131 / 332
第3章
131話 酷い
しおりを挟む
「……シリル様。やっぱりアイツら八つ裂きにしましょう。」
「しなくていいからっ」
「でも!あんまりですよ、酷過ぎます!!シリル様はそんな酷い目に遭ったっていうのに、何の罰も償いも無いまま、ちゃっかり貴方様に助けてもらえるなんて!!」
今にも泣きだしそうな顔で訴えて来るテオに、僕は申し訳なさばかりが募る。
「……ごめんね、テオ。僕が細かく話してなかったから。確かに、あの時のロレンツォ殿下は残酷だった。僕を何度も床に放り投げて胸がすくって喜んでいたし、酷い暴言も吐かれた。でも、今にして思えば、きっと母君の容態がかなり悪くて、殿下もおかしくなっていたんだと思う。」
あの事件が起きる筈だった半年前の夏に当たる時期に、アデリート王国で初めて殿下の母君にお目にかかった時。
何とか席には座しておられたが、お化粧もされていただろうに、それでも隠し切れない程に顔色がお悪かった。
半年前であの状態だったのだ。
事件があった卒業直前の頃なんて、もしかしたら、もう一刻を争う程の状況だったのかもしれない。
だから、シルヴィアの時に、カレンをゴロツキなんかを使ってでも攫わせたんだ。
そんな素人を使っても、上手くいかないだろうとは、普通に考えれば分かる事なのに。
そんな正常な判断力も働かなくなるくらいには、追い詰められていたのだろう。
そういった諸々の負荷が、全部悪い方向で僕に向いただけだったんだ。
僕もわざと煽ったしね。
そう、テオに僕の考えを述べると。
「でも……っ!じゃあ、アルベリーニ卿はどうなんです?!いくら殿下に命令されたからって、普通します?!そんな事っ」
「命じられればするんじゃないか?ただでさえ、サフィルは妹君をネタに脅されていたみたいだし。この前直接お会いして、彼の考えすぎだって分かったけれど。普段あれだけ殴られ蹴られってしていたら、その暴力がいつ妹に向くかもしれないって不安になるのは、至極当然の事だよ。」
「けど、それとシリル様は関係ないじゃないですかっ」
「あの時の僕は、ロレンツォ殿下にとって、きっと最後の頼みの綱だったんだ。それを話も聞かずに跳ね退けてしまったからね。あの段階なら……聞いたとしても、もう殿下達に協力はしなかっただろうから、結局同じ道を辿ってたんだろうけどさ。でも、そんな殿下を一番間近で見ていた筈のサフィルが、ギリギリまで躊躇していたんだ。だから……それだけで充分だよ。」
酷薄な顔で僕を犯してやれと命じていたロレンツォ殿下に対して、馬鹿じゃないのかと呆れていた僕と違って、サフィルは酷く動揺していたのを思い出す。
そうして、優しく抱きしめて、何とか自分達に応じて欲しいと懇願する様に頼まれた事も。
「彼は優しく頼んでくれたのに、僕が頑なに応じなかったんだ。応じた方が、後が怖いと思って。そうしたら、彼ももう僕に優しくしても無駄だと分かったのか、手酷い扱いを受けたけど。でも……殿下達が去った後、泣いてたんだ……サフィルが。それでっ」
「……貴方に生きて欲しいと、言ったんですか。」
「うん。……でも、それさえも僕は聞き入れられなかった。あの時は、殆ど全ての人間から……巫子殺しの犯人だと確信を持たれていたから。怒りと憎しみの怨嗟が凄まじくて、とても……」
生きたいとは、思えなかった。
いっそ、一刻も早い死を願った。
そんな中で、彼だけだったんだ。
僕を想って涙してくれたのは。
「……だから、今世はロレンツォ殿下も酷い事に手を染めなくて良くなったし、サフィルとも……良い友人関係を築けた。とても、穏やかで……前世では考えられない程、幸せな……筈なんだ。それなのに、僕はっ」
言葉に詰まって、視界が滲む。
口から出て来るのは嗚咽になって、上手く言葉に出来ない。
「しなくていいからっ」
「でも!あんまりですよ、酷過ぎます!!シリル様はそんな酷い目に遭ったっていうのに、何の罰も償いも無いまま、ちゃっかり貴方様に助けてもらえるなんて!!」
今にも泣きだしそうな顔で訴えて来るテオに、僕は申し訳なさばかりが募る。
「……ごめんね、テオ。僕が細かく話してなかったから。確かに、あの時のロレンツォ殿下は残酷だった。僕を何度も床に放り投げて胸がすくって喜んでいたし、酷い暴言も吐かれた。でも、今にして思えば、きっと母君の容態がかなり悪くて、殿下もおかしくなっていたんだと思う。」
あの事件が起きる筈だった半年前の夏に当たる時期に、アデリート王国で初めて殿下の母君にお目にかかった時。
何とか席には座しておられたが、お化粧もされていただろうに、それでも隠し切れない程に顔色がお悪かった。
半年前であの状態だったのだ。
事件があった卒業直前の頃なんて、もしかしたら、もう一刻を争う程の状況だったのかもしれない。
だから、シルヴィアの時に、カレンをゴロツキなんかを使ってでも攫わせたんだ。
そんな素人を使っても、上手くいかないだろうとは、普通に考えれば分かる事なのに。
そんな正常な判断力も働かなくなるくらいには、追い詰められていたのだろう。
そういった諸々の負荷が、全部悪い方向で僕に向いただけだったんだ。
僕もわざと煽ったしね。
そう、テオに僕の考えを述べると。
「でも……っ!じゃあ、アルベリーニ卿はどうなんです?!いくら殿下に命令されたからって、普通します?!そんな事っ」
「命じられればするんじゃないか?ただでさえ、サフィルは妹君をネタに脅されていたみたいだし。この前直接お会いして、彼の考えすぎだって分かったけれど。普段あれだけ殴られ蹴られってしていたら、その暴力がいつ妹に向くかもしれないって不安になるのは、至極当然の事だよ。」
「けど、それとシリル様は関係ないじゃないですかっ」
「あの時の僕は、ロレンツォ殿下にとって、きっと最後の頼みの綱だったんだ。それを話も聞かずに跳ね退けてしまったからね。あの段階なら……聞いたとしても、もう殿下達に協力はしなかっただろうから、結局同じ道を辿ってたんだろうけどさ。でも、そんな殿下を一番間近で見ていた筈のサフィルが、ギリギリまで躊躇していたんだ。だから……それだけで充分だよ。」
酷薄な顔で僕を犯してやれと命じていたロレンツォ殿下に対して、馬鹿じゃないのかと呆れていた僕と違って、サフィルは酷く動揺していたのを思い出す。
そうして、優しく抱きしめて、何とか自分達に応じて欲しいと懇願する様に頼まれた事も。
「彼は優しく頼んでくれたのに、僕が頑なに応じなかったんだ。応じた方が、後が怖いと思って。そうしたら、彼ももう僕に優しくしても無駄だと分かったのか、手酷い扱いを受けたけど。でも……殿下達が去った後、泣いてたんだ……サフィルが。それでっ」
「……貴方に生きて欲しいと、言ったんですか。」
「うん。……でも、それさえも僕は聞き入れられなかった。あの時は、殆ど全ての人間から……巫子殺しの犯人だと確信を持たれていたから。怒りと憎しみの怨嗟が凄まじくて、とても……」
生きたいとは、思えなかった。
いっそ、一刻も早い死を願った。
そんな中で、彼だけだったんだ。
僕を想って涙してくれたのは。
「……だから、今世はロレンツォ殿下も酷い事に手を染めなくて良くなったし、サフィルとも……良い友人関係を築けた。とても、穏やかで……前世では考えられない程、幸せな……筈なんだ。それなのに、僕はっ」
言葉に詰まって、視界が滲む。
口から出て来るのは嗚咽になって、上手く言葉に出来ない。
65
お気に入りに追加
1,599
あなたにおすすめの小説
そばかす糸目はのんびりしたい
楢山幕府
BL
由緒ある名家の末っ子として生まれたユージン。
母親が後妻で、眉目秀麗な直系の遺伝を受け継がなかったことから、一族からは空気として扱われていた。
ただ一人、溺愛してくる老いた父親を除いて。
ユージンは、のんびりするのが好きだった。
いつでも、のんびりしたいと思っている。
でも何故か忙しい。
ひとたび出張へ出れば、冒険者に囲まれる始末。
いつになったら、のんびりできるのか。もう開き直って、のんびりしていいのか。
果たして、そばかす糸目はのんびりできるのか。
懐かれ体質が好きな方向けです。今のところ主人公は、のんびり重視の恋愛未満です。
全17話、約6万文字。
転生令息は冒険者を目指す!?
葛城 惶
BL
ある時、日本に大規模災害が発生した。
救助活動中に取り残された少女を助けた自衛官、天海隆司は直後に土砂の崩落に巻き込まれ、意識を失う。
再び目を開けた時、彼は全く知らない世界に転生していた。
異世界で美貌の貴族令息に転生した脳筋の元自衛官は憧れの冒険者になれるのか?!
とってもお馬鹿なコメディです(;^_^A
王子のこと大好きでした。僕が居なくてもこの国の平和、守ってくださいますよね?
人生1919回血迷った人
BL
Ωにしか見えない一途なαが婚約破棄され失恋する話。聖女となり、国を豊かにする為に一人苦しみと戦ってきた彼は性格の悪さを理由に婚約破棄を言い渡される。しかしそれは歴代最年少で聖女になった弊害で仕方のないことだった。
・五話完結予定です。
※オメガバースでαが受けっぽいです。
僕の大好きな旦那様は後悔する
小町
BL
バッドエンドです!
攻めのことが大好きな受けと政略結婚だから、と割り切り受けの愛を迷惑と感じる攻めのもだもだと、最終的に受けが死ぬことによって段々と攻めが後悔してくるお話です!拙作ですがよろしくお願いします!!
暗い話にするはずが、コメディぽくなってしまいました、、、。
気付いたら囲われていたという話
空兎
BL
文武両道、才色兼備な俺の兄は意地悪だ。小さい頃から色んな物を取られたし最近だと好きな女の子まで取られるようになった。おかげで俺はぼっちですよ、ちくしょう。だけども俺は諦めないからな!俺のこと好きになってくれる可愛い女の子見つけて絶対に幸せになってやる!
※無自覚囲い込み系兄×恋に恋する弟の話です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる