…」

昨夜は僕を心配したテオが、寝室の手前の小さい応接室で警備がてら待機すると言って、一晩居てくれたのに。
朝一番のシルヴィアの来襲は防ぎきってはくれなかった。

「いーじゃない。ふふ、お寝坊さんなお兄様が悪いのよ。」
「良くない!年頃のレディーが、朝とはいえ男の寝室に侵入するなんてっ!昨日も思ったけど、以前の礼儀や節度は一体何処にやってきちゃったんだ!」
「んなもん、あっちの世界じゃ大して使えないんだもの。それに別にいいじゃない、兄妹なんだし。」
「兄妹でも駄目だよっ」
「えー。」

シルヴィアはむぅと頬を膨らませて不満をあらわにするが。
以前の彼女なら考えられなかったぶっ飛んだ行動に、僕は朝っぱらからヒヤヒヤする。
なんとか彼女を引っぺがしてテオにお願いし、僕らはさっさと身支度を済ませた。
ベルティーナ様の部屋へと赴き、巫子達とも再度顔を合わせてから、皆で朝食がてら情報交換を行った。

「朝一番に父上に巫子達の事を話してから、その足でヴァレン兄にも話しておいた。兄上も驚いておられたが、ちゃんと証拠物を持って帰ったシリルの事を褒めてたぞ。」
「そうですか。」
「今から調べたら、あの石の鑑定は日暮れまでには大体判明出来そうだが……兄上も恐らく偽銀に違いないだろうって言っていた。別件で確認した石とそっくりだと言っていたからな。」
「それなら…」
「……あぁ。シリルが言ってた案、今夜にも決行出来そうだぞ。」

流石殿下、動きがお早い。
僕はただ感心していた。

朝食後、カイトとカレンとシルヴィアはアデリート王の執務室に呼ばれ、僕も殿下達と共に付き添った。
約一年ぶりとなる再会を喜ばれた陛下だったが、カイトとカレンってば。

「前回は慌ただしい訪問となってしまいましたから、今度はシリルともっと遊びたくて、また来ちゃいました!」
「友人のシルヴィアも連れて来たんです。今回はこのアデリートをもっと堪能してもよろしいでしょうか?!」

目をキラキラさせて言う巫子二人に、王は二つ返事で了承していた。
今回は急だった事もあり、大々的なパーティーも無く、巫子達は喜び勇んで執務室を後にしたのだった。
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