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第3章

137話 助っ人

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「ハハッ!何、お前。そんな地味な色の石を先代子爵夫人に贈るつもりなのか?」

急に飛び出したシリル様を探す為、再び大通りに出た俺は、人で賑わう市場の一角に、見知った人物達を見つけた。

「……俺もあまり良いセンスだとは思いませんね。」
「ジーノまでうるさいな…。私はただ見ていただけで…」

沢山の人混みの中でも、彼らの声や姿は一際目を引いた。
自身が知っているというのもあったが、いくら平民に紛れる為の地味な衣装に身を包んでいても、滲み出る雰囲気というのは誤魔化しきれていない。
いかにも高貴な人物のお忍び、と言うのがぴったりの様子だった。

(……いや、アイツらに頼むとか。正気か?俺は…)

彼ら、ロレンツォ殿下達の市場を楽しむひと時を目にし、つい、駆け寄りそうになって。
俺はハッとなって、歩みを止めた。

……だって、アイツらは。
前世で、シリル様を……。
その所為で、彼は未だに囚われたままだ。
前世の事が無ければきっと、あそこまで苦しまれる事も無かっただろうに。

それが、悲しくて悔しい。
あの方の受けて来た仕打ちと、苦しい心の内を聞いてしまったから。
シリル様がヤツらを許したとしても、俺は絶対に許せない。

でも、それは……俺自身の気持ちでしかない。
今この瞬間にも、我が主人がどうなってしまっているかと思うと。
俺個人の感情なんて、構っている場合ではないのだ。

「チッ!」

俺は盛大に舌打ちをして、ヤツらの元に走り寄った。

「失礼します!アルベリーニ卿!」

いきなりロレンツォ殿下の事をこの大勢の人並みが行き交う場で叫んでしまうと、騒ぎになってしまう事は目に見えていたので、俺は殿下の従者の卿の方を呼び止めた。

呼ばれた卿は、振り返り俺の姿を目にすると、少し驚いた顔をしていた。

「あ、貴方は……シリル様の従者の…」

卿は言い淀んで、少し戸惑った顔を見せた。
無理もない。
俺が直接卿と対峙するのは、アデリートの王宮でカイトさんが卿を殴るのをアシストする為に、羽交い絞めにして以来だったから。

こんな往来の中で叩きのめされたら…困るなぁ。
まぁ、そんな処か。
そりゃあ、出来るもんならやってやりたいところだが、今はそんな場合では無いのだ。

俺はヤツらに認識されたのを視認すると、サッとその側へ駆け寄り、声を落として素早く用件を伝えた。

「…シリル様が姿を消されました。すぐに後を追ったのですが見当たりません。路地裏の方に入られたので、御身に危険が迫っている可能性があるのですが、俺一人では見つけられず…」

悔しさを滲ませながらも、出来る限り冷静に口にした俺に、殿下はサッと眼の色を変えた。

「…探したのはどの辺りだ?」
「あちらの周囲一帯です。」

鋭い目付きで尋ねて来る殿下に、俺は気圧されない様に気を強く保ちながら、さっき自身が捜索した辺りを指し示した。
すると、殿下は軽く頷き、後ろを守る護衛の騎士にも目を合わせて頷いていた。

「テオドール殿、クレイン卿を見失ったのはどのくらい前ですか?」
「十数分程前です。」

今度は護衛騎士が尋ねて来たので、俺は直ぐ返答する。
それを聞くと、殿下はすぐに判断を下した。

「よし。なら、まだそう遠くには行っていない筈だ。手分けして探そう。ジーノ!お前は俺と共にこの辺一帯を。サフィル、お前はテオドール殿と共に先程捜索された近辺の周囲一帯を洗いざらい探せ!」
「御意。」
「分かりました、殿下っ」

互いに頷き合う殿下達に、俺は社交辞令でも頭を下げた。

「すみません、殿下。よろしくお願いします。」
「礼には及ばない。クレイン卿の味方をするのは条件の1つだったのだから、当たり前だ。今は一刻も早く、彼を見つけ出そう。」
「はいっ」

俺達は一瞬互いの目を合わせ頷き合うと、すぐに二手に分かれて走り出した。
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