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番外編その2 サフィル・アルベリーニの悔恨
10話
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私が意識を失って倒れた事に、流石の殿下もこたえたのか。
明確な謝罪の言葉は無かったが、それ以降、私に暴力を振るわれる事は無くなった。
折角、対策に腹に鉄板でも入れてやろうか、とか。
投げやりな事も頭をよぎったが。
それは杞憂に終わった。
けれど。
それよりも厄介な羽目に至ったのが。
「……公子はそれからどうなんだ?」
「……え?クレイン公子様、ですか?相変わらずでいらっしゃるみたいですけど…」
カイト様の事ならともかく、シリル様の事を訊くなんて。
一体、どういう風の吹き回しだろう。
この前、いけ好かない、とまで言っていたのに。
「好きなんだろ?お前、アイツの事。」
「え、いや…あの、ですから……」
「思ったんだが、俺、応援してやろうと思って、お前の事。」
なんて、急に仰るから。
「はい?」
「だから、お前とクレイン卿の事。好きなら、早くモノにしちまえよ。卒業したら、もう会える機会も無くなるんだぞ?」
「……それはまぁ、そうですけど。」
「だからさ、くっつきたいなら、もう時間はねぇぞ。俺が協力してやるから、さっさとくっつけ、今すぐくっつけ。」
な、何だ、何だ?!
今まであんなに精神的に不安定で、手や足が出る事がままあったのに。
それを自戒した途端、何かおかしな方向に……。
なんて、私は訝しんだが。
しかし。
「そうだよ!何で今まで気付かなかったんかなー、俺!お前とクレイン卿がくっ付けば、お前は憧れの公子様と一緒になれて万々歳。んで、クレイン卿と仲の良い救世の巫子も釣れて、一石二鳥だよな!」
…………は?
巫子様を手に入れる為に………シリル様を……利用すると、いうのか。
私の心も、利用して……。
「……反対です。————絶対に嫌だ。たとえ殿下の命令でも、それは呑めません。大体、未来の公爵様が、私程度の身分の低い…子爵の、それも子息如き、相手にもなさりませんよ。私が令嬢だったなら、まだしもっ」
分かっていた事だ。
まだ身分が多少低かろうと。
それでも貴族の、令嬢であったなら。
一目ぼれとか、色目を使って、とか。
いっその事、無理矢理襲って既成事実を作ってしまい、責任を問うて追い詰める……なんて方法も。
無茶苦茶だが、それでも、無理をすれば、そんな手も使えなくはなかったかもしれない。
けれど。
私も、かの御方も、共に男で、同性で。
婚姻する事も出来なければ、家の為に子孫を残す事も、出来ない。
……そんなの、全て分かっていた事だ。
恋人の真似事の様な事しか出来ない、友人の延長線の様にしか、見なされない。
そんな事、曲がりなりにも貴族として生まれた以上、到底許される事ではないのだ。
特に、家督を継げない身軽な私ならば、まだともかく。
近い将来、クレイン家の正式な公爵の地位を継がれる、シリル様は……特に。
長く公爵代理を務められていたシリル様の叔父君は。
初めこそ、周囲から……いつシリル様から公爵家を奪い取る気かと、好奇な目で見られていたが。
そんな事は一切なさらず、ずっと頑なに代理の立場で居続けられて。
ようやく、周囲も疑念を持つ者が出なくなり、シリル様の次期公爵の座は確実視されている……という事らしいのに。
そんな、爵位継承前の大事な時期のシリル様の人生に、私の様な者が下手に汚点を付けてしまうなんて事、あってはならないのだ。
絶対に。
そんな事は、可能性は低くとも、王位継承権を保持されているロレンツォ殿下こそ、よくご存じの筈だろう。
それなのに。
軽々にそんな事を仰るなんて。
そんな殿下に。
そして。
自分で、駄目だという事を、口にせざるを得なかった……私は。
言ってしまってから、打ちのめされた。
……ただ、綺麗で美しいと。
眺めているだけなら、良かった。
そもそも向こうは気付いてすら、いらっしゃらないし。
私一人が淡く憧れの様に、ただ見つめているだけならば、誰も傷付かずに済むのに。
あの御方を見つめれば、見つめる程、のめり込んでしまって。
けれど。
好きならば、好きだからこそ。
決して巻き込む事は、出来ない。
彼の輝かしい未来を奪う権利など、誰にもありはしないのだから。
「……時間が無いなら尚の事、他の現実的な手を考えましょう。……巫子様の警備は厳重で、外での接触は難しいですから……少し先にはなりますが、新年の祝賀パーティーなどはどうですか?給仕の人員配置などで、人の出入りが激しくなりますし、浮かれた空気に気が緩む隙を突き易いのではないでしょうか。巫子様はそもそもパーティーなどが苦手でいらっしゃる様です。必ずご休憩もとられる事でしょう。そこで偶然を装って接触を図るのはどうでしょうか。根が素直でお優しい方です。涙交じりに情に訴えかければ、一度の接触でも……協力のきっかけを得るくらいは可能かと。」
今まで観察して来た巫子様は。
本当にそんなご様子だったから。
下手に策を弄して失敗した場合、失態は取り戻せない。
それならば。
ただただ情に訴えかけ、哀れみを誘う方が、確実だ。
私は。
いつになく冷たく冴えた頭で、必死に考えを巡らせ。
無事、その結論が通されたのだった。
明確な謝罪の言葉は無かったが、それ以降、私に暴力を振るわれる事は無くなった。
折角、対策に腹に鉄板でも入れてやろうか、とか。
投げやりな事も頭をよぎったが。
それは杞憂に終わった。
けれど。
それよりも厄介な羽目に至ったのが。
「……公子はそれからどうなんだ?」
「……え?クレイン公子様、ですか?相変わらずでいらっしゃるみたいですけど…」
カイト様の事ならともかく、シリル様の事を訊くなんて。
一体、どういう風の吹き回しだろう。
この前、いけ好かない、とまで言っていたのに。
「好きなんだろ?お前、アイツの事。」
「え、いや…あの、ですから……」
「思ったんだが、俺、応援してやろうと思って、お前の事。」
なんて、急に仰るから。
「はい?」
「だから、お前とクレイン卿の事。好きなら、早くモノにしちまえよ。卒業したら、もう会える機会も無くなるんだぞ?」
「……それはまぁ、そうですけど。」
「だからさ、くっつきたいなら、もう時間はねぇぞ。俺が協力してやるから、さっさとくっつけ、今すぐくっつけ。」
な、何だ、何だ?!
今まであんなに精神的に不安定で、手や足が出る事がままあったのに。
それを自戒した途端、何かおかしな方向に……。
なんて、私は訝しんだが。
しかし。
「そうだよ!何で今まで気付かなかったんかなー、俺!お前とクレイン卿がくっ付けば、お前は憧れの公子様と一緒になれて万々歳。んで、クレイン卿と仲の良い救世の巫子も釣れて、一石二鳥だよな!」
…………は?
巫子様を手に入れる為に………シリル様を……利用すると、いうのか。
私の心も、利用して……。
「……反対です。————絶対に嫌だ。たとえ殿下の命令でも、それは呑めません。大体、未来の公爵様が、私程度の身分の低い…子爵の、それも子息如き、相手にもなさりませんよ。私が令嬢だったなら、まだしもっ」
分かっていた事だ。
まだ身分が多少低かろうと。
それでも貴族の、令嬢であったなら。
一目ぼれとか、色目を使って、とか。
いっその事、無理矢理襲って既成事実を作ってしまい、責任を問うて追い詰める……なんて方法も。
無茶苦茶だが、それでも、無理をすれば、そんな手も使えなくはなかったかもしれない。
けれど。
私も、かの御方も、共に男で、同性で。
婚姻する事も出来なければ、家の為に子孫を残す事も、出来ない。
……そんなの、全て分かっていた事だ。
恋人の真似事の様な事しか出来ない、友人の延長線の様にしか、見なされない。
そんな事、曲がりなりにも貴族として生まれた以上、到底許される事ではないのだ。
特に、家督を継げない身軽な私ならば、まだともかく。
近い将来、クレイン家の正式な公爵の地位を継がれる、シリル様は……特に。
長く公爵代理を務められていたシリル様の叔父君は。
初めこそ、周囲から……いつシリル様から公爵家を奪い取る気かと、好奇な目で見られていたが。
そんな事は一切なさらず、ずっと頑なに代理の立場で居続けられて。
ようやく、周囲も疑念を持つ者が出なくなり、シリル様の次期公爵の座は確実視されている……という事らしいのに。
そんな、爵位継承前の大事な時期のシリル様の人生に、私の様な者が下手に汚点を付けてしまうなんて事、あってはならないのだ。
絶対に。
そんな事は、可能性は低くとも、王位継承権を保持されているロレンツォ殿下こそ、よくご存じの筈だろう。
それなのに。
軽々にそんな事を仰るなんて。
そんな殿下に。
そして。
自分で、駄目だという事を、口にせざるを得なかった……私は。
言ってしまってから、打ちのめされた。
……ただ、綺麗で美しいと。
眺めているだけなら、良かった。
そもそも向こうは気付いてすら、いらっしゃらないし。
私一人が淡く憧れの様に、ただ見つめているだけならば、誰も傷付かずに済むのに。
あの御方を見つめれば、見つめる程、のめり込んでしまって。
けれど。
好きならば、好きだからこそ。
決して巻き込む事は、出来ない。
彼の輝かしい未来を奪う権利など、誰にもありはしないのだから。
「……時間が無いなら尚の事、他の現実的な手を考えましょう。……巫子様の警備は厳重で、外での接触は難しいですから……少し先にはなりますが、新年の祝賀パーティーなどはどうですか?給仕の人員配置などで、人の出入りが激しくなりますし、浮かれた空気に気が緩む隙を突き易いのではないでしょうか。巫子様はそもそもパーティーなどが苦手でいらっしゃる様です。必ずご休憩もとられる事でしょう。そこで偶然を装って接触を図るのはどうでしょうか。根が素直でお優しい方です。涙交じりに情に訴えかければ、一度の接触でも……協力のきっかけを得るくらいは可能かと。」
今まで観察して来た巫子様は。
本当にそんなご様子だったから。
下手に策を弄して失敗した場合、失態は取り戻せない。
それならば。
ただただ情に訴えかけ、哀れみを誘う方が、確実だ。
私は。
いつになく冷たく冴えた頭で、必死に考えを巡らせ。
無事、その結論が通されたのだった。
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