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第3章
125話 自覚
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あぁ。
前世とは違うのに。
どうして、あんな。
触れて来る手が、優しいの。
あの温もりが、触れる手付きが。
前世のあの彼を彷彿とさせる。
優しくて…いやらしくて…乱暴で…無慈悲で。
泣きたくなるくらい愛おしむ様に、触れられて。
でも、その想いも記憶も。
もう消えてしまった筈なのに。
なのにまた、ぶり返す。
忘れられない傷跡となって、じくじくと苛まれるみたいだ。
憶えてなくていい、知らないままで居てくれて……いいから。
今世の彼が、幸せなら。
以前よりもずっとより良い人生なら、それで。
もう、今後僕と関わる事も無く。
卒業と共に母国へ帰ってしまう彼を見送り。
それぞれ道を分かつ事になるから。
お互い、それぞれの地で、居るべき場所で。
時に苦しみ、もがく事もあるだろうけれど。
それでも己の進むべき道を進んで行けば、いい筈なんだ。
それが、彼にとっての幸せだろう?
……それなのに。
そんな彼の進むべき幸せを……僕はただ願う事は出来ないの?
もう、残り時間は半年を切っている。
無事、この試練を乗り越えて、巫子達と一緒に、卒業という素晴らしい結末を迎える事が出来たなら。
今度こそ、死に戻りを終えて、大人になる事が……出来たなら。
それは、彼との別れを意味するのだ。
彼もロレンツォ殿下と一緒に卒業して帰国し、殿下は本格的にあちらでの足場を固めていく事だろう。
その側近として、彼は常に付き従う事になる。
そうして、殿下が彼の妹君のソフィア嬢との婚姻を無事に果たした暁には。
きっと、彼にも縁談の話が増え、いつか彼を射止めた誰かと結婚……する事になるのだろう。
そうして、跡継ぎの子供も出来て……。
それが、彼の掴むべき幸せで。
それを影ながら喜び、祝福するのが、僕のするべき事の……筈なのに。
そんな事、本当に出来るだろうか……僕は。
「————無理だ。だって僕は、サフィルの事……」
……好きなんだ。
ただ、彼だけを愛したい。
でも、それは僕の我欲でしか……ない。
僕の勝手な想いに、彼を巻き込めない。
彼の幸せを奪う様な事……出来る筈がない。
「うっ……好きになっちゃ、いけないのにっ」
なんとなく、ぼんやりと浮ついていただけの曖昧な心が。
明らかな形となって、自覚して。
気付いたと同時に、失った。
前世とは違うのに。
どうして、あんな。
触れて来る手が、優しいの。
あの温もりが、触れる手付きが。
前世のあの彼を彷彿とさせる。
優しくて…いやらしくて…乱暴で…無慈悲で。
泣きたくなるくらい愛おしむ様に、触れられて。
でも、その想いも記憶も。
もう消えてしまった筈なのに。
なのにまた、ぶり返す。
忘れられない傷跡となって、じくじくと苛まれるみたいだ。
憶えてなくていい、知らないままで居てくれて……いいから。
今世の彼が、幸せなら。
以前よりもずっとより良い人生なら、それで。
もう、今後僕と関わる事も無く。
卒業と共に母国へ帰ってしまう彼を見送り。
それぞれ道を分かつ事になるから。
お互い、それぞれの地で、居るべき場所で。
時に苦しみ、もがく事もあるだろうけれど。
それでも己の進むべき道を進んで行けば、いい筈なんだ。
それが、彼にとっての幸せだろう?
……それなのに。
そんな彼の進むべき幸せを……僕はただ願う事は出来ないの?
もう、残り時間は半年を切っている。
無事、この試練を乗り越えて、巫子達と一緒に、卒業という素晴らしい結末を迎える事が出来たなら。
今度こそ、死に戻りを終えて、大人になる事が……出来たなら。
それは、彼との別れを意味するのだ。
彼もロレンツォ殿下と一緒に卒業して帰国し、殿下は本格的にあちらでの足場を固めていく事だろう。
その側近として、彼は常に付き従う事になる。
そうして、殿下が彼の妹君のソフィア嬢との婚姻を無事に果たした暁には。
きっと、彼にも縁談の話が増え、いつか彼を射止めた誰かと結婚……する事になるのだろう。
そうして、跡継ぎの子供も出来て……。
それが、彼の掴むべき幸せで。
それを影ながら喜び、祝福するのが、僕のするべき事の……筈なのに。
そんな事、本当に出来るだろうか……僕は。
「————無理だ。だって僕は、サフィルの事……」
……好きなんだ。
ただ、彼だけを愛したい。
でも、それは僕の我欲でしか……ない。
僕の勝手な想いに、彼を巻き込めない。
彼の幸せを奪う様な事……出来る筈がない。
「うっ……好きになっちゃ、いけないのにっ」
なんとなく、ぼんやりと浮ついていただけの曖昧な心が。
明らかな形となって、自覚して。
気付いたと同時に、失った。
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