全てを諦めた公爵令息の開き直り

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続編 開き直った公爵令息のやらかし

21話 救世の巫子達再来+天使も共に

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「会いたかった…!お兄様!」

急に天井が光って、そこから僕の膝上へ舞い降りた天使の様な少女は。
がばっと僕の首元に抱き付いて、そう言って来て……。

サラリと舞う白銀のその長い髪は、藍色の瞳は。
死に別れた筈の、僕の双子の妹。

「え?!!シルヴィア?!」

訳が分からず滅茶苦茶驚いた声を上げたら、彼女は抱き付いて来た体を起こして、首には腕を絡めたまま、改めて僕の姿を見やって。
……そして。

「……お姉様!!」

懐かしさにちょっぴり潤ませていた筈の瞳は、急にキラキラと輝きだして、嬉々としてそう叫ばれた。

「お姉様って言わないで!」

僕は自分の今の格好を思い出し、急に恥ずかしくなって、咄嗟にそう叫び返していた。

もう相まみえる事は叶わないと思っていた筈の、たった一人の大切な妹との思いがけなくも嬉しくてたまらない邂逅だったのに。
再会した第一声が、コレだなんて。
僕は、なんだか別の意味で泣きたくなった。

「シリルっ!久しぶりぃ!」
「わーい、シリル~元気だった?!」

テオの背後から、ひょっこり姿を現したのは。
以前と全く変わらない笑顔をした……カイトとカレンで。
また、救世の巫子が共に降臨した。
今度は僕の転生した筈の妹シルヴィアを連れて。

「カイトさん!カレンさんっ!」
「テオさん!お久しぶりです!」
「テオさんも元気にしてた?」

キャッキャとはしゃぐ二人の巫子は、相変わらずかしましい。
モニカさんはただただびっくりして言葉を失って、目の前の光景を茫然と眺めている。

が、巫子二人がテオとの再会を喜んだ後、再度僕の方を見やって、やっと気付いた様だ。

「……シリル、何でまた女装してんの??」
「えー、何々?もしかして、癖になっちゃった♡とか?」
「————違うから!!」

シルヴィアを膝に乗せたまま動かない女装中の僕の姿に、カイトは首を傾げ、カレンはニヤニヤとした笑みを向けて来る。

「とっても似合ってるわ。何着ても素敵よ♡」
「……。」

膝に乗ったままのシルヴィアも、僕にお世辞を言ってくれるが。
……こんなにも嬉しくない称賛は初めてだよ。

げんなりしている僕からは視線を外し、カレンはこの部屋の周囲を見渡した。
そして、妙に胸元や太腿を露出させた衣装を着ているモニカさんに気付いて。
茫然としたまま言葉を失っている彼女に軽く会釈をしつつも、無言でその横を通り抜け、彼女の後ろの扉をゆっくりと開いたカレンは。

徐々にお客が入り始めたのか、案内したり、その豊満な胸を惜しげも無くお客の腕に押し付けて笑顔を振り撒いている店の女性達の姿を目にして。
そっと、その扉を閉じてから。

「どこ此処……もしかして、娼館?」
「わお~♪」

怪訝な顔をして、小声で尋ねて来るカレンの言葉を耳にして、隣のカイトは目を輝かせて悦びだす。

「再会早々悪いが、静かにしてくれ。潜入捜査中なんだ。」

僕は、騒がしい巫子達に対して、唇の前に右手の人差し指を立てて大人しくする様に求めると、巫子達は。

「潜入捜査?!なんて危ない事してんの、シリル!ただでさえ美人さんなのに、どんな輩に手を出される事か…!」
「そうよ。カイトですら、鼻の下伸ばしてたくらいなんだから!」
「うぐ…っ」

全然静かにしてくれない。
それどころか、僕の膝に乗るシルヴィアまで。

「ちょっとカイト!貴方でもお姉様に手を出したら許さないから!」
「だから、お姉様って言わないで!」

カイトに怒るシルヴィアだが……そんな怒り方しないで欲しい。
僕は、再度泣きたい心地で彼女に言い返していた。

「それにしても、どうして?サフィルは?ロレンツォ殿下も。あれ程、シリルに何かあったら許さないからって、言っといたってのに!あの男共はどうしたのよ。」

眉根を寄せて怪訝な顔をして尋ねて来るカレンに、僕は一瞬言葉を詰まらせたが、当たり障りのない範囲で、正直に答えた。

「うっ…。その……サフィルや殿下は大事にしてくれてるから、大丈夫だよ。コレも僕が勝手にやってるだけだから。」

膝に乗ったまま降りないシルヴィアは、何も言わずにキョトンとした表情で僕の顔を覗き込んで来る。
だが、カイトは同じ様な顔をして尋ねて来た。

「何でまた?」
「…だって、心配にもなるじゃない。僕だけ置いて、殿下とサフィルとジーノ、三人で娼館に出入りしてたらさぁ…。」

仕事とはいえ。と、付け足す前に。
僕の返答を聞いた巫子達がまた騒ぎ出した。

「はぁ?!シリルだけ置いて、三人で娼館通いしてんの?!信じらんない!」
「こんな美人のシリルを置いて、あり得ねーって!殿下にしたって、ソフィアちゃんだっけ?あんな可愛い婚約者が健気に待ってくれてんのに?!もー、何なんアイツら!」
「本命には迂闊に手を出せないから、娼館通いで持て余した性欲、発散しに来てるって事ぉ?!最低っ」

カイトもだが、それ以上にカレンが滅茶苦茶怒り出した。
随分な言い様である。
しかし、一番負のオーラを漂わせていたのは、膝上のシルヴィアだった。

「シリル兄様、アイツらいっその事…去勢してやりましょう。」

僕の両肩を掴む手に少し力を込めて、美しいが故にゾッとするくらい冷たい眼差しで言うものだから、軽い冗談と流せる雰囲気ではない。

「ひぇ…っ」

そのシルヴィアの本気ともとれる迫力に、カイトは青ざめた顔をして、身を縮こませた。
そして、それは僕も同じで。

「テオ以上に恐ろしい事言わないでってば!」

僕は悲鳴に近い声を出していた。

僕の膝に乗る、目の前のこの天使は。
とても美しくて愛らしい筈なのに。
怒らせると心底恐ろしい言葉を吐くなんて。
以前の、一途でちょっと勝ち気だけど、怖がりなところもあって可愛かったシルヴィアは。
随分、変わってしまった様だ。

多少の変化は仕方が無いが。
でも、兄の僕としては思ってしまう。

戻って来て……妹よ。
ぐすっ…。
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