全てを諦めた公爵令息の開き直り

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第5章

185話 それから

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“お兄様、私の事は心配しないで。新しい世界で楽しくやってるから…”

「……シルヴィア?」

ふと、耳元で聞こえた妹の声が、残響となって脳裏をよぎって。
僕はハッと顔を上げたが。
いつもの見慣れた部屋だった。

————あれから。

王宮で令嬢達は無事、デビュタントを済ませ。
華やかに着飾った令嬢達の中でも、王太子にエスコートされていたクリスティーナ・オースティン侯爵令嬢は、一際輝いていた。

そんな少女達の儀式も無事終えた後。
僕は叔父様と共に王宮へ呼ばれ、王太子の計らいもあり、無事、叔父様にクレイン公爵を継いでもらう事が出来た。
そして、僕が叔父様の養子となる事も、国王陛下のお許しを得られた。
その際に叔父様にまた抱きしめられたのは、生涯忘れる事は無いだろう。

また、嫡子はリチャードに。と重ねてお願いし、それも受け入れられた。
ただ、僕の勝手でお願いしてしまったから、将来もし、あの子が何らかの理由で次期公爵を望まなければ、その時はどうか教えて下さい。
一緒に悩み、考えさせて欲しいから。

と、リチャード本人と叔父様叔母様にも、伝えて。
最初はとても戸惑っていたけれど。
僕の、家族に対する気持ち、そして、好きな人が出来た事も。
正直に全部話した。

驚く叔父様と叔母様は。
でも、ずっと側で仕えていたテオからも話を聞いて、最終的に納得してくれて。

好きな人が出来たと気付いたのに、どう足掻いても許されない事。
家の為にも相手の為にも、諦めないといけないのに…と辛くて、ずっと悩んでいた事。

でも、僕の明かし方も悪かったけれど、テオはサフィル達の事、殊更嫌っていた筈なのに。
後でテオに尋ねてみると。

「…俺はアイツを認めた訳じゃ無いですけどね。ご家族との今後の良好なご関係も、シリル様にとって大切な事ですから。」

と、言ってくれて。
それに巫子達にも、その事が唯一心配だ。と言われていたらしいが。
今までずっと側仕えをしてきた自分がなんとか上手く仲裁出来る様、頑張りますから。
だから、巫子達に安心して欲しいと、話していたらしい。

本当に、何から何まで。
……ありがとう。

我儘ばかり言ってしまって、ごめんなさい。
でも、だからと言って、叔父様にこの家を継いで欲しいからって、黙って飛び出してしまう様な事をせずに済んで良かった。
僕を自分の息子として受け入れてくれたルーファス義父上とグレイス義母上に、全てを赤裸々に話す事は出来なくて、申し訳ないけれど。
それでも、可能な限りの気持ちを打ち明けられて、受け入れてもらえて、本当に良かったと思う。

こんな僕ではあるけれど、どうかこれからも、新たな形で。
家族で、いさせて欲しい。
僕は此処を離れる事になるけれど。
離れても、家族が居てくれるという事は、きっと僕のなによりの心の支えなんだ。
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