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続編 開き直った公爵令息のやらかし
31話 公爵
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国王陛下を前にしても、実に軽いノリなのは、本当にもう巫子達らしくて懐かしく感じる程だった。
御前を退室後、僕らはまた側妃様のお部屋へと戻ってみたら、先客がいらっしゃった。
「殿下、失礼しております。」
「セルラト公爵。お待たせしてすまない。」
「いえ、今し方参りましたところですから。」
年の頃は二十代後半から三十代前半といったところか。
ベルティーナ様がお相手して下さっていたこの御仁は、ロレンツォ殿下の姿を目にし、深く頭を下げて礼をする。
対する殿下も軽く頭を下げ、相手に礼を示される。
いつも話を聞く殿下の様子は、貴族を嫌ってかなり敵対的な態度を取っている様な口ぶりばかりだから、きちんと礼儀をわきまえる対応をする殿下を目にするのは新鮮だった。
「巫子殿達は昨年の来訪の際、初日の歓迎パーティーで一度挨拶は交わしている筈だが、あの時は大人数相手でよく分からなかっただろうから、きちんと紹介しておこう。……ブラス・セルラト公爵だ。ヴァレンティーノ兄上に仕える側近の一人で、俺もよく相談に乗ってもらっている。」
「ブラス・セルラトと申します。殿下からのご紹介の通り、王太子殿下にお仕えさせて頂いております。どうぞよろしく。」
セルラト公爵はそう言って、僕ら一人一人と丁寧に握手を交わして下さった。
そして、シルヴィアの後、僕と握手をした際に。
「……失礼ですが、クレイン公子はその…シルヴィア嬢とよく似ていらっしゃいますね。」
真面目そうで丁寧な物腰の公爵は、僕の顔を改めて見て、目を丸める。
「ふふ。私は前世でお兄様と双子だったので。」
「え?!」
「巫子達の世界に転生して、彼らと共にまたこっちに来たんです。お兄様が心配でしたので。セルラト公爵様、兄の事、どうぞよろしくお願いしますね。」
「シルヴィアッ」
シルヴィアの話に公爵はビックリされていたが、彼女は構わず僕の事をよろしくと公爵にいうものだから。
僕は恥ずかしくなって彼女の方を向いたが。
ただニッコリと笑っていた。
……もう、シルヴィアってば。
「公爵、兄上は何と?」
「石の結果はまだもう少し判別に時間がかかるかと。ですが、恐らく偽銀でしょう。ヴァレンティーノ殿下はそのつもりで準備をなさっていらっしゃいます。それで私もこちらにお邪魔致しました。……ディオニシオが通う娼館へ潜入なさるのですよね?相手方のニコライの顔は、私が確認致します。その為にこちらに参りました。」
「そうか、貴殿は交渉の際に奴と面識がおありだから…」
「はい。なので私も共に潜入し、奴かどうかを確認します。そして……」
ヴァレンティーノ王太子殿下とロレンツォ殿下の橋渡し役として、セルラト公爵は赴いて下さった。
そして、彼も交えてこれからの計画が伝えられる。
僕のちょっとした出来心から動き出したこの潜入捜査は、いつの間にか王太子殿下とその側近の御方も交えた壮大なものになってしまっていた。
しかし、大人数での潜入となると、相手に不審な点を勘付かれてしまいかねない。
ターゲットのトレント男爵と直接対峙するのは僕とシルヴィアだけにして、テオにはまたお店のボーイとして僕らのフォローを。
そして、ニコライの確認をセルラト公爵が。
いざという時の為に隣室で潜入待機するのはロレンツォ殿下とサフィルとジーノの三人で。
僕らを心配して巫子二人はごねた為、彼らは店主のリアーヌさんのお部屋にて彼女と共に待機という事で、なんとか納得してくれた。
そして、店の周囲にヴァレンティーノ王太子の近衛兵で固めるという算段となったのだった————…。
「はー。そんな大捕り物するなんて聞いてないわよぉ……。もし店に損害が出たら、ちゃんと保証して下さるんでしょうねぇー?」
夕暮れ前、開店準備を始めているお店の女主人リアーヌさんは、げんなりと溜息をつきながら、訝し気な顔でロレンツォ殿下をねめつけていたが。
「店主、そこは安心なされよ。この件はロレンツォ殿下だけでなく、王太子殿下もご承知のところだ。店の者には迷惑をかけるが、その分保証はしっかりする様に言付かっている。」
「そうですか?……なら、出来る限りご協力は致しますけど…」
セルラト公爵の方からそう言明されて、リアーヌさんは渋々といった様子で了承していた。
「リアーヌさん、ごめんなさい。僕の所為でこんな事になってしまって……」
「あら、シリル様!あれから大丈夫でした~?」
しょんぼりと謝る僕の姿を目に止めたリアーヌさんは、パッと目を輝かせたかと思うと、スッと僕の傍までやって来て、こっそりと尋ねてくれた。。
「え?あ、はい。大丈夫ですよ。ちゃんと仲直りしましたから。でも、また男爵と接触する事になるので、サフィルにはまた心配をかけちゃうから、ちょっと元気が無いかも。」
「んー、それはアルベリーニ卿じゃなくても心配になっちゃいますよね。でも、一番接触しやすいのはシリル様ですしねぇ…。アイツには私共も迷惑してたんです。本当なら出禁にしてやろうかと検討していたくらいですから……。ですが、殿下が奴の悪行を調べているって仰ったから、うちも協力する事にしたんですよね~。……そうだ!シリル様にお教えしておきます、奴の事。」
「何です?」
リアーヌさんはそのまま小声でこっそりと、僕に耳打ちしてくれた。
「シリル様も前回、奴と接してみて実感されたかと思いますが、アイツは初物食いの変態野郎なんです。」
「あぁ、はいそれは。」
嫌という程実感しました。
酷い鬼畜野郎だって事を、ね。
「うちでも何人もの子が被害に遭って…。新人の子は特に慣れていないから、戸惑って相手の要求を上手く躱せないのをいい事にね。それで、うちも新人の仕事は分けて、お客にもその旨を通したんですけど。奴はそれを逆手に取ってしまって。アイツはね、慣れたベテランより初心で大人しい新人が好みなんです。それも、自分から来るタイプじゃなくて、引っ込み思案だったり、ちょっと嫌がる子を堕とすのが好みなの。だから、奴を引きつけたいなら戸惑う振りを。奴から離れたいなら、逆に自分からぐいぐい行けば奴は萎えるから、それで上手くコントロールしてみて。」
「あー……なるほど。よく分かりました、素晴らしいアドバイスありがとうございます、リアーヌさん。」
彼女の、男爵の性癖の解説を耳にして、僕は遠い目をして頷いた。
そっか。
僕、前回……アイツ好みの振舞い方をしていたんだな。
ヤダって言ってるのに、余計に迫って来たもんなぁ…。
なんだかとっても嫌な気分になったが、奴と直接対峙するんだ、この情報は正直有難い。
礼を口にする僕に、リアーヌさんはニンマリと笑みを浮かべた。
「……うふふ。それじゃあ、奴好みのシビルちゃんを早速作らないとね~。」
「う……はい。」
「モニカ!準備出来たぁ~?」
ちょっと大きい声で、扉の方へ向かって尋ねたリアーヌさんは。
顔を向けると、バーンと大きな音を立ててモニカさんが入って来た。
「はーい♡こちらは準備万端ですよ!」
なんだかとってもやる気に満ちたモニカさんと、クレアさんが居て。
僕は二人に別室へ連れられて、また変身させられたのだった。
サフィルが心配して付いて来ようとしてくれたが。
「抜け駆けはいけません。どうぞお楽しみに♪」
そう二人に言われて、部屋から閉め出されてしまっていた。
御前を退室後、僕らはまた側妃様のお部屋へと戻ってみたら、先客がいらっしゃった。
「殿下、失礼しております。」
「セルラト公爵。お待たせしてすまない。」
「いえ、今し方参りましたところですから。」
年の頃は二十代後半から三十代前半といったところか。
ベルティーナ様がお相手して下さっていたこの御仁は、ロレンツォ殿下の姿を目にし、深く頭を下げて礼をする。
対する殿下も軽く頭を下げ、相手に礼を示される。
いつも話を聞く殿下の様子は、貴族を嫌ってかなり敵対的な態度を取っている様な口ぶりばかりだから、きちんと礼儀をわきまえる対応をする殿下を目にするのは新鮮だった。
「巫子殿達は昨年の来訪の際、初日の歓迎パーティーで一度挨拶は交わしている筈だが、あの時は大人数相手でよく分からなかっただろうから、きちんと紹介しておこう。……ブラス・セルラト公爵だ。ヴァレンティーノ兄上に仕える側近の一人で、俺もよく相談に乗ってもらっている。」
「ブラス・セルラトと申します。殿下からのご紹介の通り、王太子殿下にお仕えさせて頂いております。どうぞよろしく。」
セルラト公爵はそう言って、僕ら一人一人と丁寧に握手を交わして下さった。
そして、シルヴィアの後、僕と握手をした際に。
「……失礼ですが、クレイン公子はその…シルヴィア嬢とよく似ていらっしゃいますね。」
真面目そうで丁寧な物腰の公爵は、僕の顔を改めて見て、目を丸める。
「ふふ。私は前世でお兄様と双子だったので。」
「え?!」
「巫子達の世界に転生して、彼らと共にまたこっちに来たんです。お兄様が心配でしたので。セルラト公爵様、兄の事、どうぞよろしくお願いしますね。」
「シルヴィアッ」
シルヴィアの話に公爵はビックリされていたが、彼女は構わず僕の事をよろしくと公爵にいうものだから。
僕は恥ずかしくなって彼女の方を向いたが。
ただニッコリと笑っていた。
……もう、シルヴィアってば。
「公爵、兄上は何と?」
「石の結果はまだもう少し判別に時間がかかるかと。ですが、恐らく偽銀でしょう。ヴァレンティーノ殿下はそのつもりで準備をなさっていらっしゃいます。それで私もこちらにお邪魔致しました。……ディオニシオが通う娼館へ潜入なさるのですよね?相手方のニコライの顔は、私が確認致します。その為にこちらに参りました。」
「そうか、貴殿は交渉の際に奴と面識がおありだから…」
「はい。なので私も共に潜入し、奴かどうかを確認します。そして……」
ヴァレンティーノ王太子殿下とロレンツォ殿下の橋渡し役として、セルラト公爵は赴いて下さった。
そして、彼も交えてこれからの計画が伝えられる。
僕のちょっとした出来心から動き出したこの潜入捜査は、いつの間にか王太子殿下とその側近の御方も交えた壮大なものになってしまっていた。
しかし、大人数での潜入となると、相手に不審な点を勘付かれてしまいかねない。
ターゲットのトレント男爵と直接対峙するのは僕とシルヴィアだけにして、テオにはまたお店のボーイとして僕らのフォローを。
そして、ニコライの確認をセルラト公爵が。
いざという時の為に隣室で潜入待機するのはロレンツォ殿下とサフィルとジーノの三人で。
僕らを心配して巫子二人はごねた為、彼らは店主のリアーヌさんのお部屋にて彼女と共に待機という事で、なんとか納得してくれた。
そして、店の周囲にヴァレンティーノ王太子の近衛兵で固めるという算段となったのだった————…。
「はー。そんな大捕り物するなんて聞いてないわよぉ……。もし店に損害が出たら、ちゃんと保証して下さるんでしょうねぇー?」
夕暮れ前、開店準備を始めているお店の女主人リアーヌさんは、げんなりと溜息をつきながら、訝し気な顔でロレンツォ殿下をねめつけていたが。
「店主、そこは安心なされよ。この件はロレンツォ殿下だけでなく、王太子殿下もご承知のところだ。店の者には迷惑をかけるが、その分保証はしっかりする様に言付かっている。」
「そうですか?……なら、出来る限りご協力は致しますけど…」
セルラト公爵の方からそう言明されて、リアーヌさんは渋々といった様子で了承していた。
「リアーヌさん、ごめんなさい。僕の所為でこんな事になってしまって……」
「あら、シリル様!あれから大丈夫でした~?」
しょんぼりと謝る僕の姿を目に止めたリアーヌさんは、パッと目を輝かせたかと思うと、スッと僕の傍までやって来て、こっそりと尋ねてくれた。。
「え?あ、はい。大丈夫ですよ。ちゃんと仲直りしましたから。でも、また男爵と接触する事になるので、サフィルにはまた心配をかけちゃうから、ちょっと元気が無いかも。」
「んー、それはアルベリーニ卿じゃなくても心配になっちゃいますよね。でも、一番接触しやすいのはシリル様ですしねぇ…。アイツには私共も迷惑してたんです。本当なら出禁にしてやろうかと検討していたくらいですから……。ですが、殿下が奴の悪行を調べているって仰ったから、うちも協力する事にしたんですよね~。……そうだ!シリル様にお教えしておきます、奴の事。」
「何です?」
リアーヌさんはそのまま小声でこっそりと、僕に耳打ちしてくれた。
「シリル様も前回、奴と接してみて実感されたかと思いますが、アイツは初物食いの変態野郎なんです。」
「あぁ、はいそれは。」
嫌という程実感しました。
酷い鬼畜野郎だって事を、ね。
「うちでも何人もの子が被害に遭って…。新人の子は特に慣れていないから、戸惑って相手の要求を上手く躱せないのをいい事にね。それで、うちも新人の仕事は分けて、お客にもその旨を通したんですけど。奴はそれを逆手に取ってしまって。アイツはね、慣れたベテランより初心で大人しい新人が好みなんです。それも、自分から来るタイプじゃなくて、引っ込み思案だったり、ちょっと嫌がる子を堕とすのが好みなの。だから、奴を引きつけたいなら戸惑う振りを。奴から離れたいなら、逆に自分からぐいぐい行けば奴は萎えるから、それで上手くコントロールしてみて。」
「あー……なるほど。よく分かりました、素晴らしいアドバイスありがとうございます、リアーヌさん。」
彼女の、男爵の性癖の解説を耳にして、僕は遠い目をして頷いた。
そっか。
僕、前回……アイツ好みの振舞い方をしていたんだな。
ヤダって言ってるのに、余計に迫って来たもんなぁ…。
なんだかとっても嫌な気分になったが、奴と直接対峙するんだ、この情報は正直有難い。
礼を口にする僕に、リアーヌさんはニンマリと笑みを浮かべた。
「……うふふ。それじゃあ、奴好みのシビルちゃんを早速作らないとね~。」
「う……はい。」
「モニカ!準備出来たぁ~?」
ちょっと大きい声で、扉の方へ向かって尋ねたリアーヌさんは。
顔を向けると、バーンと大きな音を立ててモニカさんが入って来た。
「はーい♡こちらは準備万端ですよ!」
なんだかとってもやる気に満ちたモニカさんと、クレアさんが居て。
僕は二人に別室へ連れられて、また変身させられたのだった。
サフィルが心配して付いて来ようとしてくれたが。
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