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第5章

184話 帰還

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「……だはっ!!」

バチッと目を見開き。
ガバッと勢い良く体を起こすと。
其処は自分のベッドで。

……帰って来たんだ、元の世界に!

懐かしい自分の散らかった部屋を見渡して、すぐに部屋を飛び出した。

「夏恋っ!!」

俺は、隣の夏恋の部屋を勢い良く開けたが。

「ぶっ!」

顔面に飛んで来た枕がクリーンヒットした。

「バカ海斗っ!!勝手に部屋開けんなっ!!」

そう怒鳴られると、バタン!と勢い良く扉を閉められた。
パジャマから服に着替えてたらしい。

何だよ。
帰還して早々着替えんでも、一緒に戻って来た感慨に耽ってもいいじゃんか。
俺は足下に落ちた枕を拾って、扉の横にのそのそと置いたが。

「海斗、取り敢えずいいから早くアンタも着替えて来て。」

何故か焦った様な声で、夏恋がそう言うから。
俺は渋々部屋に戻って、適当な部屋着に着替えたが。

そうしている内に、夏恋が猛スピードで階段を駆け下りて行った。
……何かあったのかな?

首を傾げながら俺もすぐ後を追うと。

「あら、あんた達やっと起きたの。」

玄関に立っていたのは母で、呆れた声で俺と夏恋を見やっていたが。
玄関先に、誰か立っている。
お客さん?

「今日引っ越して来られたんだって。」

母がそう言って、その視線の先に目をやると、其処には。

「初めまして。鶴見シルヴィアと申します。」

そう言って自己紹介してくれる、プラチナブロンドの髪を風に靡かせて、キリッとしつつも愛嬌を感じさせる茶色の目をした、この少女は。

「シルヴィアちゃん!」
「シルヴィアちゃんだっ」

あの世界での銀髪、藍色の瞳の、彼女とは、髪も瞳も色が異なってはいるが。
シルヴィア・クレイン公爵令嬢。
あのシルヴィア嬢とそっくりそのままの少女が、其処には居て。

俺と夏恋は思わず彼女に抱き付いた。

「うわぁぁん!シルヴィアちゃん!」
「シルヴィアちゃん、シルヴィアちゃんだぁ~!」
「ちょ、ちょっと、鶴見さんに失礼でしょ!どうしたの?!」

抱き付いて泣きじゃくる俺達の様子に、母は呆れよりも心底驚いていたが。
目の前の彼女はニッコリ笑って、俺達を抱きしめ返してくれた。

「カレン、カイト。これからは、こっちでよろしくね。」

長い夢から醒めた少女は。
この世界に転生し、新たな人生を歩んでいくのだった————…。
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