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第4章
161話 別れ
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魔術師が残してくれた“記憶”は映し終えて、元の白だけの世界に戻った。
「…そうだったんだ。」
「えぇ。お兄様は、死んだ私を蘇らせる代わりに、もし生きていられたら……っていう“夢”を、私に与えてくれたのよ。」
「でも、結局蘇らせる事は出来なかったし、辛い思いをさせてしまった…」
ただ、彼女に生きて欲しかった。
楽しい思い出をいっぱい作って欲しかったのに。
悲しい最期を迎えてしまって、それさえも夢、だったなんて。
「そんなの……シルヴィア…君を救うどころか、苦しめただけじゃないかっ僕はっ」
彼女を苦しめる為に、願った事じゃなかったのに。
でも、あの魔術師も言っていた。
必ずしも幸せになれるとは限らないと。
その大事な忠告を、僕は理解していなかった。
結局、僕の願いと言う名の我欲で、無理矢理彼女を縛り付けてしまったなんて。
「泣かないで、お兄様。確かに最後は悲しかったけれど……楽しい思い出もいっぱい出来たのよ。お兄様も知ってるでしょう?何でも上手くいくとは限らないって事くらい、私だって分かってる。ただ、お兄様と一緒に居られなかったのが、残念で仕方なかったの。此処に戻って来て、全てを教えてもらって。だから、私の記憶をお兄様に委ねたのよ。辛い思いもしたけれど、私は自分なりにやり切ったわ、って。でも、記憶を繋げた事で、変な所で混ざってしまって、私こそ……お兄様に辛い思いをさせてしまった。」
楽しかった事や嬉しかった思い出よりも、辛く悲しい事の方が、強く胸を抉ってしまって。
もう一緒に居られないのなら、自分の存在が、この世界から消えてしまうなら。
自身に生きる事を望んでくれた、たった一人の兄にだけは、自分の記憶を置いて行こうとして。
そうすれば、兄がどう反応するかなんて、その時は考えもしなかった。
「ごめんね、お兄様。私が記憶だけでも残して行きたくて、何も考えずにお兄様に委ねてしまった。ちょっと考えれば、どう思うか想像出来た筈だったのにね。お兄様の幼い頃の記憶は失われた筈だったのに、自分の事より私が生きるべきだなんて思わせてしまって。……私の事は心配しないで。違う世界でだけど、生きていけるから。きっとまた会えるわ。いつか。だから……お兄様は自分の為に生きて、自分の幸せを掴んで……離さないで。」
大丈夫よ。
彼女はそう言って。
薄っすらと涙を浮かべたまま、それでもニッコリと笑ってくれた。
僕もまた、微笑み返す。
本当はもっと色々、話したい事はあったけれど。
シルヴィアは僕の背中を押してくれた。
皆が呼んでいるから、と。
それでも振り返る僕に彼女は、元気いっぱいに手を振って見送ってくれた。
「…そうだったんだ。」
「えぇ。お兄様は、死んだ私を蘇らせる代わりに、もし生きていられたら……っていう“夢”を、私に与えてくれたのよ。」
「でも、結局蘇らせる事は出来なかったし、辛い思いをさせてしまった…」
ただ、彼女に生きて欲しかった。
楽しい思い出をいっぱい作って欲しかったのに。
悲しい最期を迎えてしまって、それさえも夢、だったなんて。
「そんなの……シルヴィア…君を救うどころか、苦しめただけじゃないかっ僕はっ」
彼女を苦しめる為に、願った事じゃなかったのに。
でも、あの魔術師も言っていた。
必ずしも幸せになれるとは限らないと。
その大事な忠告を、僕は理解していなかった。
結局、僕の願いと言う名の我欲で、無理矢理彼女を縛り付けてしまったなんて。
「泣かないで、お兄様。確かに最後は悲しかったけれど……楽しい思い出もいっぱい出来たのよ。お兄様も知ってるでしょう?何でも上手くいくとは限らないって事くらい、私だって分かってる。ただ、お兄様と一緒に居られなかったのが、残念で仕方なかったの。此処に戻って来て、全てを教えてもらって。だから、私の記憶をお兄様に委ねたのよ。辛い思いもしたけれど、私は自分なりにやり切ったわ、って。でも、記憶を繋げた事で、変な所で混ざってしまって、私こそ……お兄様に辛い思いをさせてしまった。」
楽しかった事や嬉しかった思い出よりも、辛く悲しい事の方が、強く胸を抉ってしまって。
もう一緒に居られないのなら、自分の存在が、この世界から消えてしまうなら。
自身に生きる事を望んでくれた、たった一人の兄にだけは、自分の記憶を置いて行こうとして。
そうすれば、兄がどう反応するかなんて、その時は考えもしなかった。
「ごめんね、お兄様。私が記憶だけでも残して行きたくて、何も考えずにお兄様に委ねてしまった。ちょっと考えれば、どう思うか想像出来た筈だったのにね。お兄様の幼い頃の記憶は失われた筈だったのに、自分の事より私が生きるべきだなんて思わせてしまって。……私の事は心配しないで。違う世界でだけど、生きていけるから。きっとまた会えるわ。いつか。だから……お兄様は自分の為に生きて、自分の幸せを掴んで……離さないで。」
大丈夫よ。
彼女はそう言って。
薄っすらと涙を浮かべたまま、それでもニッコリと笑ってくれた。
僕もまた、微笑み返す。
本当はもっと色々、話したい事はあったけれど。
シルヴィアは僕の背中を押してくれた。
皆が呼んでいるから、と。
それでも振り返る僕に彼女は、元気いっぱいに手を振って見送ってくれた。
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