星の堕ちた世界で~終末世界のエルフ~

黒幸

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15 そして、変わる

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 VR世界のオブリビオンは心地良かった。
 友人にも恵まれてプレイヤーとして、充実した生活を送っていた。

 ささくれだった心が……。
 今にも腐り落ちそうな化膿した傷口が、徐々に治りつつあって。
 このまま、静かに生きていれば、また普通の……平凡な生き方に戻れるなんて、考えていた。

 今、思えば、それは決して叶えられない願いだったんだと分かる。
 考えが甘かったのだと指摘されたら、その通りだと思う。
 異変は小さく、そして、確実に起きていた。
 それを見て見ぬ振りをしたのは他ならぬ、わたし自身なのだから。

「ママ。何か、増えてない?」
「そう? 気のせいよ」
「そうかなぁ」

 元々、インドア派の母は足のこともあって、その傾向がさらに強くなった。
 趣味の手芸にハマったのまではまぁ、いいとしよう。
 リボンフラワーや刺繍で少しでもストレスを減らすことができるのであれば、それに越したことはないと思ったからだ。

 でも、限度というものがあるだろう。
 今や部屋の至る所に作り物のお花がある。
 まだ、リビングは何とか保っているし、わたしの部屋も無事だけど、母の部屋は既に足の踏み場が無いほどだ。
 いくら何でも作り過ぎなのだ。

 狂ったようにというのは言い過ぎかもしれない。
 だけど、朝から晩まで何かに憑りつかれたかのようにリボンフラワー。
 増えていく、作り物の植物でいつか部屋がいっぱいになりそうだ。

 それでも母が満足しているようだからと見て見ぬ振りをしてきた。
 思えば、あれも異変の一つだったんだろう。

 そして、あの日……。
 決定的な何かが起こった。
 以前から、推していたアーティスト――歌姫が初の世界向けライブを行った日でもあった。
 歌姫のライブはSNSのYoTubeで配信される。
 家にいようが出先にいようが、どこでも楽しめるのが売りだ。
 それなのにあの日のわたしは珍しく、それも変だった。

 なぜか、ライブ感を味わいたいと思い立った。
 なぜかは全く、分からない。
 ただ、そうしたいと思ったとしか、言いようがなくて。

 さすがに世界で人気のある歌姫だけあって、YoTubeも力の入れようが違う。
 日本各地に大画面のリアルタイムライブ会場を用意するなんて、異例中の異例だった。
 幸いなことに隣のY市にも会場があったので、行ってみたくなったのだ。

 そこで見たのがきれいなオーロラ。
 あまりにきれいでどこか、おかしかった。
 だって、空に太陽と月が浮かんでいて……。
 数がおかしかったのだ。
 そう思っているうちに周囲の人達がバタバタと倒れていった。
 あれ?
 なんて思っている間もなく、わたしの目の前も真っ暗になった。
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