全てを諦めた公爵令息の開き直り

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第4章

163話 皆のおかげ

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「うわっ」

サフィルの零す涙をなんとか拭えた僕だったが、フッと微笑んで見せた途端。
体の力が抜けてしまって、また手がだらりと垂れ下がってしまった。

「あ、待って。無理しちゃだめだよ、シリル。」

慌てて割り入って来たのはカイトで。
カレンもすぐ寄って来る。
そして、僕に救済の術を施してくれた。

「あ。動く……やっぱ凄…。ありがとう、カイト、カレン。」

彼らの術を受けた途端、それまで腕を動かすのもやっとだった体が、ようやく少し動かせるようになった。
礼を言う僕に、二人はまた抱き付いて来て。
僕はまたもみくちゃにされた。

それから。
ようやく二人が落ち着いてから、再度、ヴァルトシュタイン侯爵からの説明を受けた。

僕が魔力を解放させた後、直ぐにサフィル達は此処を見つけて飛び込んで来たそうだ。
……そう言えば、意識が途切れた瞬間、彼の僕を呼ぶ声が聞こえた気がする。

其処で完全に意識を失った僕は、手を伸ばした侯爵を巻き込んで、とてつもない渦の中で、魔力を暴走させながら放出していたが。
強い力に抗いながらも手を伸ばしてくれたサフィルに、僕の手を掴まれて。
暴れ狂っていた僕の魔力は次第に収まり、巨大な光の球体となってまとまり、僕は力を失って動かなくなった。

そして、その巨大な魔力の塊を侯爵が無事、受け取ったのだそうだ。
その時にも、とてつもない暴風が吹き荒れて、僕らが座していた椅子やテーブル、ティーカップなどは、よく見ると部屋の端に粉々になって散らばっていた。

そうして、動かず、どんなに呼び掛けても反応の無い僕に、救世の巫子達カイトとカレンが、ずっと救済の術を施してくれたが、反応は変わらず。
何度目かになって、ようやくピクリと眉が動いたのに気付き。
僕の目覚めを見守ってくれていたのだと、教えてくれた。

「そっか。何度も救済の術を掛けてくれたんだな。本当にありがとう、二人とも。」

僕は改めてカイトとカレンに礼を言うと、二人は流石にもう抱き付く事は無かったが、笑顔を見せてくれた。

「あ、でも…何で二人が此処に?カミル殿下も…いらっしゃるし……。侯爵の幻影じゃ、ないですよね?」
「えぇ、殿下ご本人です。」

ただただ心配そうに僕を後ろの方から見つめて下さるカミル殿下と目が合い、侯爵に尋ねると、侯爵は少々バツの悪そうな顔をしながら、自身の術ではないと述べた。

「クレイン公子、その辺りは俺とテオドール殿の方から説明しよう。」
「ロレンツォ殿下……」

奥から歩み出て来たのは、ロレンツォ殿下だった。
そして、彼とテオから詳細を教えてもらった。

僕が侯爵の魅せるカミル殿下の幻影を追って、馬車を飛び降りた後。
直ぐに僕を追ってくれたテオは、それなのに、なかなか僕を見つけられなかった。
其処で、大通りの市場で買い物をしていたロレンツォ殿下達を見つけたテオは、彼らに事情を説明して、手分けして僕を探してくれて。

そして、侯爵と侯爵の操る幻影と斬り合いになり。
侯爵の術が弱まった隙に僕に駆け寄ってくれたサフィルとテオが、僕の安否を確認してくれたけれど、僕は眠っていた魔力を暴走させてしまい、まだ目覚めたばかりで力の扱い方を知らない僕と違い、侯爵は慣れた手付きで僕の魔力の暴走を止めると、この森の中の別荘へと転移の術で移動して来たそうだ。

ロレンツォ殿下達は攫われた僕を探すべく、策を考えたらしいが。
そもそも僕が馬車を飛び出したのが、カミル殿下の姿を見つけたからだという結論に至った彼らは、なんとかカミル殿下を一刻も早く探し出し、殿下の兄君であるベルナルト王太子の側近の侯爵が僕を連れ去ったという事を説明して、侯爵の身柄を押さえようとしたそうだ。

そうして動き出そうとしていたら、孤児院で共に遊んでいたカイトとカレン、そして、一緒に付いて来られていたカミル殿下とも合流したそうで。
あの場所は、カイト達が行っていたミーア孤児院から近場だったらしく、とてつもない光が、孤児院からも見えたから、ビックリして飛んで来たらしい。

そこで、カミル殿下に事情を説明したロレンツォ殿下達は、カミル殿下の記憶を総動員してもらい、侯爵が昔使っていた別邸や所縁の場所を近場から順に探り、此処まで辿り着いた。
………との事だった。

「よく、見つけましたね。」
「侯爵の移動の術は、そう広範囲では無いと踏んだので。手前から順に追って行けば、或いは……と思って。」

大分暴れ回ったのだろうか、ロレンツォ殿下の身に着けられている衣服は、所々擦り切れたり、汚れていた。
それでも、殿下はやんちゃな子供みたいな悪戯っぽい笑みを見せていた。

「……クレイン公子。この度は、我が兄の事で、我が国の臣下が貴殿に大変な無礼を働いてしまい……本当に申し訳ございませんでした!貴方は…兄上を助ける為に、救世の巫子様方と共に……遠い中を我がフローレンシアまで来て下さったというのにっ」

この中では一番幼いカミル殿下が、涙交じりの声で僕に謝罪を述べて下さった。

「殿下、お気になさらないで下さい。ヴァルトシュタイン侯爵の為す事に従うと決めたのは、僕自身ですから。それに、彼に昔、母を助けて頂いたから、今日の僕が在るのだと教えてもらう事も出来ました。僕が昔、彼から貰ったものを返した……それだけの事だったんです。これで、ベルナルト殿下をお救いする事が…出来ますよね?」

努めて優しい声音で殿下に話した僕は、侯爵に念押しする。
すると、侯爵は大丈夫だと頷いてくれた。

「……良かった。それなら侯爵、早くベルナルト殿下の所へ戻って差し上げて下さい。きっと待っておられる筈ですから。」

僕の言葉に、にわかに眉を顰めたロレンツォ殿下やテオ達だったが。
僕が急かすと、侯爵は一礼をして、カミル殿下と共におずおずと去って行った。

きっと、今からでも準備して、帰国するのだろう。
道中お気をつけて。
次、お会いする時は、良い知らせを待っていますから。

「あれで良かったんですか、シリル様。」

まだ僕を抱えて支えてくれているサフィルにそう問われ、僕はコクリと頷いた。

「えぇ。これで、僕のすべきだった事は無事、終える事が出来ました。皆のおかげです、本当にありがとうございました。」

僕は今まで一番、心からの笑みを浮かべられたと思う。

本当に、終わったんだ……。
そう思うと、なんとか張っていた気がぷっつりと途切れて。
僕はまた気を失う様にして、眠りについた……。
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