全てを諦めた公爵令息の開き直り

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第2章

64話 夢現な乙女

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……なんて。
そんな事も、思ったが。
今思えば、確かにあの頃のカレンは、とても夢現な様子だった。
まさに、一介の平民がお姫様の様に扱われて、フワフワした夢見心地な様に見えた。

王太子にだって、本気で恋をしているより、カッコいい王子様に構ってもらえて最高!楽しい~!とただ喜んでいただけの。
ただの可愛らしい少女だった。

それがどうして……あんな事に。

「でもね。その……話の攻略対象である5人と仲良くなってみても、本来のお話で起こる筈だった事件や試練は起きなくて。救済で助けてあげたりはしたけど、それだけだったのよ。だから、関係も特に進展しなかったし、王家はただただ過保護なだけだったし。」

お城での生活は、常に何者かに仕えられて、本当に面倒だったとカレンはぼやく。

「だから、話の世界とそっくりだけど……皆…話に出て来るただの登場人物って訳じゃなくて、それぞれに血の通った一人の人間なんだな。って思ったわ。だから、皆が少しでも笑える様に、このエウリルス王国が少しでも住み良い国である様に、私は救済を頑張って、エンディングである卒業パーティーを迎えられれば……話のラストを迎えられれば、元の居た世界に帰れると思ったの。……それなのに。」

……それまで救済に忙しくも、平和に楽しく、時に夢現にフワフワしながら……日々を送っていた。
素敵なラストを迎える為に。
だが、エンディングの目前に、急に事件は起きて。
何の前触れもなく、暴漢に攫われた。
そんなシナリオ、あの若年層向けのゲームには無かった筋書きだったから。
とても混乱したのよ。
そう、カレンは話す。

話の筋書き通りの出来事だったなら、例え自身が誘拐の目に遭っても、必ず助けが来る事が分かる。
そして、その者と最高のエンディングを迎えるのだろう事も。
だが、それは自分が知っていた話の筋書きには無かった出来事だった。
だから、本当に自分が助かるのか分からなくて怖かった。
その混乱のまま、あの卒業パーティーに突入して、王太子のシルヴィアへの断罪を目の当たりにして。
ただただどうすればいいのか、本当に分からなかった。

カレンは、そう答えた。

「……そうだったのか。」

僕はポツリとそう呟いた。
元の話の内容はともかく、要は憧れていた物語の世界にやって来て、その主人公としてお姫様の様に扱われ、よく分からないままこの世界を楽しんでいた。
それなのに、その最終章で予期せぬ事態に見舞われて、混乱のまま最後を迎えたって事か。

何故だろう?
この世界は、本当にカレンの言う通り、そのゲームとやらの世界そのものなのに、その話通りには進まなかった。
そして、訳の分からないまま終わって、気付いたら元の世界に戻っていたとの事だ。
一体、どういう事だ?
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