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第一章
6話
しおりを挟むクリスティア姫の無邪気で愛らしい姿に、父さんも母さんも明らかにほだされている。
うん、両親がそうなんだから、俺もほだされても仕方ないんだ。
「ウェスペルに着けばすぐオルトゥス王にお会いできますの?」
「いえ、ウェスペルの街に着いてから森を抜ける必要があります」
「森、ですか。そこでは昨日の様なことがまた起きるのでしょうか?」
瞳をキラキラさせてやや興奮気味のクリスティア姫とは真逆に、サヴィト殿の顔は険しい。殺気が無いだけ昨日よりは雰囲気が良くなったけど。
「ウェスペルの森で襲撃される事はありませんが、一晩森の屋敷に滞在する必要があります」
「森を抜けるのに時間がかかるんですの?」
「それもありますが王城を囲むウェスペルの森は、王に害意をもつ者を決して通さない森なんです。だからそこに一晩滞在することで王への害意がない事を証明してから、城に入る決まりになっているんです」
「……我らを信用できない、と?」
「ジーク、そんな言い方は失礼ですわ。承知いたしました。オルトゥス王へお会いできるのが楽しみです」
やや表情をこわばらせたサヴィト殿とメリー殿と違い、クリスティア姫は本当に楽しみなのか表情を輝かせて、再び母さんが勧めた焼き菓子を食べている。
ヒト族三人の様子を比べて改めて思う。
クリスティア姫が我が王の妃になる方で本当によかった。
この方なら魔族に対して変な偏見も持って無さそうだし、王の横にいてもとてもお似合いになると思う。
二人の並ぶ姿を想像すれば、……ふと何か違和感を感じた。
なんだ? なんか胸の中がザワリとする。
その後、父さんと母さんはたわいのない談笑をしばし楽しんで、部屋を後にした。
クリスティア姫は立ち上がると扉から二人が消えるまでお辞儀をする。勿論サヴィト殿とメリー殿もそれにならった。
「とりあえず本日の予定はこれで終了です。明日は昼までに魔法転移の塔に行きますが、それまでは自由にしていただいて大丈夫ですよ」
「そうですか。姫、これからいかがいたしましょう?」
俺の言葉にメリー殿がクリスティア姫に聞く。
父さんたちが居なくなりクリスティア姫はソファーに座り直したが、他の二人は姫のソファーの後ろに控えた。
まあ、うん、それが落ち着くよな。
「そうですわね……今日はこのままお屋敷でのんびりさせていただきましょう」
「それでしたらクリスティア姫。私はカデル様に手合わせをお願いしてもよろしいでしょうか?」
クリスティア姫は少し悩まし気に思案してから、今日の予定をつぶやいた。そこへサヴィト殿が希望を伝える。
ん? 俺と??
「わたくしは構いませんが、カデル様、ジークのお相手をお願いしてもよろしいでしょうか?」
小首をかしげて問いかける緑と青の瞳に、俺は思わず大きくうなずいた。
「勿論です! 今後もありますし、サヴィト殿の剣の腕前も知っておきたかったので! こちらこそ嬉しいです!!」
そう、決してクリスティア姫の小首をかしげるしぐさが可愛かったから快諾したんじゃない。
いや、それもあるけど、サヴィト殿の腕前を把握したかったのは本当だ。
昨日は判らなかったから、それこそクリスティア姫やメリー殿と同じように守護対象として扱ったが、自分がもし同じように扱われていたらひどく腹が立ったと思う。
だから、サヴィト殿が魔族とも戦える力量であるならば、共に戦って貰いたかった。
「サヴィト殿、それでは鍛錬場をご案内します。この時間ならネストたちもいるはずですし」
「ネスト様は昨日護衛していただいた方ですね。そういえば昨日はきちんと皆さまにご挨拶できていませんでした。昨日のお礼もお伝えしたいので、わたくしもご一緒してもよろしいでしょうか?」
立ち上がってサヴィト殿へ提案した俺に、上目づかいでクリスティア姫が懇願してくる。
これは更に可愛らしい! ……じゃなくて、連れて行ってもいいんだよな?
とりあえずメリー殿とサヴィト殿に視線を向けると、二人とも小さく頷いたので問題ないのだろう。
「ええ、クリスティア姫もご一緒に、せっかくですからメリー殿もいかがですか。皆を紹介します」
メリー殿も是非にと快諾してくれたので一緒に皆のところに連れて行くことにした。
一度サヴィト殿の剣を取りに彼の部屋に寄ってから、俺たちは屋敷のはずれにある鍛錬場に向かう。
そういえば昨日のメンバー全員に会うには寄り道しないとだめだな。
俺はクリスティア姫に先に合わせたいヒトがいると伝え、途中にある庭園に立ち寄ることにした。
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