全てを諦めた公爵令息の開き直り

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第5章

167話 教えて欲しい

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「……すみません。……ごめんなさい。いいえ、いいえ。いくら謝罪しても、償えません。あ……わ、私は、貴方に……なんて酷い事をっ」

力なく、呟く様にして何とかそう口にしたサフィルは、大粒の涙を流して、深く頭を下げ、贖罪の言葉を口にしていた。

「思い……出しました、何もかも。あの古びた噴水に腰をかけ涙していらした事も、……牢でのあのあまりに酷い過ちも。その前はシルヴィア様という女性として、離れていくユリウス王太子の心に傷付いていらした時の事も。」
「本当に、全部、思い出されたのですね……。どうして……」
「……恐らく、護り石……記憶石とも呼ばれたあの石が、忘れてしまっていた私の代わりに、刻んで閉じ込めていた記憶を……貴方の中に眠っていた強大な魔力に触発されて、解き放たれた事によって、取り戻したのでしょう…」

まだ頭を下げたまま、サフィルは答えたが、ようやく体を起こした。
しかし、その目は暗く澱んでいて。

「……前世でも、言いましたよね?私の事は、恨んで…殺して下さっても構いませんから…って。その気持ちにあの時も今も、変わりはございません。どうぞ、貴方様のお好きになさって下さい。」

まるで死刑を待つ罪人の様な様子で、サフィルは僕の言葉を待っていた。

………そんな言葉を望んでいたのではない。
貴方に、そんな顔をして欲しい訳ではないんだ。

「……だったら、教えて下さい。どうしてあの後、僕にキスして抱きしめてくれたんです?あんな……愛おしむ様な触れ方でっ!ただ僕を嬲って放っておけば良かっただけだったのにっ!」

あの時、あんな風に抱きしめられてから、未だにあの温もりが忘れられないんだ。
……なんて。
言えばサフィルは、どういう反応をするだろうか。

僕は頬をほんのりと朱に染めて。
戸惑いと不安に満ちた顔でサフィルに迫った。

「……ずっと、お慕いしておりました。貴方が学院に入学されてから、ずっと。」
「そんな前から……知りませんでした。僕は…」
「シルヴィア様の時は…ほんの少し気になる御方という感じで、ただ彼女の幸せを願っただけでした。」

シルヴィアの時にも。
それは全く知らなかった。
僕はとても驚いたが。

「そして、シリル様……貴方の事をいつしか目で追う様になり、好きだと自覚した時には、貴方の心には別の方がいらっしゃるのだと気付きました。……すみません。前世で、救世の巫子であるカイト様の監視を殿下から命じられていた私は、そのカイト様とよく楽し気に戯れられる貴方を目にしていました。それまでずっと物憂げなご様子だったので、笑う貴方を見てまた、心を奪われて。けれど、卒業の前日……お会いになられていたのですよね?ユリウス殿下と。」

尋ねられた僕は、それまで淡い朱の色をその頬に宿してぽぅ~っとしていたが、ユリウス殿下の名前が出た途端、急に顔色を変えた。

「え、何で…知って。」
「あの空き教室の中でどのようなお話をされていたのかは、存じ上げません。でも、卒業前に一目…と追ってしまっていた私と廊下でぶつかった後、貴方は……あの古びた噴水の前で、絞り出すような声で、泣いておられましたよね。それで確信したんです。ユリウス殿下の事……お好きだったんだなって。そして、声を掛けた殿下と違って、何も出来なかった自分は、貴方を慕う資格すら…無かったんだなって。完全に諦めがついたと思ったのです。なのにっ」

サフィルは俯いて膝に置いた拳をギュッと握ると、苦しそうな表情で告白した。

「翌日には、急にあんな事になって。あの時、ロレンツォ殿下と一緒に、私も見ていたんです、貴方の事っ……どう見ても貴方が巫子様に毒を飲ませた様には見えなかった。いつ貴方があの毒を飲んでもおかしくなかったのに。私達はご承知の通り、殿下のお母上の治癒の為……なんとしても巫子様が必要でした。ですから、それまで殿下に何度も巫子様を連れて来る様に、迫られていたんです。巫子様はエウリルスの庇護が厚いから。と断れば、仲の良かった貴方を餌にしろ!とも。それまではとても呑めませんでしたが、貴方の命が掛かっているとなれば、もう、なりふり構っていられませんでした……」

前世だけでは分からなかった。
けれど、こうして今世を生きて来て。
やっぱり、そうだったんだ。
ロレンツォ殿下も殿下で必死だったし、サフィル……貴方も。
本当に追い込まれていたんだな。
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