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第5章

188話 来て欲しい※

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広間でまだまだ飲み足りないと酒を飲み交わしている殿下達を横目にすり抜け、サフィルは足早に僕の手を引いて、2階の奥の自分の部屋へと誘った。

掴まれている手が熱い。
緊張と期待で高鳴る鼓動が抑えられず、その手から彼にも伝わってしまっているんじゃないかと思う程で。

迎え入れてくれた彼の部屋は小さく、こじんまりとしていたが、ちゃんと整理されていて、こざっぱりとしていた。

(……ここが、サフィルの部屋…)

初めて見る彼の部屋に、僕は興味を惹かれて見回したが。

「シリルっ」

直ぐ後ろからサフィルに抱き付かれて。
僕は振り返って顔を上げ、彼にキスをした。

「嫌だと感じたら……無理せず言って下さい。蹴り飛ばしてもらって、構わないので。」
「そんな事出来ないよ。僕こそ、その…ごめん。この手の事は不得手だから、その…あまり貴方を善く出来ないかもしれないけど、が、頑張るからっ…んむっ」

僕がなんとか言い切る前に、その口を塞がれる。
待ちきれないとばかりに貪られて、頭がクラッとする。
性急に舌を絡め取られて、吸い上げられるが、名残惜し気に解放された。

「…ふ…ぁっ」

僕は、彼のキスだけで息が上がり、頬が上気するが。
無言の彼に、月明かりが差し込むだけの薄暗い部屋のベッドへと促される。
緊張しているのは彼も同じで、不安をその顔に滲ませている。

今更ながらに怖気づいて、拒まれるかもしれないと、心配しているのだろうか?
……大丈夫だよ。
ずっと望んでいた事なのだから。

表情の硬いサフィルに、僕はふわりと笑みを見せた。

「シリル…」
「僕は大丈夫だよ。……嬉しいんだ、サフィル。」

だから。
僕は自身が拙い事も、不得手な事も重々承知しているが。
それでも貴方を求めている事を知って欲しくて。

僕は上着を脱いで側の椅子へ適当にかけると、促されたベッドに腰かけた。
そして、緊張で高鳴る鼓動の所為で震える手を叱咤しながら、そっとシャツのボタンを外していくと。

「ふ…っ」

それまでの不安や戸惑いなんかとは違う、欲に煽られた雄の貌をした彼が、其処には居て。
もう我慢出来ないとばかりに、ベッドへと押し倒される。
そして、抗いがたい興奮をもって、噛みつく様なキスをされる。

「ふぁっ…はっ…シリル…っ」
「サフィル…」

それでもきっと、僕を傷付けない様に、箍を外さない様に、サフィルは耐えているのだろう。
シャツの下に滑り込まれた彼の手は、でも、とても優しい。

けれど、もう。
我慢しないで欲しい。
ありのままの想いを、欲望を。
そのままぶつけて欲しいんだ。
感じたいんだ、その全てを。

僕は彼の首に両腕を回し、彼の耳元で囁いた。

「お願いだ。来て、サフィル。」
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