161 / 336
第4章
161話 別れ
しおりを挟む
魔術師が残してくれた“記憶”は映し終えて、元の白だけの世界に戻った。
「…そうだったんだ。」
「えぇ。お兄様は、死んだ私を蘇らせる代わりに、もし生きていられたら……っていう“夢”を、私に与えてくれたのよ。」
「でも、結局蘇らせる事は出来なかったし、辛い思いをさせてしまった…」
ただ、彼女に生きて欲しかった。
楽しい思い出をいっぱい作って欲しかったのに。
悲しい最期を迎えてしまって、それさえも夢、だったなんて。
「そんなの……シルヴィア…君を救うどころか、苦しめただけじゃないかっ僕はっ」
彼女を苦しめる為に、願った事じゃなかったのに。
でも、あの魔術師も言っていた。
必ずしも幸せになれるとは限らないと。
その大事な忠告を、僕は理解していなかった。
結局、僕の願いと言う名の我欲で、無理矢理彼女を縛り付けてしまったなんて。
「泣かないで、お兄様。確かに最後は悲しかったけれど……楽しい思い出もいっぱい出来たのよ。お兄様も知ってるでしょう?何でも上手くいくとは限らないって事くらい、私だって分かってる。ただ、お兄様と一緒に居られなかったのが、残念で仕方なかったの。此処に戻って来て、全てを教えてもらって。だから、私の記憶をお兄様に委ねたのよ。辛い思いもしたけれど、私は自分なりにやり切ったわ、って。でも、記憶を繋げた事で、変な所で混ざってしまって、私こそ……お兄様に辛い思いをさせてしまった。」
楽しかった事や嬉しかった思い出よりも、辛く悲しい事の方が、強く胸を抉ってしまって。
もう一緒に居られないのなら、自分の存在が、この世界から消えてしまうなら。
自身に生きる事を望んでくれた、たった一人の兄にだけは、自分の記憶を置いて行こうとして。
そうすれば、兄がどう反応するかなんて、その時は考えもしなかった。
「ごめんね、お兄様。私が記憶だけでも残して行きたくて、何も考えずにお兄様に委ねてしまった。ちょっと考えれば、どう思うか想像出来た筈だったのにね。お兄様の幼い頃の記憶は失われた筈だったのに、自分の事より私が生きるべきだなんて思わせてしまって。……私の事は心配しないで。違う世界でだけど、生きていけるから。きっとまた会えるわ。いつか。だから……お兄様は自分の為に生きて、自分の幸せを掴んで……離さないで。」
大丈夫よ。
彼女はそう言って。
薄っすらと涙を浮かべたまま、それでもニッコリと笑ってくれた。
僕もまた、微笑み返す。
本当はもっと色々、話したい事はあったけれど。
シルヴィアは僕の背中を押してくれた。
皆が呼んでいるから、と。
それでも振り返る僕に彼女は、元気いっぱいに手を振って見送ってくれた。
「…そうだったんだ。」
「えぇ。お兄様は、死んだ私を蘇らせる代わりに、もし生きていられたら……っていう“夢”を、私に与えてくれたのよ。」
「でも、結局蘇らせる事は出来なかったし、辛い思いをさせてしまった…」
ただ、彼女に生きて欲しかった。
楽しい思い出をいっぱい作って欲しかったのに。
悲しい最期を迎えてしまって、それさえも夢、だったなんて。
「そんなの……シルヴィア…君を救うどころか、苦しめただけじゃないかっ僕はっ」
彼女を苦しめる為に、願った事じゃなかったのに。
でも、あの魔術師も言っていた。
必ずしも幸せになれるとは限らないと。
その大事な忠告を、僕は理解していなかった。
結局、僕の願いと言う名の我欲で、無理矢理彼女を縛り付けてしまったなんて。
「泣かないで、お兄様。確かに最後は悲しかったけれど……楽しい思い出もいっぱい出来たのよ。お兄様も知ってるでしょう?何でも上手くいくとは限らないって事くらい、私だって分かってる。ただ、お兄様と一緒に居られなかったのが、残念で仕方なかったの。此処に戻って来て、全てを教えてもらって。だから、私の記憶をお兄様に委ねたのよ。辛い思いもしたけれど、私は自分なりにやり切ったわ、って。でも、記憶を繋げた事で、変な所で混ざってしまって、私こそ……お兄様に辛い思いをさせてしまった。」
楽しかった事や嬉しかった思い出よりも、辛く悲しい事の方が、強く胸を抉ってしまって。
もう一緒に居られないのなら、自分の存在が、この世界から消えてしまうなら。
自身に生きる事を望んでくれた、たった一人の兄にだけは、自分の記憶を置いて行こうとして。
そうすれば、兄がどう反応するかなんて、その時は考えもしなかった。
「ごめんね、お兄様。私が記憶だけでも残して行きたくて、何も考えずにお兄様に委ねてしまった。ちょっと考えれば、どう思うか想像出来た筈だったのにね。お兄様の幼い頃の記憶は失われた筈だったのに、自分の事より私が生きるべきだなんて思わせてしまって。……私の事は心配しないで。違う世界でだけど、生きていけるから。きっとまた会えるわ。いつか。だから……お兄様は自分の為に生きて、自分の幸せを掴んで……離さないで。」
大丈夫よ。
彼女はそう言って。
薄っすらと涙を浮かべたまま、それでもニッコリと笑ってくれた。
僕もまた、微笑み返す。
本当はもっと色々、話したい事はあったけれど。
シルヴィアは僕の背中を押してくれた。
皆が呼んでいるから、と。
それでも振り返る僕に彼女は、元気いっぱいに手を振って見送ってくれた。
58
お気に入りに追加
1,598
あなたにおすすめの小説
【完結】薄幸文官志望は嘘をつく
七咲陸
BL
サシャ=ジルヴァールは伯爵家の長男として産まれるが、紫の瞳のせいで両親に疎まれ、弟からも蔑まれる日々を送っていた。
忌々しい紫眼と言う両親に幼い頃からサシャに魔道具の眼鏡を強要する。認識阻害がかかったメガネをかけている間は、サシャの顔や瞳、髪色までまるで別人だった。
学園に入学しても、サシャはあらぬ噂をされてどこにも居場所がない毎日。そんな中でもサシャのことを好きだと言ってくれたクラークと言う茶色の瞳を持つ騎士学生に惹かれ、お付き合いをする事に。
しかし、クラークにキスをせがまれ恥ずかしくて逃げ出したサシャは、アーヴィン=イブリックという翠眼を持つ騎士学生にぶつかってしまい、メガネが外れてしまったーーー…
認識阻害魔道具メガネのせいで2人の騎士の間で別人を演じることになった文官学生の恋の話。
全17話
2/28 番外編を更新しました
俺は北国の王子の失脚を狙う悪の側近に転生したらしいが、寒いのは苦手なのでトンズラします
椿谷あずる
BL
ここはとある北の国。綺麗な金髪碧眼のイケメン王子様の側近に転生した俺は、どうやら彼を失脚させようと陰謀を張り巡らせていたらしい……。いやいや一切興味がないし!寒いところ嫌いだし!よし、やめよう!
こうして俺は逃亡することに決めた。
愛などもう求めない
白兪
BL
とある国の皇子、ヴェリテは長い長い夢を見た。夢ではヴェリテは偽物の皇子だと罪にかけられてしまう。情を交わした婚約者は真の皇子であるファクティスの側につき、兄は睨みつけてくる。そして、とうとう父親である皇帝は処刑を命じた。
「僕のことを1度でも愛してくれたことはありましたか?」
「お前のことを一度も息子だと思ったことはない。」
目が覚め、現実に戻ったヴェリテは安心するが、本当にただの夢だったのだろうか?もし予知夢だとしたら、今すぐここから逃げなくては。
本当に自分を愛してくれる人と生きたい。
ヴェリテの切実な願いが周りを変えていく。
ハッピーエンド大好きなので、絶対に主人公は幸せに終わらせたいです。
最後まで読んでいただけると嬉しいです。
僕はただの妖精だから執着しないで
ふわりんしず。
BL
BLゲームの世界に迷い込んだ桜
役割は…ストーリーにもあまり出てこないただの妖精。主人公、攻略対象者の恋をこっそり応援するはずが…気付いたら皆に執着されてました。
お願いそっとしてて下さい。
♦︎♦︎♦︎♦︎♦︎
多分短編予定
雫
ゆい
BL
涙が落ちる。
涙は彼に届くことはない。
彼を想うことは、これでやめよう。
何をどうしても、彼の気持ちは僕に向くことはない。
僕は、その場から音を立てずに立ち去った。
僕はアシェル=オルスト。
侯爵家の嫡男として生まれ、10歳の時にエドガー=ハルミトンと婚約した。
彼には、他に愛する人がいた。
世界観は、【夜空と暁と】と同じです。
アルサス達がでます。
【夜空と暁と】を知らなくても、これだけで読めます。
随時更新です。
嫌われ者の長男
りんか
BL
学校ではいじめられ、家でも誰からも愛してもらえない少年 岬。彼の家族は弟達だけ母親は幼い時に他界。一つずつ離れた五人の弟がいる。だけど弟達は岬には無関心で岬もそれはわかってるけど弟達の役に立つために頑張ってるそんな時とある事件が起きて.....
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる