全てを諦めた公爵令息の開き直り

key

文字の大きさ
上 下
243 / 366
続編 開き直った公爵令息のやらかし

20話 あぶなかったぁ

しおりを挟む
テオに肩を抱えられて、ふらついた足取りでなんとか店員用の休憩室まで連れて来てもらった僕は。
力が抜けて、ドサッとソファーに腰を下ろした。

「シビル様…っ!大丈夫でしたか?!」

店の他の女の子達の視線に注意しながら、やや声を落として、テオは僕を心配してくれたが……僕は。

「………は…う…ぁ…」
「……シビル様っ」

まだ心臓がばくばくしてる。
テオが膝を折って、僕の両肩を掴んで再度呼び掛けて来るが、僕がまともな返答を出来ずに俯くと。

「っ!」

彼はギリッと奥歯を噛み締めて、バッと立ち上がり、元の部屋へ戻ろうとした。
それに気付いた僕は、すぐさま彼の腕を掴んでその場に留まらせる。

「シビルさ…っ」
「……あ、あ…あぶなかったぁぁぁ!!あともうちょっと遅かったら、大変な事になってた…!よかったぁ~~~間に合って。あ“りがどぉ~でお”ぉ~~~っ!」

半泣き状態で彼の腕に縋り付き、今度は僕が泣き付いたら。
テオが、がばっと僕を抱きしめてくれた。

「~~~~すみませんでしたっ遅くなって!お声が聞こえて直ぐに飛び込もうとしたのですが、奴の来客に捕まってしまって…。本当に本当に申し訳ございませんっ」
「ううん、ちゃんと来てくれるって信じてたよぉ…っ!本当に助かったぁ…。ごめん、上手に対応し切れなくって…」

出番前でここで休憩している他の女の子達が、ざわざわしながら遠巻きに僕らを見ていたが、僕はそんな事には気も回らず、ピーピー泣いてテオに縋り付いていた。
すると、後ろから怪我をした手にガーゼを貼り付けたモニカさんがやって来た。

モニカさんの姿を目にした周囲の女の子達は、ビクッとなって皆慌てて休憩室から出て行った。
おサボりがバレてマズいと思ったのかな。
そうだ。
モニカさん、この店の店主とも近しい間柄の様だもんね。

「シビル…さん、テオさん。大丈夫だった?!……ごめんなさい、私の所為でいきなり大変な目に遭わせてしまって…」
「モニカさん…!手は大丈夫ですか?」
「こんなの、怪我した内に入らないもの。それなのに、申し訳ないわ……」
「そんな、ぼ…私の方こそ、ご迷惑をおかけしてしまって、申し訳ないです…。来客があって退出する様に言われたので抜けて来たんですが、店の方は大丈夫でしょうか……」

僕が扉の向こうの商売中の店内の方を気にして目を向けたが、モニカさんはニコッと笑ってくれた。

「お客から部屋を出る様に言われたんでしょ?なら問題ないわよ。どうせ、用があればまた呼ばれるんだし。」
「え“。またシビル様を呼び戻されたりしませんよね?」

テオはギョッとして眉を顰めたが、モニカさんがキッパリと答えてくれた。

「言われたとしても断るわよ。ごねても知らないわ。向こうがうちのルール破って、いきなり新人を連れ込んだんですもの。断る理由は充分よ。よくパニックにならずに上手くあしらって下さったわ。初めてなのに大変だったでしょう……。」
「そ…それが…アイツ……っ!」

再び僕を心配してくれるモニカさんに、僕が焦ってソファーから腰を浮かせかけた……その時。

唐突に天井が光って。
頭上が急に明るくなったと感じて、思わず視線を上げてみた。
すると、急に靄の様なものが見えて、それで。

……そこから何かが姿を現した。

何か大きな塊が、自身の頭上から降って来て。
テオが僕を庇うよりも前に、それは僕の膝の上へふわりと舞い降りたのだ。

淡いプラチナブロンドの髪がさらりと頬をくすぐり、しっかりと強い意思を秘めながらも愛嬌を感じさせる茶色の瞳が、僕の姿をその瞳に捉えた。

……と、思ったら。

そのプラチナブロンドはみるみるうちに僕と同じ白銀へと変貌し、茶色の瞳は瞬きと共に藍色の瞳へと色を変えた。
その、天使の様な愛くるしい美貌の……少女は。

「会いたかった…!お兄様!」

そう言って、僕の首元へ抱き付いたのだった————…。
しおりを挟む
感想 16

あなたにおすすめの小説

義兄の愛が重すぎて、悪役令息できないのですが…!

ずー子
BL
戦争に負けた貴族の子息であるレイナードは、人質として異国のアドラー家に送り込まれる。彼の使命は内情を探り、敗戦国として奪われたものを取り返すこと。アドラー家が更なる力を付けないように監視を託されたレイナード。まずは好かれようと努力した結果は実を結び、新しい家族から絶大な信頼を得て、特に気難しいと言われている長男ヴィルヘルムからは「右腕」と言われるように。だけど、内心罪悪感が募る日々。正直「もう楽になりたい」と思っているのに。 「安心しろ。結婚なんかしない。僕が一番大切なのはお前だよ」 なんだか義兄の様子がおかしいのですが…? このままじゃ、スパイも悪役令息も出来そうにないよ! ファンタジーラブコメBLです。 平日毎日更新を目標に頑張ってます。応援や感想頂けると励みになります♡ 【登場人物】 攻→ヴィルヘルム 完璧超人。真面目で自信家。良き跡継ぎ、良き兄、良き息子であろうとし続ける、実直な男だが、興味関心がない相手にはどこまでも無関心で辛辣。当初は異国の使者だと思っていたレイナードを警戒していたが… 受→レイナード 和平交渉の一環で異国のアドラー家に人質として出された。主人公。立ち位置をよく理解しており、計算せずとも人から好かれる。常に兄を立てて陰で支える立場にいる。課せられた使命と現状に悩みつつある上に、義兄の様子もおかしくて、いろんな意味で気苦労の絶えない。

飼われる側って案外良いらしい。

なつ
BL
20XX年。人間と人外は共存することとなった。そう、僕は朝のニュースで見て知った。 なんでも、向こうが地球の平和と引き換えに、僕達の中から選んで1匹につき1人、人間を飼うとかいう巫山戯た法を提案したようだけれど。 「まあ何も変わらない、はず…」 ちょっと視界に映る生き物の種類が増えるだけ。そう思ってた。 ほんとに。ほんとうに。 紫ヶ崎 那津(しがさき なつ)(22) ブラック企業で働く最下層の男。悪くない顔立ちをしているが、不摂生で見る影もない。 変化を嫌い、現状維持を好む。 タルア=ミース(347) 職業不詳の人外、Swis(スウィズ)。お金持ち。 最初は可愛いペットとしか見ていなかったものの…?

成長を見守っていた王子様が結婚するので大人になったなとしみじみしていたら結婚相手が自分だった

みたこ
BL
年の離れた友人として接していた王子様となぜか結婚することになったおじさんの話です。

【完結】可愛いあの子は番にされて、もうオレの手は届かない

天田れおぽん
BL
劣性アルファであるオズワルドは、劣性オメガの幼馴染リアンを伴侶に娶りたいと考えていた。 ある日、仕えている王太子から名前も知らないオメガのうなじを噛んだと告白される。 運命の番と王太子の言う相手が落としていったという髪飾りに、オズワルドは見覚えがあった―――― ※他サイトにも掲載中 ★⌒*+*⌒★ ☆宣伝☆ ★⌒*+*⌒★  「婚約破棄された不遇令嬢ですが、イケオジ辺境伯と幸せになります!」  が、レジーナブックスさまより発売中です。  どうぞよろしくお願いいたします。m(_ _)m

性悪なお嬢様に命令されて泣く泣く恋敵を殺りにいったらヤられました

まりも13
BL
フワフワとした酩酊状態が薄れ、僕は気がつくとパンパンパン、ズチュッと卑猥な音をたてて激しく誰かと交わっていた。 性悪なお嬢様の命令で恋敵を泣く泣く殺りに行ったら逆にヤラれちゃった、ちょっとアホな子の話です。 (ムーンライトノベルにも掲載しています)

【短編】乙女ゲームの攻略対象者に転生した俺の、意外な結末。

桜月夜
BL
 前世で妹がハマってた乙女ゲームに転生したイリウスは、自分が前世の記憶を思い出したことを幼馴染みで専属騎士のディールに打ち明けた。そこから、なぜか婚約者に対する恋愛感情の有無を聞かれ……。  思い付いた話を一気に書いたので、不自然な箇所があるかもしれませんが、広い心でお読みください。

主人公のライバルポジにいるようなので、主人公のカッコ可愛さを特等席で愛でたいと思います。

小鷹けい
BL
以前、なろうサイトさまに途中まであげて、結局書きかけのまま放置していたものになります(アカウントごと削除済み)タイトルさえもうろ覚え。 そのうち続きを書くぞ、の意気込みついでに数話分投稿させていただきます。 先輩×後輩 攻略キャラ×当て馬キャラ 総受けではありません。 嫌われ→からの溺愛。こちらも面倒くさい拗らせ攻めです。 ある日、目が覚めたら大好きだったBLゲームの当て馬キャラになっていた。死んだ覚えはないが、そのキャラクターとして生きてきた期間の記憶もある。 だけど、ここでひとつ問題が……。『おれ』の推し、『僕』が今まで嫌がらせし続けてきた、このゲームの主人公キャラなんだよね……。 え、イジめなきゃダメなの??死ぬほど嫌なんだけど。絶対嫌でしょ……。 でも、主人公が攻略キャラとBLしてるところはなんとしても見たい!!ひっそりと。なんなら近くで見たい!! ……って、なったライバルポジとして生きることになった『おれ(僕)』が、主人公と仲良くしつつ、攻略キャラを巻き込んでひっそり推し活する……みたいな話です。 本来なら当て馬キャラとして冷たくあしらわれ、手酷くフラれるはずの『ハルカ先輩』から、バグなのかなんなのか徐々に距離を詰めてこられて戸惑いまくる当て馬の話。 こちらは、ゆるゆる不定期更新になります。

不遇聖女様(男)は、国を捨てて闇落ちする覚悟を決めました!

ミクリ21
BL
聖女様(男)は、理不尽な不遇を受けていました。 その不遇は、聖女になった7歳から始まり、現在の15歳まで続きました。 しかし、聖女ラウロはとうとう国を捨てるようです。 何故なら、この世界の成人年齢は15歳だから。 聖女ラウロは、これからは闇落ちをして自由に生きるのだ!!(闇落ちは自称)

処理中です...