全てを諦めた公爵令息の開き直り

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第3章

124話 やさしい手

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「……あ…」

彼に触れられている頬が熱い。
その美しい紫の瞳に見つめられて、何も出来ない。

動けず固まってしまっている僕をよそに、彼の手で優しく頬を撫でられる。
そして、その親指がそっと僕の唇を掠めた。

その時になって初めて、ピクリと反応したら。
彼はハッと我に返ったのか、スッとその手を離していった。

や。
離さないで。
もっとその優しい手で触れて、撫でて欲しい。

そんな欲望が、わっと僕の身の内から沸き上がったが。
その彼の手を追えるほどの度胸が無くて。

ただ名残惜しく見つめるしかない。

呆けた頭でぼんやりと、その手から彼の唇、そして、その目を見て。
やっと僕は、彼が驚いた表情をしているのに気付いて。
恥ずかしさのあまり、耳の先まで真っ赤になってしまった。

「あ、そ、その……すみません、論文作業のお邪魔をしてしまって!作成、頑張って下さいね!応援しています……ではっ」

なんとかそう言い切って、僕は勢い良く席を立ち上がると、直ぐさまその場を後にした。
彼から受け取った本を胸に抱えて。

図書室に行った本来の目的も忘れ、全然違う物を持って来てしまった。
今更引き返す事も出来ないし、僕は足早にあのお気に入りの場所に向かった。

相変わらず暗く陰気なこの場所は、今の僕の火照った頭と体に冷静さを取り戻させるのに、丁度良い。
例の古びた噴水に腰かけ、僕は借りた本を膝に置いたまま、顔を両手で覆った。

(何だったんだっ……さっきの!)

心の中で叫ぶ。

もっと触れて欲しいって、何。
何でそんな風に思った?!

僕はまだ混乱したまま、両手を離し、額の方へ右手を当てて俯いた。
額は熱を帯びていて、頬はもっと熱い気がする。
特に、さっきサフィルに触れられた所が…熱い。

あの時、僕の唇を彼の親指が掠めた瞬間、身じろぎをしなければ……彼はもっと触れていてくれたのかな?
それなら、僕は。
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