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続編 開き直った公爵令息のやらかし
22話 怒れる彼女
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そうして、急に現れたシルヴィアと救世の巫子カイト・カレンの面々に対して、再会を懐かしむ余裕も無く、やいのやいのと騒いでいた。
本来なら、この店の従業員である者達が仕事の合間に休息を取る、この場所で。
「テオ以上に恐ろしい事言わないでってば!」
僕が、膝上のシルヴィアにそう叫んだ瞬間だった。
お客を相手する戦場と、この休息を取る休憩室を隔てる扉が開いた。
「えー?新人?おっかしーわねー、入れてませんよ~。最近は貴方達も連れて来てないでしょー?」
「けど、さっきクレアが言ってただろ?新顔があの野郎を案内してたって!」
「そうですけどぉ……。おかしいわね……あの方はモニカと一緒の筈だし………って、え?モニカ?何でアンタ此処に居んの。」
後ろの人物に話しかけながら入室して来たのは、この店の女主人であるリアーヌさんで。
店の前での客引き係を買って出た筈のモニカさんが、意気込んで飛び出していった筈なのに、この様な休憩室で棒立ちになっていたものだから。
その姿を目にして、リアーヌさんが訝しんで彼女に声を掛けたら。
「…あ、リアーヌ。あの、それが…」
ようやく呪縛から解放されたかの様に口を開いたモニカさんだったが、リアーヌさんの後ろから入って来た人物の発した言葉に掻き消されてしまった。
「なぁ、リアーヌ!頼むからその子に会わせてくれよ!奴の話を詳しく聞きたいからさ……」
「あー!出た!元暴力王子!」
彼女と共に入って来たのはロレンツォ殿下とサフィル、ジーノの三人だ。
カイトは彼の姿を目にした途端、うわ出た!と声を上げていた。
そして、彼の前に無言でズンズン突き進んでいったのは、カレンで。
「ロレンツォ殿下ぁ~!ご機嫌麗しゅう~。お元気になさってらっしゃいましたかぁ~?」
僕からは彼女の背中しか見えていない状態だが、見なくても分かる。
非常にご機嫌な笑顔を向けながらも、口角や眉がピクピク震えて怒りを押し殺しているカレンの表情が。
「————え。貴女は、救世の」
「はいそうです、救世の巫女カレンです。戻って参りました。」
殿下が、ビックリし過ぎてポカンとしたかおをしているが、カレンはそんな事はお構いなしだ。
「何でまた…」
「………ふふふふ。殿下……前に私、言いましたよね?『くれぐれもシリルの事、よろしくお願いしますね。約束破ったら、どんな手使っても戻って来てやり返してみせますからね!』…ってぇ!」
カレンは、さっきの穏やかな口調をかなぐり捨てて、今度は怒気を孕んだ声音で叫んで、殿下に詰め寄っていた。
……って、ぼんやり見守ってる場合じゃない。
マズい。
こんな所で出くわす予定じゃ無かったのに。
「!」
僕は膝上のシルヴィアを無言でどかし、取り敢えずこの場からの脱出を試みる為、俯いて顔を隠そうとしたが。
「……シリル?それに、貴女は…シルヴィ」
「あ“ぁ?!シリルが二人も?!」
あぁぁぁ……。
見つかってしまった。
もっと素早く隠れられたら良かったんだけど。
次から次へとやって来る来訪者に目を丸めている内に、逃げ処を完全に失ってしまった。
気まずい思いで俯く僕とは対照的に、彼女は僕の横からスッと立ち上がり、スカートの裾は掴まなかったが、軽く膝を折って答える。
「貴方とこうして面と向かってお話するのは初めてですわね。私はシルヴィア。シリルお兄様の妹です。どうぞお見知りおきを。」
「……妹?————え。もしかして、サフィルが前に言ってた前世ってヤツの…」
昔の、公爵令嬢然とした、実に上品な挨拶は、そこまでだった。
まだ状況を飲み込みきれずに唖然とした様子で呟く殿下に対して。
“前世”というキーワードを耳にした途端。
彼女もまた、つかつかと殿下の前まで進み出て。
「えぇ。……その件では、兄とカレンが大っ変お世話になりまして。————こんのドS下衆野郎。この恨み、どうしてやるべきかぁ…っ」
非常に下品な言葉遣いになって、あろう事か殿下の胸倉を掴みかかって吠えるものだから。
「わぁぁっ!シルヴィア、やめるんだっ」
僕は、急いで後ろから彼女の両脇に腕を通して抱え上げて、彼女の行動を制止した。
弾みで殿下の胸倉から手を離してしまったシルヴィアは、怒りのボルテージが全く収まらない。
殿下の後ろでは、彼を害しようとしている見知らぬ女に対して、今にも飛び掛かろうと目をギラつかせたジーノの動きも、どうにか止める事が出来たが。
僕が必死に止めているのに、シルヴィアは僕の腕を振り解こうと暴れている。
「何で止めるのお兄様!サフィルはともかく、コイツはせめて一発ぶちのめさないとっ」
「止めるに決まってるだろ?!王子殿下に暴力沙汰なんていくら何でも許されないからねっ!大体、今や殿下は僕の上司なんだから、尚更止めるに決まってるじゃないかっ」
「いや、シリルはやっても良いんじゃないですか?」
「ちょ…っサフィル?!冗談言ってないで助けてよっ」
「……。」
え……。
サフィルは助け船を出してくれるどころか、じとぉ~とした目で僕を見てくるんだけど。
酷いよ。
結局、テオがシルヴィアを宥めてくれて、僕はようやく彼女を解放出来た。
……ただ。
「テオ!アンタまであのクソ王子の事、庇うつもり?!」
不満を爆発させてテオにそう問う彼女に対して、テオは。
「はは。まさか。」
と、実に爽やかな笑顔で答えて。
「じゃあ、誰の味方よ?!」
「もちろん、シリル様の味方です。俺はこの御方の従者ですから。」
「……分かったわよ…。」
なんだか、とても意気揚々と答えていたテオを目にして、シルヴィアはようやく怒りの矛を収めてくれた。
「……大丈夫ですわ、殿下。こういう込み入った事には首を突っ込んだりしません。ですが、心配してたんですよ……いつか女に刺されるんじゃないかって。お気をつけあそばせね。」
「うぐぅ……っ!んな事言われても、記憶に無いもんをどーすりゃいいんだよぉっ!」
シルヴィアから解放された殿下の横にそっと寄り添い、リアーヌさんから笑いをかみ殺した声でそう囁かれた殿下は。
ちょっと涙目で、彼女に八つ当たり気味に吠えていた。
本来なら、この店の従業員である者達が仕事の合間に休息を取る、この場所で。
「テオ以上に恐ろしい事言わないでってば!」
僕が、膝上のシルヴィアにそう叫んだ瞬間だった。
お客を相手する戦場と、この休息を取る休憩室を隔てる扉が開いた。
「えー?新人?おっかしーわねー、入れてませんよ~。最近は貴方達も連れて来てないでしょー?」
「けど、さっきクレアが言ってただろ?新顔があの野郎を案内してたって!」
「そうですけどぉ……。おかしいわね……あの方はモニカと一緒の筈だし………って、え?モニカ?何でアンタ此処に居んの。」
後ろの人物に話しかけながら入室して来たのは、この店の女主人であるリアーヌさんで。
店の前での客引き係を買って出た筈のモニカさんが、意気込んで飛び出していった筈なのに、この様な休憩室で棒立ちになっていたものだから。
その姿を目にして、リアーヌさんが訝しんで彼女に声を掛けたら。
「…あ、リアーヌ。あの、それが…」
ようやく呪縛から解放されたかの様に口を開いたモニカさんだったが、リアーヌさんの後ろから入って来た人物の発した言葉に掻き消されてしまった。
「なぁ、リアーヌ!頼むからその子に会わせてくれよ!奴の話を詳しく聞きたいからさ……」
「あー!出た!元暴力王子!」
彼女と共に入って来たのはロレンツォ殿下とサフィル、ジーノの三人だ。
カイトは彼の姿を目にした途端、うわ出た!と声を上げていた。
そして、彼の前に無言でズンズン突き進んでいったのは、カレンで。
「ロレンツォ殿下ぁ~!ご機嫌麗しゅう~。お元気になさってらっしゃいましたかぁ~?」
僕からは彼女の背中しか見えていない状態だが、見なくても分かる。
非常にご機嫌な笑顔を向けながらも、口角や眉がピクピク震えて怒りを押し殺しているカレンの表情が。
「————え。貴女は、救世の」
「はいそうです、救世の巫女カレンです。戻って参りました。」
殿下が、ビックリし過ぎてポカンとしたかおをしているが、カレンはそんな事はお構いなしだ。
「何でまた…」
「………ふふふふ。殿下……前に私、言いましたよね?『くれぐれもシリルの事、よろしくお願いしますね。約束破ったら、どんな手使っても戻って来てやり返してみせますからね!』…ってぇ!」
カレンは、さっきの穏やかな口調をかなぐり捨てて、今度は怒気を孕んだ声音で叫んで、殿下に詰め寄っていた。
……って、ぼんやり見守ってる場合じゃない。
マズい。
こんな所で出くわす予定じゃ無かったのに。
「!」
僕は膝上のシルヴィアを無言でどかし、取り敢えずこの場からの脱出を試みる為、俯いて顔を隠そうとしたが。
「……シリル?それに、貴女は…シルヴィ」
「あ“ぁ?!シリルが二人も?!」
あぁぁぁ……。
見つかってしまった。
もっと素早く隠れられたら良かったんだけど。
次から次へとやって来る来訪者に目を丸めている内に、逃げ処を完全に失ってしまった。
気まずい思いで俯く僕とは対照的に、彼女は僕の横からスッと立ち上がり、スカートの裾は掴まなかったが、軽く膝を折って答える。
「貴方とこうして面と向かってお話するのは初めてですわね。私はシルヴィア。シリルお兄様の妹です。どうぞお見知りおきを。」
「……妹?————え。もしかして、サフィルが前に言ってた前世ってヤツの…」
昔の、公爵令嬢然とした、実に上品な挨拶は、そこまでだった。
まだ状況を飲み込みきれずに唖然とした様子で呟く殿下に対して。
“前世”というキーワードを耳にした途端。
彼女もまた、つかつかと殿下の前まで進み出て。
「えぇ。……その件では、兄とカレンが大っ変お世話になりまして。————こんのドS下衆野郎。この恨み、どうしてやるべきかぁ…っ」
非常に下品な言葉遣いになって、あろう事か殿下の胸倉を掴みかかって吠えるものだから。
「わぁぁっ!シルヴィア、やめるんだっ」
僕は、急いで後ろから彼女の両脇に腕を通して抱え上げて、彼女の行動を制止した。
弾みで殿下の胸倉から手を離してしまったシルヴィアは、怒りのボルテージが全く収まらない。
殿下の後ろでは、彼を害しようとしている見知らぬ女に対して、今にも飛び掛かろうと目をギラつかせたジーノの動きも、どうにか止める事が出来たが。
僕が必死に止めているのに、シルヴィアは僕の腕を振り解こうと暴れている。
「何で止めるのお兄様!サフィルはともかく、コイツはせめて一発ぶちのめさないとっ」
「止めるに決まってるだろ?!王子殿下に暴力沙汰なんていくら何でも許されないからねっ!大体、今や殿下は僕の上司なんだから、尚更止めるに決まってるじゃないかっ」
「いや、シリルはやっても良いんじゃないですか?」
「ちょ…っサフィル?!冗談言ってないで助けてよっ」
「……。」
え……。
サフィルは助け船を出してくれるどころか、じとぉ~とした目で僕を見てくるんだけど。
酷いよ。
結局、テオがシルヴィアを宥めてくれて、僕はようやく彼女を解放出来た。
……ただ。
「テオ!アンタまであのクソ王子の事、庇うつもり?!」
不満を爆発させてテオにそう問う彼女に対して、テオは。
「はは。まさか。」
と、実に爽やかな笑顔で答えて。
「じゃあ、誰の味方よ?!」
「もちろん、シリル様の味方です。俺はこの御方の従者ですから。」
「……分かったわよ…。」
なんだか、とても意気揚々と答えていたテオを目にして、シルヴィアはようやく怒りの矛を収めてくれた。
「……大丈夫ですわ、殿下。こういう込み入った事には首を突っ込んだりしません。ですが、心配してたんですよ……いつか女に刺されるんじゃないかって。お気をつけあそばせね。」
「うぐぅ……っ!んな事言われても、記憶に無いもんをどーすりゃいいんだよぉっ!」
シルヴィアから解放された殿下の横にそっと寄り添い、リアーヌさんから笑いをかみ殺した声でそう囁かれた殿下は。
ちょっと涙目で、彼女に八つ当たり気味に吠えていた。
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