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続編 開き直った公爵令息のやらかし

29話 もう一度

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「つまり、そこまでの情報を引き出せたのは、体を張ったお兄様の頑張りのお陰って事でいいのよね?」

ムッとしたまま腕組みをしたシルヴィアがそう口にして。
殿下はおずおずと頷いた。

「あ、あぁ…そうだが。」
「ふ。流石はお兄様。素晴らしいわ!ね!」

殿下が肯定した事で、ようやく気を良くしたシルヴィアは、急に上機嫌になり。
立ち上がって向かいに座る僕の両手をちょっと強引に掴んだ。

「……いや、たまたまであって…」
「何言ってるの!殿下達は別室から奴の使用する部屋を覗き見るか、奴に接触した店の者に話を聞くしか出来なかったから、なかなか捜査が進まなかったんでしょ?それをお兄様は直接ダイレクトに接触出来たから、一気に捜査が進んだのよ。」
「……僕の頑張りって言うより、奴自身の悪癖の所為で、自らボロを出しただけだよ。」

ぐいぐい寄って来る勢いで彼女は僕を褒めてくれるが。
勢いが凄くて、気圧されそうになる。

「だから、それを引き出せたのはお兄様の美貌と手腕のお陰なのよ!殿下、サフィルも!私のお兄様は凄いでしょう?!もっと褒め称えて、大事に崇めて頂戴。」
「シルヴィア…。心配してくれているのかもしれないけど、殿下もサフィルもちゃんと僕を大事にしてくれているから、そんな変な事言わなくても大丈夫だから。」

だから、そんな恥ずかしい事言わないで。
困った様に照れる僕に、シルヴィアはかぶりを振る。

「いいえ。こういうのはちょっと大袈裟なくらいアピールしとかないと。この問題が解決出来ても、どーせ手柄は殿下のもんになっちゃうんだから。」

鼻息を荒くして言う彼女は、分かった?!と殿下の方を見て。
殿下は黙ってコクコクと頷いていた。

……シルヴィアに対して、殿下はやたらと低姿勢な気がする。
僕らがこの部屋に合流するまでに、彼女に大分こってり絞られたのかな。
殿下の後ろに控える、サフィル曰く殿下至上主義のジーノですら、目を合わせたがらないから。

うーん。
シルヴィアの気持ちは有難いんだけど。
身内の暴走を、後で殿下に謝っとかないといけないな…。
僕は内心でふぅ、と溜息をついた。

「ねぇ、殿下。そいつらを一網打尽にするのに、あとどのくらいかかりそうなの?」
「うーん、そうだな…。まず明日兄上に相談して、証拠集めから身柄拘束まで……数週間はかかるんじゃないか?」

カイトの質問に、気を戻した殿下から返って来たのはそんな答えで。

「えー?!じゃあ、それまでシリルと遊べないって事?!」
「いや、巫子殿がご希望ならシリルと街を楽しんで頂ける様に手配するが?ただ、俺は手駒が無いから、出来れば父上にまた謁見をして頂いて、ご希望を述べられたら良い。また救済を望まれるかもしれないから、それには少し協力頂けると有り難いが。」
「殿下、救済ならもちろん致します。でも、シリルはそれでいいの?女装してたとはいえ、もし街で男爵やマルシオ達とばったり遭遇すれば……気付かれる可能性があるんじゃない?」

カレンは僕が街を出歩く事に対する懸念を述べ、殿下はハッとなって考え込んだ。

「……確かに。巫女殿達が街へ出れば、それだけでどうしても目立つからな。それをディオニシオ達が目にしないとも限らない。」
「じゃあ、遊びに行けないじゃん!ヤだよ?!王宮の中だけしか駄目なんてぇ!」

カイトは頭を抱えて駄々を捏ねる。

「馬鹿ね、カイト。男爵だって下級貴族とはいえ一応貴族は貴族なの。王宮へ参内して来る事もあり得るわ。そこでお兄様と鉢合わせないとも限らない。」
「え“…っ。じゃあ、王宮に居んのも危険じゃん。」
「………面倒な事になってしまって、本当にごめんなさい……。」

シルヴィアが畳み掛ける様にして懸念を口にして、カイトはサッと顔色を変える。
僕は彼女の話を受け、その問題にようやく気が付き、居た堪れなくなって再度謝罪を口にした。

「シリル……まぁ、そんだけ反省してんなら、もうこれ以上は怒んねーから、そんなにしょげた顔すんなって。折角、巫子殿達やお前の生き別れた妹にも再会出来たんだし。ただ、アイツらだけは早くなんとかしないといけねーな。」
「そうです、殿下。やっと帰って来てくれたのに、あんな奴の為に、シリルに不安な生活を送らせたくない。」

殿下とサフィルは、それぞれに僕の事を心配してくれる。

「ありがとうございます。……その事なんですが。奴は僕を店の新人の女の子と信じて全く疑ってもいない様子でした。なので、いっそもう一度接触を試みるのはどうでしょうか?」
「シリル?!」
「ごめんね、サフィル。また心配させてしまうかもしれないけど。奴はニコライって男を驚いた様子で迎えていた。話は今夜だけで終わらないよ、きっと。商談の中身を詰める為に、また近々密談するんじゃないかな。早ければ明日にでも。奴があの店を密談場所に使ってるんなら、そこに僕がまた女装して店の女の子になりきって、お酌でもしに行ったら割り込めるよ。サフィルは殿下達と一緒にギリギリまで傍で潜入していてもらって、決定的な証拠を出した所で踏み込んでくれれば、一網打尽に出来るんじゃないかな。」

僕の提案に、横のサフィルは不安な表情を隠さないが。

「決定的な証拠って……何をもって証拠とするつもりです?」

心配した面持ちで話の成り行きを見守って下さっていたベルティーナ様が、おもむろに口を開かれる。

「……この偽銀の話題、もしくはサンプルをチラつかせた所を押さえる……とかですかね。殿下、明日の午前中までに、ヴァレンティーノ王太子殿下に話を通しておいて頂く事は可能でしょうか?あと、出来れば火急で、その石が本当に偽銀かどうかの判別をお願いしたいです。そして、可能ならば明日の夕刻にでも。僕らと王太子殿下の手の者で、娼館フルールに潜入して男爵達の来店を待って、奴等が来たところで……さっきの方法でまず僕が接触して、証拠が出たと思ったら、合図を出しますから…そこで奴等を取り押さえる。」
「それじゃ、王太子に手柄の何割か持ってかれちゃうと思うけど、いいの?」

ヴァレンティーノ王太子殿下にも協力を要請する僕の案に、カレンがそれでいいのかと口にするが、殿下は。

「兄上の手柄になるのは構わない。むしろ、巫子殿達が居る今の状況で、巫子と友人のシリルがこの件に関わったとなれば嫌でも父上の耳に入るから、兄上が手柄を全部持ってくなんて事、まず無理になるし……そもそも兄上はそんな事なさらないだろう。」
「なら、人手は多いに限るわね。でも、お兄様だけじゃ、いざという時危険で心配だし、私も一緒に付いて行くわ。」
「は?!」

僕の案は検討の余地に値するのか、殿下は前向きに受け入れて下さりそうだったが、シルヴィアが付いて行くなんて無茶を言い出して、僕は自分の耳を疑った。

「何を言っているんだ、シルヴィア!駄目に決まってるだろう?!奴は危ないなんてもんじゃない、本当にろくでもない奴なんだ!そんな奴の所にお前を近寄らせるなんて、そんな悍ましい事っ」
「だからよ。私だって同じ気持ちだわ。それに……その気持ち、まんまサフィルの言いたい事だって、お兄様分かってる?」
「え“…うっ…」
「……。」

シルヴィアの意見にサフィルは何も言わなかったが、無言の視線が何よりの肯定だった。

「……お兄様は自分の事となると、途端に疎かになってしまうからね。私が傍に付けば、無茶をさせずに済むと思うわ。それでどうかしら?サフィル。」
「シルヴィア様……しかし…」
「私の事なら心配しないで。ね?カレン、カイト。」

そう言って、シルヴィアはカレンとカイトに片目を瞑ってウインクを送っていた。
それを受け取った二人は苦い顔で笑っている。

「あ…はは。」
「ま、確かに……シルヴィアがピッタリ付いてれば安心かも。」
「カレン?!カイトも!」

絶対反対すると思ったのに!
巫子達二人はシルヴィアを止めるどころか、頷くなんて。
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