10 / 37
10 師匠
しおりを挟む
ゲームであまり遊ばなかったのが、いい方に作用した。
意外とすんなりとリトリー・オンラインの世界に適合し、次第にどっぷりと入れ込んでしまったのはきっとそのせいだ。
ネクス師匠やバルディエルとのやり取りで気付いたのは、このVRゲームのコンセプトやシステムが既存のゲームとは大きく異なっている点だった。
キャラクターを作る際に個人データと引き換えにボーナスポイントを貰える。
でも、このボーナスポイント。
ポイントと銘打っているけど、数値に換算されていない。
あくまで通常よりも優遇してあげる程度のニュアンスだった。
ゲーム経験が少ないわたしは単純にボーナスが貰えるなら、いいかなぁ程度にしか感じていなかったけど、これは普通に戸惑うシステムらしい。
はっきりと目に見えるボーナスではないからだ。
これと同じようにゲーム経験が豊富な人が何よりも違和感に戸惑ったのが、ステータス画面だった。
ステータス画面は呼び出すと目の前に表示される。
最新の空中ディスプレイに似ているのでこの表示は慣れてしまえば、それほど苦にならない。
「ステータス表示」と呼びかけるか、サポートAIに頼むだけで一瞬で表示される。
問題はそこではなくて。
表示されるデータの方だった。
名前と種族名が表示されるのは特に驚かない。
IDカードみたいな物だと考えたら、それらのデータが掲載されているのも不思議なことじゃないから。
不思議なのはそこに随分とざっくりしたデータが表示されていたことだ。
具体例を挙げるなら、筋力だろうか。
それほど高くないと書いてあった。
あぁ、なるほど。
「わたし、力ないし」と変に納得したわたしのような人間の方が珍しいタイプに属するようだ。
ゲーム経験の豊富な人からすれば、筋力や敏捷力といった能力値は数値で表されるのが常識らしい。
だから、違和感に戸惑いを隠せない声が多く、ネットでもかなり盛り上がりを見せていた。
そんな風に全ての能力値がざっくりとした文章で表現されている。
それがリトリー・オンラインだった。
しかし、住めば都というだけあって、慣れとは恐ろしい。
いつの間にか、わたしはVRに描写された異世界に適応し、馴染んだ。
ゲームに慣れてないこともあり、躊躇っていたコミュニケーションも師匠と冒険の旅をして、改善された。
師匠はよく言えば、自由な人。
悪く言えば、自分勝手な人。
でも、自分勝手ではあっても他者を慮る心はちゃんと持っていると思う。
まぁ、持ってはいるけど、ちょっぴり……そして偶に忘れるかもしれないってことだ。
それくらいは笑って、華麗にスルーする程度の心の余裕がわたしにも出たという証でもあった。
ただ、そうは言っても師匠は急に連絡を寄越してくる人であるのは事実。
「今日はあのエリアでやろう」なんて、唐突なタイミングで言ってくるんだから。
考えることは突拍子がないようでいて。
実は漠然としていないものの理由が隠されていることに気付いた。
言い方はアレで配慮していないように見えるけど、そうじゃないのだ。
あの人はわたしが見たことのない物、経験したことのない物と接する機会を与えようとしている。
それに気付けことで、目に見える世界が今までと違って見えた。
そのお陰なのか。
変な自信を付けてしまったのだ、わたしは……。
今までにない積極的な姿勢が取れるようになったのはこの頃からだったと思う。
リアルなもう一つの人生を謳い文句にしているリトリー・オンラインの採用したシステムが、レイドだった。
レイドは個人ではなく、集団でタスクをこなすミッション形式だ。
要はゼミやチームに近いものがある。
あれこれとしたいものがあるから、一緒にどこどこまで行きませんか?
噛み砕いて言えば、多分こんなところだけど、人によって程度の差異が出る。
気軽に景色がきれいな場所を見に行きたい人もいれば、モンスターの素材を目当てにモンスターハンティングの仲間を募集する人もいる。
ファンタジーらしさと現実の入り混じった不思議な空気が漂う空間。
それがレイドだった。
まさかレイドを通じて、友人と呼べる存在ができるとは思ってもいなかったけど。
意外とすんなりとリトリー・オンラインの世界に適合し、次第にどっぷりと入れ込んでしまったのはきっとそのせいだ。
ネクス師匠やバルディエルとのやり取りで気付いたのは、このVRゲームのコンセプトやシステムが既存のゲームとは大きく異なっている点だった。
キャラクターを作る際に個人データと引き換えにボーナスポイントを貰える。
でも、このボーナスポイント。
ポイントと銘打っているけど、数値に換算されていない。
あくまで通常よりも優遇してあげる程度のニュアンスだった。
ゲーム経験が少ないわたしは単純にボーナスが貰えるなら、いいかなぁ程度にしか感じていなかったけど、これは普通に戸惑うシステムらしい。
はっきりと目に見えるボーナスではないからだ。
これと同じようにゲーム経験が豊富な人が何よりも違和感に戸惑ったのが、ステータス画面だった。
ステータス画面は呼び出すと目の前に表示される。
最新の空中ディスプレイに似ているのでこの表示は慣れてしまえば、それほど苦にならない。
「ステータス表示」と呼びかけるか、サポートAIに頼むだけで一瞬で表示される。
問題はそこではなくて。
表示されるデータの方だった。
名前と種族名が表示されるのは特に驚かない。
IDカードみたいな物だと考えたら、それらのデータが掲載されているのも不思議なことじゃないから。
不思議なのはそこに随分とざっくりしたデータが表示されていたことだ。
具体例を挙げるなら、筋力だろうか。
それほど高くないと書いてあった。
あぁ、なるほど。
「わたし、力ないし」と変に納得したわたしのような人間の方が珍しいタイプに属するようだ。
ゲーム経験の豊富な人からすれば、筋力や敏捷力といった能力値は数値で表されるのが常識らしい。
だから、違和感に戸惑いを隠せない声が多く、ネットでもかなり盛り上がりを見せていた。
そんな風に全ての能力値がざっくりとした文章で表現されている。
それがリトリー・オンラインだった。
しかし、住めば都というだけあって、慣れとは恐ろしい。
いつの間にか、わたしはVRに描写された異世界に適応し、馴染んだ。
ゲームに慣れてないこともあり、躊躇っていたコミュニケーションも師匠と冒険の旅をして、改善された。
師匠はよく言えば、自由な人。
悪く言えば、自分勝手な人。
でも、自分勝手ではあっても他者を慮る心はちゃんと持っていると思う。
まぁ、持ってはいるけど、ちょっぴり……そして偶に忘れるかもしれないってことだ。
それくらいは笑って、華麗にスルーする程度の心の余裕がわたしにも出たという証でもあった。
ただ、そうは言っても師匠は急に連絡を寄越してくる人であるのは事実。
「今日はあのエリアでやろう」なんて、唐突なタイミングで言ってくるんだから。
考えることは突拍子がないようでいて。
実は漠然としていないものの理由が隠されていることに気付いた。
言い方はアレで配慮していないように見えるけど、そうじゃないのだ。
あの人はわたしが見たことのない物、経験したことのない物と接する機会を与えようとしている。
それに気付けことで、目に見える世界が今までと違って見えた。
そのお陰なのか。
変な自信を付けてしまったのだ、わたしは……。
今までにない積極的な姿勢が取れるようになったのはこの頃からだったと思う。
リアルなもう一つの人生を謳い文句にしているリトリー・オンラインの採用したシステムが、レイドだった。
レイドは個人ではなく、集団でタスクをこなすミッション形式だ。
要はゼミやチームに近いものがある。
あれこれとしたいものがあるから、一緒にどこどこまで行きませんか?
噛み砕いて言えば、多分こんなところだけど、人によって程度の差異が出る。
気軽に景色がきれいな場所を見に行きたい人もいれば、モンスターの素材を目当てにモンスターハンティングの仲間を募集する人もいる。
ファンタジーらしさと現実の入り混じった不思議な空気が漂う空間。
それがレイドだった。
まさかレイドを通じて、友人と呼べる存在ができるとは思ってもいなかったけど。
10
お気に入りに追加
7
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。

百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
ドマゾネスの掟 ~ドMな褐色少女は僕に責められたがっている~
桂
ファンタジー
探検家の主人公は伝説の部族ドマゾネスを探すために密林の奥へ進むが道に迷ってしまう。
そんな彼をドマゾネスの少女カリナが発見してドマゾネスの村に連れていく。
そして、目覚めた彼はドマゾネスたちから歓迎され、子種を求められるのだった。
セクスカリバーをヌキました!
桂
ファンタジー
とある世界の森の奥地に真の勇者だけに抜けると言い伝えられている聖剣「セクスカリバー」が岩に刺さって存在していた。
国一番の剣士の少女ステラはセクスカリバーを抜くことに成功するが、セクスカリバーはステラの膣を鞘代わりにして収まってしまう。
ステラはセクスカリバーを抜けないまま武闘会に出場して……

転売屋(テンバイヤー)は相場スキルで財を成す
エルリア
ファンタジー
【祝!第17回ファンタジー小説大賞奨励賞受賞!】
転売屋(テンバイヤー)が異世界に飛ばされたらチートスキルを手にしていた!
元の世界では疎まれていても、こっちの世界なら問題なし。
相場スキルを駆使して目指せ夢のマイショップ!
ふとしたことで異世界に飛ばされた中年が、青年となってお金儲けに走ります。
お金は全てを解決する、それはどの世界においても同じ事。
金金金の主人公が、授かった相場スキルで私利私欲の為に稼ぎまくります。
明智さんちの旦那さんたちR
明智 颯茄
恋愛
あの小高い丘の上に建つ大きなお屋敷には、一風変わった夫婦が住んでいる。それは、妻一人に夫十人のいわゆる逆ハーレム婚だ。
奥さんは何かと大変かと思いきやそうではないらしい。旦那さんたちは全員神がかりな美しさを持つイケメンで、奥さんはニヤケ放題らしい。
ほのぼのとしながらも、複数婚が巻き起こすおかしな日常が満載。
*BL描写あり
毎週月曜日と隔週の日曜日お休みします。
ナイナイづくしで始まった、傷物令嬢の異世界生活
天三津空らげ
ファンタジー
日本の田舎で平凡な会社員だった松田理奈は、不慮の事故で亡くなり10歳のマグダリーナに異世界転生した。転生先の子爵家は、どん底の貧乏。父は転生前の自分と同じ歳なのに仕事しない。二十五歳の青年におまるのお世話をされる最悪の日々。転生チートもないマグダリーナが、美しい魔法使いの少女に出会った時、失われた女神と幻の種族にふりまわされつつQOLが爆上がりすることになる――
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる