166 / 369
第5章
166話 輝石の欠片
しおりを挟む
「そうだ。あの時は話を聞くだけで精一杯だったのですが、僕が魔力をヴァルトシュタイン侯爵に渡すのを手助けして下さったのが、サフィルだったんですね。……あの時は、本当にありがとうございました。」
僕がベッド上からだが、礼を述べて頭をペコリと下げると、サフィルはそのアメジストの綺麗な瞳を潤ませて。
「私はただ、貴方の手を掴んだだけです。助けてくれたのは、祖母がくれた……あの護り石の欠片でした。」
「あの、以前見せて下さった、黒っぽい輝石ですか?」
「えぇ。殿下から教えてもらいました。べルティーナ側妃様がまだ宮女だった頃、私の祖母から聞いたそうです。あの石は本当の魔石の贋作で、祖母の一族が代々受け継いできたものだったそうで。レプリカではあっても、長い年月をかけて本物の魔石の様に代々の持ち主の魔力を纏って、その者の魔力を吸い取る代わりに、その身に危険が迫ると、石が発動して持ち主を護るモノだと。」
「……それで、“護り石”と呼ばれていたんですね。」
へぇ…と僕が興味深く聞き入っていると、サフィルは少し下を向いて微笑んだ。
「ですが、石は私を護って砕け散ってしまいました。貴方が魔力を暴走させてしまった時に。あの石に溜め込まれていた魔力でも、力負けしてしまった様でしたので、余程の魔力だったのですね。貴方が侯爵に攫われた後で、殿下に石の事を教えられて。あの石が貴方を連れ戻し、侯爵に対抗出来る唯一の魔力だったと知って、私は絶望しましたが……殿下が、その石の欠片でも、まだ力は残っている筈だから拾って持っておけ。と言って。その石の欠片が……あの森の屋敷で、シリル様の手を掴んだ時に、貴方の膨大な魔力を包んで。それを侯爵が受け取ったのですよ。」
……そうだったのか。
そんな事が起こっていたなんて。
「貴方が居なければ、僕は魔力の譲渡にきっと失敗してしまったでしょう……。あの時手を掴んで下さって、本当にありがとうございました。それに……大切な貴方の石を割ってしまって、なんと謝罪をすればいいか……」
僕の魔力の暴走の所為で、あの護り石を砕いてしまったなんて。
単なる宝石なら弁償も出来るが、そんな特別な石となると、とても弁償など出来ない。
頭を下げるしかない僕に、サフィルは恐縮して。
「顔をお上げ下さい。……いいのです。貴方さえ、無事でいて下されば、それで。あの石で、貴方をお救いする一助となれて良かった。………ただ、貴方にお伝えせねばならない事があるのです。」
すると、サフィルはそれまでの柔和な笑みを消し、表情を硬くした。
「あの時、貴方をあの空き家で見つけ、抱きしめた時……思い出したんです。過去の記憶を全て。」
「………まさか。前世の事、思い出したのですか……?」
恐る恐る尋ねる僕に、卿はそうだと頷いた。
そう言えば、あの時…カミル殿下の幻影を追いかけて意識を失った後、サフィルの声で目を覚ました時。
サフィルは酷い頭痛を訴えて、白目を剥いて。
おそらく、その時に……取り戻したんだ、記憶を。
僕がベッド上からだが、礼を述べて頭をペコリと下げると、サフィルはそのアメジストの綺麗な瞳を潤ませて。
「私はただ、貴方の手を掴んだだけです。助けてくれたのは、祖母がくれた……あの護り石の欠片でした。」
「あの、以前見せて下さった、黒っぽい輝石ですか?」
「えぇ。殿下から教えてもらいました。べルティーナ側妃様がまだ宮女だった頃、私の祖母から聞いたそうです。あの石は本当の魔石の贋作で、祖母の一族が代々受け継いできたものだったそうで。レプリカではあっても、長い年月をかけて本物の魔石の様に代々の持ち主の魔力を纏って、その者の魔力を吸い取る代わりに、その身に危険が迫ると、石が発動して持ち主を護るモノだと。」
「……それで、“護り石”と呼ばれていたんですね。」
へぇ…と僕が興味深く聞き入っていると、サフィルは少し下を向いて微笑んだ。
「ですが、石は私を護って砕け散ってしまいました。貴方が魔力を暴走させてしまった時に。あの石に溜め込まれていた魔力でも、力負けしてしまった様でしたので、余程の魔力だったのですね。貴方が侯爵に攫われた後で、殿下に石の事を教えられて。あの石が貴方を連れ戻し、侯爵に対抗出来る唯一の魔力だったと知って、私は絶望しましたが……殿下が、その石の欠片でも、まだ力は残っている筈だから拾って持っておけ。と言って。その石の欠片が……あの森の屋敷で、シリル様の手を掴んだ時に、貴方の膨大な魔力を包んで。それを侯爵が受け取ったのですよ。」
……そうだったのか。
そんな事が起こっていたなんて。
「貴方が居なければ、僕は魔力の譲渡にきっと失敗してしまったでしょう……。あの時手を掴んで下さって、本当にありがとうございました。それに……大切な貴方の石を割ってしまって、なんと謝罪をすればいいか……」
僕の魔力の暴走の所為で、あの護り石を砕いてしまったなんて。
単なる宝石なら弁償も出来るが、そんな特別な石となると、とても弁償など出来ない。
頭を下げるしかない僕に、サフィルは恐縮して。
「顔をお上げ下さい。……いいのです。貴方さえ、無事でいて下されば、それで。あの石で、貴方をお救いする一助となれて良かった。………ただ、貴方にお伝えせねばならない事があるのです。」
すると、サフィルはそれまでの柔和な笑みを消し、表情を硬くした。
「あの時、貴方をあの空き家で見つけ、抱きしめた時……思い出したんです。過去の記憶を全て。」
「………まさか。前世の事、思い出したのですか……?」
恐る恐る尋ねる僕に、卿はそうだと頷いた。
そう言えば、あの時…カミル殿下の幻影を追いかけて意識を失った後、サフィルの声で目を覚ました時。
サフィルは酷い頭痛を訴えて、白目を剥いて。
おそらく、その時に……取り戻したんだ、記憶を。
78
お気に入りに追加
1,620
あなたにおすすめの小説


美形×平凡の子供の話
めちゅう
BL
美形公爵アーノルドとその妻で平凡顔のエーリンの間に生まれた双子はエリック、エラと名付けられた。エリックはアーノルドに似た美形、エラはエーリンに似た平凡顔。平凡なエラに幸せはあるのか?
──────────────────
お読みくださりありがとうございます。
お楽しみいただけましたら幸いです。

【完結】兄の事を皆が期待していたので僕は離れます
まりぃべる
ファンタジー
一つ年上の兄は、国の為にと言われて意気揚々と村を離れた。お伽話にある、奇跡の聖人だと幼き頃より誰からも言われていた為、それは必然だと。
貧しい村で育った弟は、小さな頃より家の事を兄の分までせねばならず、兄は素晴らしい人物で対して自分は凡人であると思い込まされ、自分は必要ないのだからと弟は村を離れる事にした。
そんな弟が、自分を必要としてくれる人に会い、幸せを掴むお話。
☆まりぃべるの世界観です。緩い設定で、現実世界とは違う部分も多々ありますがそこをあえて楽しんでいただけると幸いです。
☆現実世界にも同じような名前、地名、言葉などがありますが、関係ありません。

【完結】最強公爵様に拾われた孤児、俺
福の島
BL
ゴリゴリに前世の記憶がある少年シオンは戸惑う。
目の前にいる男が、この世界最強の公爵様であり、ましてやシオンを養子にしたいとまで言ったのだから。
でも…まぁ…いっか…ご飯美味しいし、風呂は暖かい…
……あれ…?
…やばい…俺めちゃくちゃ公爵様が好きだ…
前置きが長いですがすぐくっつくのでシリアスのシの字もありません。
1万2000字前後です。
攻めのキャラがブレるし若干変態です。
無表情系クール最強公爵様×のんき転生主人公(無自覚美形)
おまけ完結済み

春を拒む【完結】
璃々丸
BL
日本有数の財閥三男でΩの北條院環(ほうじょういん たまき)の目の前には見るからに可憐で儚げなΩの女子大生、桜雛子(さくら ひなこ)が座っていた。
「ケイト君を解放してあげてください!」
大きなおめめをうるうるさせながらそう訴えかけてきた。
ケイト君────諏訪恵都(すわ けいと)は環の婚約者であるαだった。
環とはひとまわり歳の差がある。この女はそんな環の負い目を突いてきたつもりだろうが、『こちとらお前等より人生経験それなりに積んどんねん────!』
そう簡単に譲って堪るか、と大人げない反撃を開始するのであった。
オメガバな設定ですが設定は緩めで独自設定があります、ご注意。
不定期更新になります。
【短編】乙女ゲームの攻略対象者に転生した俺の、意外な結末。
桜月夜
BL
前世で妹がハマってた乙女ゲームに転生したイリウスは、自分が前世の記憶を思い出したことを幼馴染みで専属騎士のディールに打ち明けた。そこから、なぜか婚約者に対する恋愛感情の有無を聞かれ……。
思い付いた話を一気に書いたので、不自然な箇所があるかもしれませんが、広い心でお読みください。

愛などもう求めない
白兪
BL
とある国の皇子、ヴェリテは長い長い夢を見た。夢ではヴェリテは偽物の皇子だと罪にかけられてしまう。情を交わした婚約者は真の皇子であるファクティスの側につき、兄は睨みつけてくる。そして、とうとう父親である皇帝は処刑を命じた。
「僕のことを1度でも愛してくれたことはありましたか?」
「お前のことを一度も息子だと思ったことはない。」
目が覚め、現実に戻ったヴェリテは安心するが、本当にただの夢だったのだろうか?もし予知夢だとしたら、今すぐここから逃げなくては。
本当に自分を愛してくれる人と生きたい。
ヴェリテの切実な願いが周りを変えていく。
ハッピーエンド大好きなので、絶対に主人公は幸せに終わらせたいです。
最後まで読んでいただけると嬉しいです。
ボクが追放されたら飢餓に陥るけど良いですか?
音爽(ネソウ)
ファンタジー
美味しい果実より食えない石ころが欲しいなんて、人間て変わってますね。
役に立たないから出ていけ?
わかりました、緑の加護はゴッソリ持っていきます!
さようなら!
5月4日、ファンタジー1位!HOTランキング1位獲得!!ありがとうございました!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる