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第3章
138話 後悔
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「シリル様っ!何処に行かれたんだっ」
探しても探しても、何の手がかりも見つからない。
俺の焦燥を物語る様に、前を走るアルベリーニ卿が口走っていた。
「こんなに必死に探して下さるのは有難いですが、アルベリーニ卿も同じなのではないのですか?」
俺はこんな時に、とは思うのだが。
こんな時だからこそ、どうしても聞いておきたかった。
走る卿は振り返りながら、俺の方へ聞き返して来た。
「え?同じって何がですかっ」
「卿もずっと避けておられたでしょう?シリル様の事。」
「えっ……」
急に卿は足を緩め、追い抜きかけた俺の方を見やる。
俺は、知らぬ存ぜんぬとばかりに、また足を早める。
周囲を注意深く探りながらも、声だけを卿に投げかけていた。
「シリル様が仰っていたのですよ。同じ学院に通っているけど、学科も違うし全然会える機会が無いってね。けれど、同じ場所に通っていて、お互いに見知った仲にもなったのに、こんなにも長く会える機会が無いなんて。会う気が無いからなのではないですか?……貴方は恩知らずですね。まだ殿下の方がこうして自ら動こうとして下さる分、マシかな?…いや、どのみち許す気は無いですけどね、俺は。」
出来るだけ冷たい声音で口にする俺に、卿も俺に背を向け反対側を捜索しながらも、返事をして来る。
「……そんなつもりは…」
「無い、と言えますか?」
「………いいえ…」
反論しようとして来る卿に俺が畳みかけると、卿は歯切れの悪い様子で、でも結局認めた。
「何故避けるんですかね、鬱陶しくなりました?シリル様の事。」
「そんな訳っ!それなら一緒に捜索したりしません。」
「殿下の命令だからでしょう?」
「命令でなくともっ自分から探しに行きます!」
遂には周囲を探るのも忘れ、俺に噛みつく様に反論して来る。
それを俺は流し見ながら、鼻で嗤った。
「だったら俺の言う事なんか気にせず、もっと本気で探して下さいよ。」
「じゃあ、貴方もそんな事言わないで下さいっ」
「俺だって本当は、お前らなんかと一緒なんて嫌だけど、自分だけじゃ力不足だから…仕方なく協力を要請しただけだ。本当なら、俺だってお前を何度殴ってでも足りないくらいだが、シリル様が…それを望まれないから、我慢しているだけなんだからなっ」
吐き捨てる様に言う俺に、卿は口ごもるしかなかった様だ。
ぐっと唇を噛んだ後、フイとまた背を向けて周囲の捜索に戻っていった。
「……シリル様、ここのところ…ずっと元気が無かったんです。巫子様方に遠出を誘われても全部断られて。夏には2つもの外国に行かれたのに。特にここ最近は様子がおかしかった。色々限界だったのかもしれない。俺が、もっと気を付けてなきゃいけなかったのにっ」
俺の護衛から簡単にすり抜けていったシリル様に、今更ながらに思う。
自身の想いを明かして下さったあの時でさえ、相当堪(こた)えていた筈だったのだ。
それからずっと何も出来ずに忸怩たる思いで過ごされていた事だろう。
それなのに、そんなシリル様を目にしながら、俺は。
どこか安心してしまっていた。
俺がお願いした通り焦って暴走される事も無く、卿とイイ感じに進む事も無く。
今はお辛いかもしれないが、その内きっと新たな恋を見つけて、シリル様らしい穏やかな愛を育んで下さる事が出来れば……と。
そんな期待があったのも事実だったから。
けれど、そんな自分の期待をどこかで優先してしまって、主人の本当に望む事に目を瞑ってしまった。
あの方は、自分の前世の辛い過去も、抱いてしまった苦しい想いも、正直に話して下さったのに……この俺に。
それなのに、俺は何にも報いていない。
それが、このざまだ。
そりゃ、置いて行かれるのも……無理はない。
探しても探しても、何の手がかりも見つからない。
俺の焦燥を物語る様に、前を走るアルベリーニ卿が口走っていた。
「こんなに必死に探して下さるのは有難いですが、アルベリーニ卿も同じなのではないのですか?」
俺はこんな時に、とは思うのだが。
こんな時だからこそ、どうしても聞いておきたかった。
走る卿は振り返りながら、俺の方へ聞き返して来た。
「え?同じって何がですかっ」
「卿もずっと避けておられたでしょう?シリル様の事。」
「えっ……」
急に卿は足を緩め、追い抜きかけた俺の方を見やる。
俺は、知らぬ存ぜんぬとばかりに、また足を早める。
周囲を注意深く探りながらも、声だけを卿に投げかけていた。
「シリル様が仰っていたのですよ。同じ学院に通っているけど、学科も違うし全然会える機会が無いってね。けれど、同じ場所に通っていて、お互いに見知った仲にもなったのに、こんなにも長く会える機会が無いなんて。会う気が無いからなのではないですか?……貴方は恩知らずですね。まだ殿下の方がこうして自ら動こうとして下さる分、マシかな?…いや、どのみち許す気は無いですけどね、俺は。」
出来るだけ冷たい声音で口にする俺に、卿も俺に背を向け反対側を捜索しながらも、返事をして来る。
「……そんなつもりは…」
「無い、と言えますか?」
「………いいえ…」
反論しようとして来る卿に俺が畳みかけると、卿は歯切れの悪い様子で、でも結局認めた。
「何故避けるんですかね、鬱陶しくなりました?シリル様の事。」
「そんな訳っ!それなら一緒に捜索したりしません。」
「殿下の命令だからでしょう?」
「命令でなくともっ自分から探しに行きます!」
遂には周囲を探るのも忘れ、俺に噛みつく様に反論して来る。
それを俺は流し見ながら、鼻で嗤った。
「だったら俺の言う事なんか気にせず、もっと本気で探して下さいよ。」
「じゃあ、貴方もそんな事言わないで下さいっ」
「俺だって本当は、お前らなんかと一緒なんて嫌だけど、自分だけじゃ力不足だから…仕方なく協力を要請しただけだ。本当なら、俺だってお前を何度殴ってでも足りないくらいだが、シリル様が…それを望まれないから、我慢しているだけなんだからなっ」
吐き捨てる様に言う俺に、卿は口ごもるしかなかった様だ。
ぐっと唇を噛んだ後、フイとまた背を向けて周囲の捜索に戻っていった。
「……シリル様、ここのところ…ずっと元気が無かったんです。巫子様方に遠出を誘われても全部断られて。夏には2つもの外国に行かれたのに。特にここ最近は様子がおかしかった。色々限界だったのかもしれない。俺が、もっと気を付けてなきゃいけなかったのにっ」
俺の護衛から簡単にすり抜けていったシリル様に、今更ながらに思う。
自身の想いを明かして下さったあの時でさえ、相当堪(こた)えていた筈だったのだ。
それからずっと何も出来ずに忸怩たる思いで過ごされていた事だろう。
それなのに、そんなシリル様を目にしながら、俺は。
どこか安心してしまっていた。
俺がお願いした通り焦って暴走される事も無く、卿とイイ感じに進む事も無く。
今はお辛いかもしれないが、その内きっと新たな恋を見つけて、シリル様らしい穏やかな愛を育んで下さる事が出来れば……と。
そんな期待があったのも事実だったから。
けれど、そんな自分の期待をどこかで優先してしまって、主人の本当に望む事に目を瞑ってしまった。
あの方は、自分の前世の辛い過去も、抱いてしまった苦しい想いも、正直に話して下さったのに……この俺に。
それなのに、俺は何にも報いていない。
それが、このざまだ。
そりゃ、置いて行かれるのも……無理はない。
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