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第3章

131話 酷い

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「……シリル様。やっぱりアイツら八つ裂きにしましょう。」
「しなくていいからっ」
「でも!あんまりですよ、酷過ぎます!!シリル様はそんな酷い目に遭ったっていうのに、何の罰も償いも無いまま、ちゃっかり貴方様に助けてもらえるなんて!!」

今にも泣きだしそうな顔で訴えて来るテオに、僕は申し訳なさばかりが募る。

「……ごめんね、テオ。僕が細かく話してなかったから。確かに、あの時のロレンツォ殿下は残酷だった。僕を何度も床に放り投げて胸がすくって喜んでいたし、酷い暴言も吐かれた。でも、今にして思えば、きっと母君の容態がかなり悪くて、殿下もおかしくなっていたんだと思う。」

あの事件が起きる筈だった半年前の夏に当たる時期に、アデリート王国で初めて殿下の母君にお目にかかった時。
何とか席には座しておられたが、お化粧もされていただろうに、それでも隠し切れない程に顔色がお悪かった。
半年前であの状態だったのだ。
事件があった卒業直前の頃なんて、もしかしたら、もう一刻を争う程の状況だったのかもしれない。

だから、シルヴィアの時に、カレンをゴロツキなんかを使ってでも攫わせたんだ。
そんな素人を使っても、上手くいかないだろうとは、普通に考えれば分かる事なのに。
そんな正常な判断力も働かなくなるくらいには、追い詰められていたのだろう。

そういった諸々の負荷が、全部悪い方向で僕に向いただけだったんだ。
僕もわざと煽ったしね。

そう、テオに僕の考えを述べると。

「でも……っ!じゃあ、アルベリーニ卿はどうなんです?!いくら殿下に命令されたからって、普通します?!そんな事っ」
「命じられればするんじゃないか?ただでさえ、サフィルは妹君をネタに脅されていたみたいだし。この前直接お会いして、彼の考えすぎだって分かったけれど。普段あれだけ殴られ蹴られってしていたら、その暴力がいつ妹に向くかもしれないって不安になるのは、至極当然の事だよ。」
「けど、それとシリル様は関係ないじゃないですかっ」
「あの時の僕は、ロレンツォ殿下にとって、きっと最後の頼みの綱だったんだ。それを話も聞かずに跳ね退けてしまったからね。あの段階なら……聞いたとしても、もう殿下達に協力はしなかっただろうから、結局同じ道を辿ってたんだろうけどさ。でも、そんな殿下を一番間近で見ていた筈のサフィルが、ギリギリまで躊躇していたんだ。だから……それだけで充分だよ。」

酷薄な顔で僕を犯してやれと命じていたロレンツォ殿下に対して、馬鹿じゃないのかと呆れていた僕と違って、サフィルは酷く動揺していたのを思い出す。
そうして、優しく抱きしめて、何とか自分達に応じて欲しいと懇願する様に頼まれた事も。

「彼は優しく頼んでくれたのに、僕が頑なに応じなかったんだ。応じた方が、後が怖いと思って。そうしたら、彼ももう僕に優しくしても無駄だと分かったのか、手酷い扱いを受けたけど。でも……殿下達が去った後、泣いてたんだ……サフィルが。それでっ」
「……貴方に生きて欲しいと、言ったんですか。」
「うん。……でも、それさえも僕は聞き入れられなかった。あの時は、殆ど全ての人間から……巫子殺しの犯人だと確信を持たれていたから。怒りと憎しみの怨嗟が凄まじくて、とても……」

生きたいとは、思えなかった。
いっそ、一刻も早い死を願った。
そんな中で、彼だけだったんだ。
僕を想って涙してくれたのは。

「……だから、今世はロレンツォ殿下も酷い事に手を染めなくて良くなったし、サフィルとも……良い友人関係を築けた。とても、穏やかで……前世では考えられない程、幸せな……筈なんだ。それなのに、僕はっ」

言葉に詰まって、視界が滲む。
口から出て来るのは嗚咽になって、上手く言葉に出来ない。
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