全てを諦めた公爵令息の開き直り

key

文字の大きさ
162 / 369
第4章

162話 涙と微笑み

しおりを挟む
「シリル様っ……シリル様!!」
「シリルッ」

耳元で大きな声で名を呼ばれて。
全身が鉛の様に重く鈍い感覚だったが、それでもなんとか瞼をこじ開けた。

「……」

まだぼんやりする頭で、なんとか目に映る景色を捉えようとしたところ。
僕の視界に飛び込んで来たのは……。

「…え。サフィル?……あれ。カイト…カレン…テオも。」

僕はまた、サフィルの腕の中に居て。
その周囲には目に涙をいっぱい貯めたカイトとカレンと。
その後ろに居たのは、テオに、ロレンツォ殿下、ジーノも。
……更には、何故かカミル殿下も居て。

ヴァルトシュタイン侯爵は、そのカミル殿下の隣から、僕の方を見ていた。

「え……どういう事…?」

僕は訳が分からないまま、働かない頭で必死に状況を確認しようとして。
ちょっと体を動かそうとしたが、全然身じろぎが出来ない。
全身が本当に鈍く重たいのだ。

それでも動こうとして、不意に頬にぽたりと何かが触れる。
視線を向けると、それは、僕を抱きしめてくれているサフィルの零した涙だった。

「サフィル……」
「シリル様……目を覚まされて、良かった。本当に、良かったっ」

僕を抱きとめている肩を掴む彼の手に、少し力が籠るのを感じた。
僕は零れる彼の涙を拭ってあげたかったけれど、生憎上手く腕に力が入らない。
戸惑いながら、視線を彷徨わせると。
僕を見つめる皆の、張り詰めていた空気が一気に解き放たれたのか。

「うあぁぁぁん!よかったよぅーシリルー!!」

そう言って堰を切って泣いて抱き付いて来たカイトとカレンに、僕は自力で身動きが取れないまま、もみくちゃにされた。

「う、うぐっ…ちょ、苦しっ」
「シリルー!良かったぁぁぁ!滅茶苦茶心配したんだからねぇっ」

救世の巫子達は、いつも、どちらかが暴走すると、どちらかが止めに入るのだが。
今回は二人ともがぎゅうぎゅうに僕を締め上げる様に抱きしめて、完全に我を見失っていた。
僕はテオに助けを求めたが、テオも滅茶苦茶泣いてしまっていて、ちゃんと見えているのかよく分からない。
でも、二人に声を掛けてくれて、僕はようやく落ち着きを取り戻せた。

「こほっ……。その、沢山心配をさせてしまって……ごめんなさい。でも、あの、この状況は……どういう……」

未だ状況を理解しきれない僕に、一番奥に居たヴァルトシュタイン侯爵が側に寄って来た。
その事に、僕を抱きしめていたサフィルの手に力が籠ったのが分かったが。
僕は大丈夫ですよ、とサフィルに微笑んで見せた。

「侯爵。」
「シリル、説明しよう。座れそうか?」
「い、いえ。なんか…だるくて力が入らない感じで。」
「そうか…」

僕の返答に、侯爵は少し表情を曇らせたが。
それより、僕は早く教えて欲しくて、侯爵に先を促した。

「……お前がその魔力を全て開放し、私に全て受け渡してくれたんだ。私が、アナトリアにしたみたいに。」
「上手く、出来たんですか?」
「…あぁ。ちゃんと返してもらった。」

そう言って、胸を押さえる侯爵の手から、微かに僕が放っていたのと同じ色の光が漏れ出ている。
それは、少し前に感じていた、僕の魔力の気配そのものだった。

「……良かった。貴方に奪わせるのではなく、僕の方から渡せたんですね。」

僕が心底ホッとして微笑むと。
頭上から、僕を抱きしめてくれているサフィルが声を荒げた。

「良くありません!魔力の譲渡はとても難しく、魔術を使い慣れている者でもない限りまず無理だと、侯爵が言っていました。だから、貴方の命すら……助かるか分からないとっ」
「僕の事、心配して下さったんですか?」
「そうです!!また、貴方を失ったかと思うとっ」

込み上げて来る思いが涙で溢れて、サフィルは言葉を詰まらせた。
それを、僕はなかなか力の入らない腕をなんとか伸ばして、彼の涙をそっと拭った。

「僕の為に、泣いて下さるんですか?…ありがとう、サフィル。」
しおりを挟む
感想 16

あなたにおすすめの小説

結婚初夜に相手が舌打ちして寝室出て行こうとした

BL
十数年間続いた王国と帝国の戦争の終結と和平の形として、元敵国の皇帝と結婚することになったカイル。 実家にはもう帰ってくるなと言われるし、結婚相手は心底嫌そうに舌打ちしてくるし、マジ最悪ってところから始まる話。 オメガバースでオメガの立場が低い世界 こんなあらすじとタイトルですが、主人公が可哀そうって感じは全然ないです 強くたくましくメンタルがオリハルコンな主人公です 主人公は耐える我慢する許す許容するということがあんまり出来ない人間です 倫理観もちょっと薄いです というか、他人の事を自分と同じ人間だと思ってない部分があります ※この主人公は受けです

【完結】それ以上近づかないでください。

ぽぽ
BL
「誰がお前のことなんか好きになると思うの?」 地味で冴えない小鳥遊凪は、ずっと憧れていた蓮見馨に勢いで告白してしまう。 するとまさかのOK。夢みたいな日々が始まった……はずだった。 だけど、ある出来事をきっかけに二人の関係はあっけなく終わる。 過去を忘れるために転校した凪は、もう二度と馨と会うことはないと思っていた。 ところが、ひょんなことから再会してしまう。 しかも、久しぶりに会った馨はどこか様子が違っていた。 「今度は、もう離さないから」 「お願いだから、僕にもう近づかないで…」

あなたと過ごせた日々は幸せでした

蒸しケーキ
BL
結婚から五年後、幸せな日々を過ごしていたシューン・トアは、突然義父に「息子と別れてやってくれ」と冷酷に告げられる。そんな言葉にシューンは、何一つ言い返せず、飲み込むしかなかった。そして、夫であるアインス・キールに離婚を切り出すが、アインスがそう簡単にシューンを手離す訳もなく......。

愛してやまなかった婚約者は俺に興味がない

了承
BL
卒業パーティー。 皇子は婚約者に破棄を告げ、左腕には新しい恋人を抱いていた。 青年はただ微笑み、一枚の紙を手渡す。 皇子が目を向けた、その瞬間——。 「この瞬間だと思った。」 すべてを愛で終わらせた、沈黙の恋の物語。   IFストーリーあり 誤字あれば報告お願いします!

転生したようだけど?流れに身を任せていたら悪役令息?として断罪されていた――分からないまま生きる。

星乃シキ
BL
発作の後に目覚めたら、公爵家嫡男の身体だった。 前世の記憶だけを抱えたまま生きるレイは、ある夜、男の聖女への嫌がらせの罪で断罪される。 だが図書室の記録が冤罪を覆す。 そしてレイは知る。 聖女ディーンの本当の名はアキラ。 同じ日本から来た存在だった。 帰りたい聖女と、この身体で生きるレイ。 秘密を共有した二人は、友達になる。 人との関わりを避けてきたレイの人間関係が、少しずつ動き始める。

冤罪で堕とされた最強騎士、狂信的な男たちに包囲される

マンスーン
BL
​王国最強の聖騎士団長から一転、冤罪で生存率0%の懲罰部隊へと叩き落とされたレオン。 泥にまみれてもなお気高く、圧倒的な強さを振るう彼に、狂った執着を抱く男たちが集結する。

【完結】悪役令息の役目は終わりました

谷絵 ちぐり
BL
悪役令息の役目は終わりました。 断罪された令息のその後のお話。 ※全四話+後日談

番解除した僕等の末路【完結済・短編】

藍生らぱん
BL
都市伝説だと思っていた「運命の番」に出逢った。 番になって数日後、「番解除」された事を悟った。 「番解除」されたΩは、二度と他のαと番になることができない。 けれど余命宣告を受けていた僕にとっては都合が良かった。 2026/02/14 累計30万P突破御礼バレンタインSS追加しました 2026/02/15 累計いいね♡7777突破御礼SS 19時に公開します。 様々な形での応援ありがとうございます!

処理中です...