全てを諦めた公爵令息の開き直り

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第2章

63話 乙女の楽しみ

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「この世界って、小説は……あるよね?おとぎ話もあるみたいだし。」

カレンにそう尋ねられて、僕はそれならば…と頷くと。

「なら、その……小説の様なものだと思って。でも、ただの小説じゃないの。えぇっとぉ…元々乙女向けのゲームで……あ、おとぎ話好きの女の子向けのお話だと思ってね。」

そう、カレンは前置きをする。

「その“双生の巫女と巫子 ~あなたが紡ぐその世界~”のお話では、あらゆるものを癒す不思議な力を持った少女が現れて、その世界で知り合った色々なイケメン男子達と出逢って、学院生活を楽しんだり、救済の力で協力して一緒に人々を助けたりして、色々なタイプのイケメンとの恋を楽しむ物語みたいなものでぇ……」
「うん……」
「時にライバルの妨害に合ったりしながらも、好みのキャラクターと恋を育みながら一緒に乗り越えて、学院の卒業パーティーで大団円を迎えて、素敵なエンディングを目指すっていう…」
「はぁ……」
「まぁ、全年齢対象だし、乙女ゲーム初心者向けの簡単なヤツだから、そんなに難しくはないんだけど……イラスト、あ、挿絵がね、良くってさぁ!全キャラ集めたくなっちゃうのよぉ~!!」
「……」

ぽぉ…と頬を朱に染めて、熱く語ってくれるその様は、実に恋に恋する乙女。……なのだが。

「意味が分からん」
「何で!!」

僕がばっさりそう言うと、カレンは信じられない!という顔を見せるが。

「要はただの恋愛話だよな?それも、色んな男に恋をする…阿婆擦れの尻軽女の。そんなものの何がいいんだ?」
「ひ、ひどい!!」

僕の正直な感想に、カレンはとても傷付いた顔をした。
隣ではカイトが腹を抱えて笑い出す。

「アハハハッ!ひっでぇ~!!シリルにはハーレムエンドとか逆ハーエンドとか、絶対理解出来ないだろうなぁ!」
「いいじゃない!いいじゃない!皆それぞれ違う魅力があるんだからぁ!!空想の世界でぐらい、好きに楽しんでもいいでしょう?!それにカイトだってねぇ、色んなアイドルもののゲームとか楽しんで、際どい挿絵喜んで集めてたりするんだから!」
「ちょっと誤解を招く様な言い方しないでくれる?!水着なんだから健全ですぅー!!」
「またまたぁ~!どーせマイクロビキニのとかエロ水着とかあるんでしょ~?!」
「ちょっとマジでやめてくれる?!これ以上シリルの耳を穢さないで!!」

巫女と巫子がぎゃあぎゃあと騒いでいる。
一体何なんだ。

「……これ以上猥談を続けるつもりなら、この部屋から追い出すぞ。」

冷たい顔で僕がそう言い放つと、二人はピリッと姿勢を正した。

「ご、ごめんってぇ!」
「つ、つまりね。私が言いたかったのは、この世界は私が見たそのお話の世界の舞台そのままなの。って事。」

要は、元の世界で読んだ、物語の世界そのままなのか、此処は。

「ゲーム……お話では、主人公の巫女に対して、相手役がそれぞれ居るんだけど……それがまず、王太子のユリウスでしょ。それから、その護衛騎士のセドリック。教師のダニエルに……同級生で公爵令息のジェラルド。で、外国の王子様のロレンツォ。攻略対象はこの5人よ。」
「え“っ……ロレンツォ殿下も?」

だから、カレンは何やら顔見知りの様な言い方をしていたのか。
僕は唖然としていた。

「で、どの対象と恋仲になっても、大体ライバルはシルヴィア嬢。要は、シルヴィア嬢からの恋の試練に打ち勝ち、愛を勝ち取るって流れね。」

カレンの、ざっくりとした話のあらすじの説明に、僕は更に唖然とした。

「え…?いやいやいや。シルヴィアの時、ユリウス殿下ならともかく、他の奴とどうなろうが、多分なんとも言わないだろうし、邪魔もしなかったと思うぞ。」
「でしょうね。前回、私がこの世界にやって来て、『わー!双生の世界そのまんまじゃな~い!あーん!全キャラ愛で回してやるわぁ~♡』ってはしゃいで、それぞれと仲良くなったけど、シルヴィア嬢はユリウス殿下の時以外、反応しなかったもん。滅茶苦茶軽蔑の眼差しは感じたけど。」
「実際軽蔑してたからな。」
「ひどい!!恋仲にまではなってないわよ!キャラの攻略より、色んなキャラと仲良くなりたかっただけだから!実物になったイケメンを眺められれば、私はそれで満足だったの!」

カレンはまたまた僕にひどい!と怒る。
でも僕は納得出来ないのだから、仕方が無いだろう。

「だったら遠くから眺めとけばいいじゃないか。」
「そんなぁ!せっかく憧れてた世界に来れて、その世界の主人公になれたのよ?!ちょっとくらい楽しんでもいいじゃない!」
「……そのちょっとの楽しみの所為で、シルヴィアは死を選んだのか。」
「うっ……そこまで追い詰めたつもりじゃなかったのよ…」

シルヴィア。
泣いて死を選ぶくらいなら、一発殴ってやった方が良かったんじゃないか?
王太子だってドン引きしたかもしれないが、ちょっとは目を覚ましたかもしれないぞ。
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