星の堕ちた世界で~終末世界のエルフ~

黒幸

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10 師匠

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 ゲームであまり遊ばなかったのが、いい方に作用した。
 意外とすんなりとリトリー・オンラインの世界に適合し、次第にどっぷりと入れ込んでしまったのはきっとそのせいだ。

 ネクス師匠やバルディエルとのやり取りで気付いたのは、このVRゲームのコンセプトやシステムが既存のゲームとは大きく異なっている点だった。
 キャラクターを作る際に個人データと引き換えにボーナスポイントを貰える。
 でも、このボーナスポイント。
 ポイントと銘打っているけど、数値に換算されていない。
 あくまで通常よりも優遇してあげる程度のニュアンスだった。
 ゲーム経験が少ないわたしは単純にボーナスが貰えるなら、いいかなぁ程度にしか感じていなかったけど、これは普通に戸惑うシステムらしい。
 はっきりと目に見えるボーナスではないからだ。

 これと同じようにゲーム経験が豊富な人が何よりも違和感に戸惑ったのが、ステータス画面だった。
 ステータス画面は呼び出すと目の前に表示される。
 最新の空中ディスプレイに似ているのでこの表示は慣れてしまえば、それほど苦にならない。
 「ステータス表示」と呼びかけるか、サポートAIに頼むだけで一瞬で表示される。
 問題はそこではなくて。
 表示されるデータの方だった。
 名前と種族名が表示されるのは特に驚かない。
 IDカードみたいな物だと考えたら、それらのデータが掲載されているのも不思議なことじゃないから。
 不思議なのはそこに随分とざっくりしたデータが表示されていたことだ。

 具体例を挙げるなら、筋力だろうか。
 それほど高くないと書いてあった。
 あぁ、なるほど。
 「わたし、力ないし」と変に納得したわたしのような人間の方が珍しいタイプに属するようだ。
 ゲーム経験の豊富な人からすれば、筋力や敏捷力といった能力値は数値で表されるのが常識らしい。
 だから、違和感に戸惑いを隠せない声が多く、ネットでもかなり盛り上がりを見せていた。
 そんな風に全ての能力値がざっくりとした文章で表現されている。
 それがリトリー・オンラインだった。



 しかし、住めば都というだけあって、慣れとは恐ろしい。
 いつの間にか、わたしはVRに描写された異世界に適応し、馴染んだ。
 ゲームに慣れてないこともあり、躊躇っていたコミュニケーションも師匠と冒険の旅をして、改善された。
 師匠はよく言えば、自由な人。
 悪く言えば、自分勝手な人。
 でも、自分勝手ではあっても他者を慮る心はちゃんと持っていると思う。

 まぁ、持ってはいるけど、ちょっぴり……そして偶に忘れるかもしれないってことだ。
 それくらいは笑って、華麗にスルーする程度の心の余裕がわたしにも出たという証でもあった。

 ただ、そうは言っても師匠は急に連絡を寄越してくる人であるのは事実。
 「今日はあのエリアでやろう」なんて、唐突なタイミングで言ってくるんだから。
 考えることは突拍子がないようでいて。
 実は漠然としていないものの理由が隠されていることに気付いた。
 言い方はアレで配慮していないように見えるけど、そうじゃないのだ。
 あの人はわたしが見たことのない物、経験したことのない物と接する機会を与えようとしている。
 それに気付けことで、目に見える世界が今までと違って見えた。

 そのお陰なのか。
 変な自信を付けてしまったのだ、わたしは……。
 今までにない積極的な姿勢が取れるようになったのはこの頃からだったと思う。

 リアルなもう一つの人生を謳い文句にしているリトリー・オンラインの採用したシステムが、レイドだった。
 レイドは個人ではなく、集団でタスクをこなすミッション形式だ。
 要はゼミやチームに近いものがある。
 あれこれとしたいものがあるから、一緒にどこどこまで行きませんか?
 噛み砕いて言えば、多分こんなところだけど、人によって程度の差異が出る。
 気軽に景色がきれいな場所を見に行きたい人もいれば、モンスターの素材を目当てにモンスターハンティングの仲間を募集する人もいる。
 ファンタジーらしさと現実の入り混じった不思議な空気が漂う空間。
 それがレイドだった。

 まさかレイドを通じて、友人と呼べる存在ができるとは思ってもいなかったけど。
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