全てを諦めた公爵令息の開き直り

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続編 開き直った公爵令息のやらかし

14話 協力者

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「……素敵……本当に素敵…」

ほぅ…っと感嘆の溜息をついて、ソフィア嬢はそう口にされる。

「は…はは……お世辞は結構ですよ…ソフィア様。」
「いいえ!決してお世辞などではございません、シリル様っ!あぁ素敵……素敵すぎます…」

衣装はベルティーナ様が昔、着ておられたドレスを貸して下さって、侍女のダリア嬢に命じて、簡単な手直しもして頂いた。
横で見ておられたソフィア嬢は、ただただ目を輝かせて、変身していく僕の姿を見入っておられた。
最初は心配であまり気乗りされてらっしゃらなかったベルティーナ様もまた、僕の着付けと化粧が終わった頃には、ソフィア嬢と同じ様な反応をされて。

「美しいわ……これは…エウリルスでパーティーの時にダンスのお誘いが絶えなかったって話も納得ねぇ…」

なんて、言われる始末で。

「面白いもの見たさですよ……。ただ、これなら大丈夫そうですかね?」
「バレる心配はなさそうだけど……別の意味で心配だわ。」
「それは私もです。シリル様、やっぱり危ないのではないですか?」

う…っ。
せっかく恥も外聞も捨てて、また女装したってのに。
娼館に出向くのは危険だからやめておいたら?って空気になってしまってる!
ベルティーナ様だけでなく、ソフィア嬢まで、また心配され始めたから。

「いいえ!大丈夫です!手伝って頂きありがとうございました!では行って来ます!」

彼女らの心配を振り切って、飛び出そうとしたら。

「待って、クレイン卿。正体がバレるのはマズいので、この姿ではそうね……“シビル”と名乗っておきなさい。」
「はい。」
「それと……ダリア。彼女を供に付かせるわ。この子はロレン達が潜入している娼館の内部協力者とも知り合いだから、顔を繋いでくれるでしょう。……ダリア、頼めるかしら。」
「お任せ下さい、ベルティーナ様。シリル様……いえ、シビル様の事、私がとりなし致しましょう。」

そう言って、ベルティーナ様の一番の侍女であるダリア嬢が付き添ってくれる事になった。

「すみません、ダリア嬢。よろしくお願いします。」
「こちらこそ。……シビル様、くれぐれもご無理はなさらないで下さいね。」
「……はい。」
「では、参りましょうか。」

そう言って、ダリア嬢は淡々と主人からの命令を実行し、僕達を目的地へ案内してくれた。

アデリートの王都ヴェネトリアの路地の一角に居を構える、娼館フルール。
其処こそが、サフィル達が潜入中の場所であり、ターゲットであるトレント男爵の出入りしている娼館だった。
開店前である今の時間に、店の正面ではなく裏口へと案内された僕達は、ダリア嬢に従って付いて行くと。
しばらくその場で待ちぼうけを喰らっていたが。
不意に裏口の扉が開いて、少女が一人出て来たのを目にしたダリア嬢は、サッとそちらへ走り、言伝をしていた。

「お待たせ致しました。今、殿下の協力者である、モニカという女性を連れて来て、とあの娘に伝えましたから、程なく来るでしょう。」

と、戻って来たダリア嬢は、僕に教えてくれた。
そして、少しして、茶色いフワフワのくせ毛をした、愛くるしい顔をした少女が現れた。

「ダリア様!久しぶりね。何?ロレン様達に差し入れ?」

パッと明るくなる表情で寄って来たモニカ嬢は、しかし、僕と目が合った途端、すぐ首を傾げた。

「ん?だぁれ?そちらの美人さん……。ここは娼館よ。こんな所でうろついてたら、店の女の子に間違われて連れ込まれたりしたら大変よ?」
「モニカ、こちらシリルさ…」
「えぇー?!」 

ダリア嬢は、心配してくれるモニカ嬢に説明しようと、僕を紹介しかけてくれたが、僕の名を耳にしたモニカ嬢は。 

「貴女がシリル様?!あ、お噂はかねがね。ロレン様に新しくお仕えになられる事になった方ですよね!……でも、側近なら…男の方の筈よね?なんで?」 
「初めまして、モニカさん。僕はシリル……いえ、今回こちらに僕も潜入させて頂きたくて、女装してみました。なので、シビルって呼んで下さい。早速で申し訳ないんですが……モニカさんから見て、僕でもお店の女性店員の様に見えますか?」 

いきなり不躾になってしまったが、何より先ずはそこが知りたくて、僕は自己紹介もそこそこに、果たして僕は潜入出来るに値するか、尋ねてみたのだが。

「シリル様……いえ、シビル様ですね。先ず見た目は完璧です。ちょっとお上品すぎるくらい。娼館の女のコなら、本当はもっと胸元の開いた服の方が良いでしょうが、ソコは初心者って事で誤魔化しましょう。あと、僕ではなくあたしとか私に言い換えが必要ですが、それ以外は問題ないんじゃないかしら。」
「あ、そっか。すみません、ありがとうございます……ご指摘下さって。」
「そんな、あたしごときにそんな丁寧に言って下さらなくても。……そうだわ。潜入したいんですよね。なら、取り敢えず……ここの責任者に会っておかれます?体験入店って事で話を通しましょうか。」
「話が早くて助かります!お願いします、モニカさん。……ダリア嬢、モニカさんに無事引き合わせて下さり、助かりました。ありがとうございます。」

僕はダリア嬢に頭を下げて礼を言うと。

「あ、髪の毛のセットが崩れるといけませんので、あまり頭は動かされない方が良いかと思いますよ。この後シリル様…いえ、シビル様はどうなされるおつもりですか?」
「先ずはモニカさんにお願いして、このお店の管理者に面通しをお願いしてから、殿下達を見て来ます。なので、これでもう大丈夫ですよ。ここまでありがとうございました、ダリア嬢。ベルティーナ様やソフィア様にも宜しくお伝え下さい。」
「……そうですか。では、テオドール様……シビル様の事、後はお願い致しますね。それでは、私はこれにて。」

そう言って、ダリア嬢は僕達に一礼すると、城の方へ帰って行ったのだった。

「……ふふふ、ダリア様ったら。しっかりしてる様で抜けてんだから。それなら、こんな女装される必要なんて無いじゃないですか。私がロレン様達にお繋ぎすればいいだけなんだし。……ですよね、シビル様?」
「……!はい。そうなんですよ、モニカさん。」

ニンマリと悪い顔をして笑うモニカさんは、とっても楽しそうに僕にそう尋ねてくれて。
対する僕は、パッと明るい顔で答えた。
彼女、なかなかにできる人だ。
僕の意図を分かってくれてる……!
後ろでテオが、「え“…っ」と声を濁したが、僕は構わず案内してくれるモニカさんの後に続いた。

「……え。シルヴィア?……いや、あれは…シリルか……?」

少し離れた場所からそんな僕らの様子を目にして、そう呟いていた者が居たが、モニカさんとの話に盛り上がっていた僕らは、そんなの全く気付きもしなかった。
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