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第3章
132話 明かしてしまった心
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「……好きにっ…なってしまったんだ、彼の事っ」
明かしてしまった僕の心の内を耳にして。
テオは愕然とした顔で僕を見やっていた。
テオがどんな思いで、僕の話を聞いてくれているのかを知るのも、僕の気持ちを知られるのも、それは恐ろしくも感じる事だったが。
何も明かしもせず、眼前から去ってしまった過ちを、また冒したくはなかったから。
どうか、聞いて欲しいんだ。
嘘偽りの無い、ありのままの僕の気持ちを。
「……一緒にはなれないのにっ……彼の事を本当に大切に想うなら、手放さなきゃいけない想いなのにっ……あ、諦めるのが、辛くてっ……もういっそ、体を使ってくれるだけでもいいからって思って…しまって。そんな自分が、浅ましくて……恥ずかしくてっ」
どうしようもないんだ。
想えば想うほど、考えれば考えるほど。
手放し難い、この心が。
最初はただ何となく好きだなって感じるだけの、淡い綺麗なだけの心だったのに。
どんどん黒く染まって、ドロドロに澱んでいく。
昔はあんなに簡単だったのに。
自分の命すらも、あっさりと諦めがついたというのに。
どうして、この想いだけは。
諦める事が出来ないのだろう。
手放してしまえば、きっと楽になれるだろうに。
解っているのに、どうしても出来ない。
「うっ……うぐっ…ごめん、テオ。こんな事、聞きたく…なかったよな…」
泣き崩れる僕に、テオがまた、背を撫でてくる。
「……正直言って、聞きたくありませんでした。」
何の感情も乗せていない口調で言われて、僕はビクリと背が跳ねた。
「……本当は、もしかしたら…そうなんじゃないかって、思っていたんですよ。だって、アデリートで卿と話していたシリル様、本当に嬉しそうに笑ってらっしゃったから。でも、その後でシリル様から前世で受けられた仕打ちを聞いて、はらわたが煮えくり返るほど腹が立って。……だって、あんなに幸せそうに笑っていたシリル様をっアイツはっ!そんな酷い目に遭わせたんでしょう?!し、信じられないっうちの大事な坊ちゃまに、なんて事をっ!だから、アイツを殴って下さったカイトさんには感謝していますし、協力したことは良かったって、今でも思います。」
「……」
「……でも、まだ…ただの友人関係なら……あれで取り敢えずは引いてやっても良かったものを。アイツの事……そんなにも慕ってらっしゃるなんてっ……他の方なら幾らでも、応援して差し上げます。でも、でもっ……アイツは駄目ですっ!とても信用なんて出来ませんっ……それなのに、か、体を差し出すだけでもいいって。そんなアイツに都合のいいだけの存在になって、それで、シリル様はいいんですか?!幸せになれるとお思いで?!」
真剣に怒ってくれているテオは、本当に僕の事を想ってくれているのだろう。
だからこそ、明かしたのだから。
「……だから、言っただろう?そんな事を考えてしまう……僕は最低な人間なんだって。だから、君に申し訳ないと。」
ゆっくりと顔を上げた僕は、泣き腫らした目で、自嘲した。
やっぱり、僕は最低だ。
こんなにも僕を思ってくれている者がいるのに。
前世では簡単に死を選んだし、今度は簡単に堕ちていこうとする。
頭では解っているのに……心が追い付かないんだ。
理性と感情があまりに乖離してしまって、自分自身が制御出来ない。
それだけなら、まだ良かった。
自分が苦しむだけでいいのだから。
けれど、テオを巻き込んでしまった。
この苦しさに耐えきれなくて、彼に弱音を吐いてしまった。
多少の事なら問題ないだろうが、これは、彼にとって…大きすぎた。
「ごめんなさい……。僕一人で、抱えておけば……良かったのに。」
一度明かしてしまった事は、もう隠し直す事は出来ない。
後悔しても、もう遅いのだ。
ぐいと乱暴に涙を拭って、顔を上げる僕に、テオは涙で潤んだ瞳でこちらを見て来た。
「いいえっ!勇気がいったでしょうに、正直に話して下さったのに……俺の方こそ、主人に向かって何て不敬な真似を。失礼致しました……。シリル様、貴方のお気持ちは分かりました。……分かりましたから、どうか、焦って先走らないで下さい。どうしても、と仰るのなら、貴方様の従者として、出来る限りのご協力は致しますから。だからまず、卿に想いを伝えてみてはどうでしょうか?悲観なさるのはそれからでも遅くはないと思いますよ。」
「想いを伝えて……いいのだろうか。」
「それくらい、構わないでしょう。良好な関係を築かれている今の状態で、急に体を差し出されても、それこそ卿も訝しんで離れてしまうだけだと思います。だったら、少しでも卿に好きだとアピールして、想いを伝えてみられた方が良いかと思いますよ。卿が友人程度にしか思っておられなくても……シリル様の美貌です。こんな美人から想われて、コロッといかない方がおかしい。」
言って、自分の言葉に強く頷くテオに、僕はそんな事はないよと苦笑したが。
テオは、いいえ、そうに決まっています!と強く訴えて来た。
屋敷に戻ると、迎えてくれたレイラが僕の腫れぼったい瞼をした顔を見て、びっくりしていたが。
また涙腺がぶっ壊れただけだから。と適当に誤魔化した。
レイラは僕の後ろのテオをチラリと見やったが、テオは苦笑するだけで隙を見せなかった。
流石テオ、レイラの扱いをわきまえている。
やっぱり、とても頼りになる。
彼が居てくれて、話を聞いてくれて、本当に良かったと思った。
明かしてしまった僕の心の内を耳にして。
テオは愕然とした顔で僕を見やっていた。
テオがどんな思いで、僕の話を聞いてくれているのかを知るのも、僕の気持ちを知られるのも、それは恐ろしくも感じる事だったが。
何も明かしもせず、眼前から去ってしまった過ちを、また冒したくはなかったから。
どうか、聞いて欲しいんだ。
嘘偽りの無い、ありのままの僕の気持ちを。
「……一緒にはなれないのにっ……彼の事を本当に大切に想うなら、手放さなきゃいけない想いなのにっ……あ、諦めるのが、辛くてっ……もういっそ、体を使ってくれるだけでもいいからって思って…しまって。そんな自分が、浅ましくて……恥ずかしくてっ」
どうしようもないんだ。
想えば想うほど、考えれば考えるほど。
手放し難い、この心が。
最初はただ何となく好きだなって感じるだけの、淡い綺麗なだけの心だったのに。
どんどん黒く染まって、ドロドロに澱んでいく。
昔はあんなに簡単だったのに。
自分の命すらも、あっさりと諦めがついたというのに。
どうして、この想いだけは。
諦める事が出来ないのだろう。
手放してしまえば、きっと楽になれるだろうに。
解っているのに、どうしても出来ない。
「うっ……うぐっ…ごめん、テオ。こんな事、聞きたく…なかったよな…」
泣き崩れる僕に、テオがまた、背を撫でてくる。
「……正直言って、聞きたくありませんでした。」
何の感情も乗せていない口調で言われて、僕はビクリと背が跳ねた。
「……本当は、もしかしたら…そうなんじゃないかって、思っていたんですよ。だって、アデリートで卿と話していたシリル様、本当に嬉しそうに笑ってらっしゃったから。でも、その後でシリル様から前世で受けられた仕打ちを聞いて、はらわたが煮えくり返るほど腹が立って。……だって、あんなに幸せそうに笑っていたシリル様をっアイツはっ!そんな酷い目に遭わせたんでしょう?!し、信じられないっうちの大事な坊ちゃまに、なんて事をっ!だから、アイツを殴って下さったカイトさんには感謝していますし、協力したことは良かったって、今でも思います。」
「……」
「……でも、まだ…ただの友人関係なら……あれで取り敢えずは引いてやっても良かったものを。アイツの事……そんなにも慕ってらっしゃるなんてっ……他の方なら幾らでも、応援して差し上げます。でも、でもっ……アイツは駄目ですっ!とても信用なんて出来ませんっ……それなのに、か、体を差し出すだけでもいいって。そんなアイツに都合のいいだけの存在になって、それで、シリル様はいいんですか?!幸せになれるとお思いで?!」
真剣に怒ってくれているテオは、本当に僕の事を想ってくれているのだろう。
だからこそ、明かしたのだから。
「……だから、言っただろう?そんな事を考えてしまう……僕は最低な人間なんだって。だから、君に申し訳ないと。」
ゆっくりと顔を上げた僕は、泣き腫らした目で、自嘲した。
やっぱり、僕は最低だ。
こんなにも僕を思ってくれている者がいるのに。
前世では簡単に死を選んだし、今度は簡単に堕ちていこうとする。
頭では解っているのに……心が追い付かないんだ。
理性と感情があまりに乖離してしまって、自分自身が制御出来ない。
それだけなら、まだ良かった。
自分が苦しむだけでいいのだから。
けれど、テオを巻き込んでしまった。
この苦しさに耐えきれなくて、彼に弱音を吐いてしまった。
多少の事なら問題ないだろうが、これは、彼にとって…大きすぎた。
「ごめんなさい……。僕一人で、抱えておけば……良かったのに。」
一度明かしてしまった事は、もう隠し直す事は出来ない。
後悔しても、もう遅いのだ。
ぐいと乱暴に涙を拭って、顔を上げる僕に、テオは涙で潤んだ瞳でこちらを見て来た。
「いいえっ!勇気がいったでしょうに、正直に話して下さったのに……俺の方こそ、主人に向かって何て不敬な真似を。失礼致しました……。シリル様、貴方のお気持ちは分かりました。……分かりましたから、どうか、焦って先走らないで下さい。どうしても、と仰るのなら、貴方様の従者として、出来る限りのご協力は致しますから。だからまず、卿に想いを伝えてみてはどうでしょうか?悲観なさるのはそれからでも遅くはないと思いますよ。」
「想いを伝えて……いいのだろうか。」
「それくらい、構わないでしょう。良好な関係を築かれている今の状態で、急に体を差し出されても、それこそ卿も訝しんで離れてしまうだけだと思います。だったら、少しでも卿に好きだとアピールして、想いを伝えてみられた方が良いかと思いますよ。卿が友人程度にしか思っておられなくても……シリル様の美貌です。こんな美人から想われて、コロッといかない方がおかしい。」
言って、自分の言葉に強く頷くテオに、僕はそんな事はないよと苦笑したが。
テオは、いいえ、そうに決まっています!と強く訴えて来た。
屋敷に戻ると、迎えてくれたレイラが僕の腫れぼったい瞼をした顔を見て、びっくりしていたが。
また涙腺がぶっ壊れただけだから。と適当に誤魔化した。
レイラは僕の後ろのテオをチラリと見やったが、テオは苦笑するだけで隙を見せなかった。
流石テオ、レイラの扱いをわきまえている。
やっぱり、とても頼りになる。
彼が居てくれて、話を聞いてくれて、本当に良かったと思った。
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