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番外編その2 サフィル・アルベリーニの悔恨
9話
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「……?」
「気が付いたか?サフィル。」
フッと目を開くと、無機質な声音で上から声を掛けて来たのは。
「ジーノ……」
ベッドに横になっている私を、何の感情も読み取れない無表情で見つめて来るジーノは。
「アンタのそのどっちつかずな態度、ホント、イライラする。」
急にそんな喧嘩腰で言って来るものだから。
「……何の…話だよ。」
私もつい、声を低くしたが。
ジーノは。
「だって、そうだろ?アンタはさ…殿下の命令は取り敢えず聞くけど…殿下に将来の側近として選んで頂いた癖に、全然忠誠は尽くさないし。あの公子の事も、好きなのか何なのか知らないけど、コソコソ盗み見る割に、何をするでも無いし。いい加減ハッキリしろよ。」
「……お前に、私の何が分かるんだよっ」
そんな、知った風な口を。
私だって。
しなくて済むのなら、こんな事、願い下げだ。
でも、自分が何もかもを放棄すれば、家族はどうなる?妹は?
シリル様に至っては。
ただ、遠くから拝見して、眺められればそれでいい。
少しでも、笑って、楽しく過ごされておられるのなら。
ただでさえ、こんなややこしい事態に直面している自分なのに、何が出来る訳も、無いではないか。
ずっと殿下の隣から、私の事も見ていた筈だろう。
それなのに、お前はそんな事も分からないのか。
ここ最近の殿下の私への酷い仕打ちも知っている筈なのに。
それでもジーノはそんな事を口にするから。
私はどうにも腹立たしくて仕方なかったが、ジーノが。
「知らないね、アンタの事なんて。興味も無ければ知りたくもない。アンタなんて居る必要、俺には全然分かんねーのに。でも、殿下はそうじゃないみたいだ。」
そう言って、私から視線を外したジーノが、横の方を見やると、其処には。
私の服の裾を握りしめて、ベッドに上体だけ預けて椅子に座ったまま眠りこけている殿下の姿が、目に映って。
「殿下、動かなくなったお前を見て、真っ青になって俺に泣き付いて来られたんだ。『無性に腹が立って抑えきれなかったけど、まさか、動けなくなるほどだとは思わなかったんだ。だって、アイツ…いつも俺が癇癪を起しても、平然とした顔してたからっ!どうしようジーノ……サフィルまで死んじゃったら…俺…』って。だから、あの公子が巫子を呼びに行ったみたいだったけど、俺が先に回収したんだ。何の成果も出せてない癖に、それなのに……殿下にあんな顔…させるなんて。」
……悔しい。
ジーノは、そう呟いて。
子爵家の子息としてぬくぬくと育った自分とは違い。
汚い路地裏の隅で身をかがめ、スリや盗みを働いて、その日暮らしをしていた幼少のジーノは、ガラの悪い大人に捕まり、ボコボコにされかけていた時に殿下と出会って、助けられて。
そして、自分の従者から護衛騎士へと掬い上げて貰った者だったから。
彼からすれば、あんなでも殿下はまさに救いの神そのものだ。
だから、彼は殿下の一番信頼している従者で、母君以外では一番大切にされていた。
どんなに怒りをコントロール出来ずに暴れても、その暴力がジーノに向かう事だけは無かったから。
それだけ大事にされているのに、悔しい、だなんて。
「アンタは、乞食だった俺とは違って、学院に通わせてもらって、課題まで手伝ってもらえてるのにっ!もっと何か…出来る筈だろ?!何の為に今まで勉強してきたんだよ!下働きなら、俺だってやる!だから、殿下を助ける為に、もっと真剣に動いてくれよ……っ!」
殿下に対して忠誠心の無い私など、全く信用していない筈のジーノが。
それでも、そんな私にすら救いを求める様に、言って来るから。
私はもう、それ以上何も言えなかった。
「気が付いたか?サフィル。」
フッと目を開くと、無機質な声音で上から声を掛けて来たのは。
「ジーノ……」
ベッドに横になっている私を、何の感情も読み取れない無表情で見つめて来るジーノは。
「アンタのそのどっちつかずな態度、ホント、イライラする。」
急にそんな喧嘩腰で言って来るものだから。
「……何の…話だよ。」
私もつい、声を低くしたが。
ジーノは。
「だって、そうだろ?アンタはさ…殿下の命令は取り敢えず聞くけど…殿下に将来の側近として選んで頂いた癖に、全然忠誠は尽くさないし。あの公子の事も、好きなのか何なのか知らないけど、コソコソ盗み見る割に、何をするでも無いし。いい加減ハッキリしろよ。」
「……お前に、私の何が分かるんだよっ」
そんな、知った風な口を。
私だって。
しなくて済むのなら、こんな事、願い下げだ。
でも、自分が何もかもを放棄すれば、家族はどうなる?妹は?
シリル様に至っては。
ただ、遠くから拝見して、眺められればそれでいい。
少しでも、笑って、楽しく過ごされておられるのなら。
ただでさえ、こんなややこしい事態に直面している自分なのに、何が出来る訳も、無いではないか。
ずっと殿下の隣から、私の事も見ていた筈だろう。
それなのに、お前はそんな事も分からないのか。
ここ最近の殿下の私への酷い仕打ちも知っている筈なのに。
それでもジーノはそんな事を口にするから。
私はどうにも腹立たしくて仕方なかったが、ジーノが。
「知らないね、アンタの事なんて。興味も無ければ知りたくもない。アンタなんて居る必要、俺には全然分かんねーのに。でも、殿下はそうじゃないみたいだ。」
そう言って、私から視線を外したジーノが、横の方を見やると、其処には。
私の服の裾を握りしめて、ベッドに上体だけ預けて椅子に座ったまま眠りこけている殿下の姿が、目に映って。
「殿下、動かなくなったお前を見て、真っ青になって俺に泣き付いて来られたんだ。『無性に腹が立って抑えきれなかったけど、まさか、動けなくなるほどだとは思わなかったんだ。だって、アイツ…いつも俺が癇癪を起しても、平然とした顔してたからっ!どうしようジーノ……サフィルまで死んじゃったら…俺…』って。だから、あの公子が巫子を呼びに行ったみたいだったけど、俺が先に回収したんだ。何の成果も出せてない癖に、それなのに……殿下にあんな顔…させるなんて。」
……悔しい。
ジーノは、そう呟いて。
子爵家の子息としてぬくぬくと育った自分とは違い。
汚い路地裏の隅で身をかがめ、スリや盗みを働いて、その日暮らしをしていた幼少のジーノは、ガラの悪い大人に捕まり、ボコボコにされかけていた時に殿下と出会って、助けられて。
そして、自分の従者から護衛騎士へと掬い上げて貰った者だったから。
彼からすれば、あんなでも殿下はまさに救いの神そのものだ。
だから、彼は殿下の一番信頼している従者で、母君以外では一番大切にされていた。
どんなに怒りをコントロール出来ずに暴れても、その暴力がジーノに向かう事だけは無かったから。
それだけ大事にされているのに、悔しい、だなんて。
「アンタは、乞食だった俺とは違って、学院に通わせてもらって、課題まで手伝ってもらえてるのにっ!もっと何か…出来る筈だろ?!何の為に今まで勉強してきたんだよ!下働きなら、俺だってやる!だから、殿下を助ける為に、もっと真剣に動いてくれよ……っ!」
殿下に対して忠誠心の無い私など、全く信用していない筈のジーノが。
それでも、そんな私にすら救いを求める様に、言って来るから。
私はもう、それ以上何も言えなかった。
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