全てを諦めた公爵令息の開き直り

key

文字の大きさ
上 下
185 / 364
第5章

185話 それから

しおりを挟む
“お兄様、私の事は心配しないで。新しい世界で楽しくやってるから…”

「……シルヴィア?」

ふと、耳元で聞こえた妹の声が、残響となって脳裏をよぎって。
僕はハッと顔を上げたが。
いつもの見慣れた部屋だった。

————あれから。

王宮で令嬢達は無事、デビュタントを済ませ。
華やかに着飾った令嬢達の中でも、王太子にエスコートされていたクリスティーナ・オースティン侯爵令嬢は、一際輝いていた。

そんな少女達の儀式も無事終えた後。
僕は叔父様と共に王宮へ呼ばれ、王太子の計らいもあり、無事、叔父様にクレイン公爵を継いでもらう事が出来た。
そして、僕が叔父様の養子となる事も、国王陛下のお許しを得られた。
その際に叔父様にまた抱きしめられたのは、生涯忘れる事は無いだろう。

また、嫡子はリチャードに。と重ねてお願いし、それも受け入れられた。
ただ、僕の勝手でお願いしてしまったから、将来もし、あの子が何らかの理由で次期公爵を望まなければ、その時はどうか教えて下さい。
一緒に悩み、考えさせて欲しいから。

と、リチャード本人と叔父様叔母様にも、伝えて。
最初はとても戸惑っていたけれど。
僕の、家族に対する気持ち、そして、好きな人が出来た事も。
正直に全部話した。

驚く叔父様と叔母様は。
でも、ずっと側で仕えていたテオからも話を聞いて、最終的に納得してくれて。

好きな人が出来たと気付いたのに、どう足掻いても許されない事。
家の為にも相手の為にも、諦めないといけないのに…と辛くて、ずっと悩んでいた事。

でも、僕の明かし方も悪かったけれど、テオはサフィル達の事、殊更嫌っていた筈なのに。
後でテオに尋ねてみると。

「…俺はアイツを認めた訳じゃ無いですけどね。ご家族との今後の良好なご関係も、シリル様にとって大切な事ですから。」

と、言ってくれて。
それに巫子達にも、その事が唯一心配だ。と言われていたらしいが。
今までずっと側仕えをしてきた自分がなんとか上手く仲裁出来る様、頑張りますから。
だから、巫子達に安心して欲しいと、話していたらしい。

本当に、何から何まで。
……ありがとう。

我儘ばかり言ってしまって、ごめんなさい。
でも、だからと言って、叔父様にこの家を継いで欲しいからって、黙って飛び出してしまう様な事をせずに済んで良かった。
僕を自分の息子として受け入れてくれたルーファス義父上とグレイス義母上に、全てを赤裸々に話す事は出来なくて、申し訳ないけれど。
それでも、可能な限りの気持ちを打ち明けられて、受け入れてもらえて、本当に良かったと思う。

こんな僕ではあるけれど、どうかこれからも、新たな形で。
家族で、いさせて欲しい。
僕は此処を離れる事になるけれど。
離れても、家族が居てくれるという事は、きっと僕のなによりの心の支えなんだ。
しおりを挟む
感想 16

あなたにおすすめの小説

幽閉王子は最強皇子に包まれる

皇洵璃音
BL
魔法使いであるせいで幼少期に幽閉された第三王子のアレクセイ。それから年数が経過し、ある日祖国は滅ぼされてしまう。毛布に包まっていたら、敵の帝国第二皇子のレイナードにより連行されてしまう。処刑場にて皇帝から二つの選択肢を提示されたのだが、二つ目の内容は「レイナードの花嫁になること」だった。初めて人から求められたこともあり、花嫁になることを承諾する。素直で元気いっぱいなド直球第二皇子×愛されることに慣れていない治癒魔法使いの第三王子の恋愛物語。 表紙担当者:白す(しらす)様に描いて頂きました。

性悪なお嬢様に命令されて泣く泣く恋敵を殺りにいったらヤられました

まりも13
BL
フワフワとした酩酊状態が薄れ、僕は気がつくとパンパンパン、ズチュッと卑猥な音をたてて激しく誰かと交わっていた。 性悪なお嬢様の命令で恋敵を泣く泣く殺りに行ったら逆にヤラれちゃった、ちょっとアホな子の話です。 (ムーンライトノベルにも掲載しています)

俺の彼氏は俺の親友の事が好きらしい

15
BL
「だから、もういいよ」 俺とお前の約束。

【完】僕の弟と僕の護衛騎士は、赤い糸で繋がっている

たまとら
BL
赤い糸が見えるキリルは、自分には糸が無いのでやさぐれ気味です

魔界最強に転生した社畜は、イケメン王子に奪い合われることになりました

タタミ
BL
ブラック企業に務める社畜・佐藤流嘉。 クリスマスも残業確定の非リア人生は、トラックの激突により突然終了する。 死後目覚めると、目の前で見目麗しい天使が微笑んでいた。 「ここは天国ではなく魔界です」 天使に会えたと喜んだのもつかの間、そこは天国などではなく魔法が当たり前にある世界・魔界だと知らされる。そして流嘉は、魔界に君臨する最強の支配者『至上様』に転生していたのだった。 「至上様、私に接吻を」 「あっ。ああ、接吻か……って、接吻!?なんだそれ、まさかキスですか!?」 何が起こっているのかわからないうちに、流嘉の前に現れたのは美しい4人の王子。この4王子にキスをして、結婚相手を選ばなければならないと言われて──!?

【完結・BL】俺をフッた初恋相手が、転勤して上司になったんだが?【先輩×後輩】

彩華
BL
『俺、そんな目でお前のこと見れない』 高校一年の冬。俺の初恋は、見事に玉砕した。 その後、俺は見事にDTのまま。あっという間に25になり。何の変化もないまま、ごくごくありふれたサラリーマンになった俺。 そんな俺の前に、運命の悪戯か。再び初恋相手は現れて────!?

男装の麗人と呼ばれる俺は正真正銘の男なのだが~双子の姉のせいでややこしい事態になっている~

さいはて旅行社
BL
双子の姉が失踪した。 そのせいで、弟である俺が騎士学校を休学して、姉の通っている貴族学校に姉として通うことになってしまった。 姉は男子の制服を着ていたため、服装に違和感はない。 だが、姉は男装の麗人として女子生徒に恐ろしいほど大人気だった。 その女子生徒たちは今、何も知らずに俺を囲んでいる。 女性に囲まれて嬉しい、わけもなく、彼女たちの理想の王子様像を演技しなければならない上に、男性が女子寮の部屋に一歩入っただけでも騒ぎになる貴族学校。 もしこの事実がバレたら退学ぐらいで済むわけがない。。。 周辺国家の情勢がキナ臭くなっていくなかで、俺は双子の姉が戻って来るまで、協力してくれる仲間たちに笑われながらでも、無事にバレずに女子生徒たちの理想の王子様像を演じ切れるのか? 侯爵家の命令でそんなことまでやらないといけない自分を救ってくれるヒロインでもヒーローでも現れるのか?

転生したけど赤ちゃんの頃から運命に囲われてて鬱陶しい

翡翠飾
BL
普通に高校生として学校に通っていたはずだが、気が付いたら雨の中道端で動けなくなっていた。寒くて死にかけていたら、通りかかった馬車から降りてきた12歳くらいの美少年に拾われ、何やら大きい屋敷に連れていかれる。 それから温かいご飯食べさせてもらったり、お風呂に入れてもらったり、柔らかいベッドで寝かせてもらったり、撫でてもらったり、ボールとかもらったり、それを投げてもらったり───ん? 「え、俺何か、犬になってない?」 豹獣人の番大好き大公子(12)×ポメラニアン獣人転生者(1)の話。 ※どんどん年齢は上がっていきます。 ※設定が多く感じたのでオメガバースを無くしました。

処理中です...