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第5章

166話 輝石の欠片

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「そうだ。あの時は話を聞くだけで精一杯だったのですが、僕が魔力をヴァルトシュタイン侯爵に渡すのを手助けして下さったのが、サフィルだったんですね。……あの時は、本当にありがとうございました。」

僕がベッド上からだが、礼を述べて頭をペコリと下げると、サフィルはそのアメジストの綺麗な瞳を潤ませて。

「私はただ、貴方の手を掴んだだけです。助けてくれたのは、祖母がくれた……あの護り石の欠片でした。」
「あの、以前見せて下さった、黒っぽい輝石ですか?」
「えぇ。殿下から教えてもらいました。べルティーナ側妃様がまだ宮女だった頃、私の祖母から聞いたそうです。あの石は本当の魔石の贋作で、祖母の一族が代々受け継いできたものだったそうで。レプリカではあっても、長い年月をかけて本物の魔石の様に代々の持ち主の魔力を纏って、その者の魔力を吸い取る代わりに、その身に危険が迫ると、石が発動して持ち主を護るモノだと。」
「……それで、“護り石”と呼ばれていたんですね。」

へぇ…と僕が興味深く聞き入っていると、サフィルは少し下を向いて微笑んだ。

「ですが、石は私を護って砕け散ってしまいました。貴方が魔力を暴走させてしまった時に。あの石に溜め込まれていた魔力でも、力負けしてしまった様でしたので、余程の魔力だったのですね。貴方が侯爵に攫われた後で、殿下に石の事を教えられて。あの石が貴方を連れ戻し、侯爵に対抗出来る唯一の魔力だったと知って、私は絶望しましたが……殿下が、その石の欠片でも、まだ力は残っている筈だから拾って持っておけ。と言って。その石の欠片が……あの森の屋敷で、シリル様の手を掴んだ時に、貴方の膨大な魔力を包んで。それを侯爵が受け取ったのですよ。」

……そうだったのか。
そんな事が起こっていたなんて。

「貴方が居なければ、僕は魔力の譲渡にきっと失敗してしまったでしょう……。あの時手を掴んで下さって、本当にありがとうございました。それに……大切な貴方の石を割ってしまって、なんと謝罪をすればいいか……」

僕の魔力の暴走の所為で、あの護り石を砕いてしまったなんて。
単なる宝石なら弁償も出来るが、そんな特別な石となると、とても弁償など出来ない。
頭を下げるしかない僕に、サフィルは恐縮して。

「顔をお上げ下さい。……いいのです。貴方さえ、無事でいて下されば、それで。あの石で、貴方をお救いする一助となれて良かった。………ただ、貴方にお伝えせねばならない事があるのです。」

すると、サフィルはそれまでの柔和な笑みを消し、表情を硬くした。

「あの時、貴方をあの空き家で見つけ、抱きしめた時……思い出したんです。過去の記憶を全て。」
「………まさか。前世の事、思い出したのですか……?」

恐る恐る尋ねる僕に、卿はそうだと頷いた。

そう言えば、あの時…カミル殿下の幻影を追いかけて意識を失った後、サフィルの声で目を覚ました時。
サフィルは酷い頭痛を訴えて、白目を剥いて。
おそらく、その時に……取り戻したんだ、記憶を。
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