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9 悔恨
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師匠――ネクスはわたしと同じエルフ族の男の人だった。
背が高くて、くすんだ灰色をしたわたしの髪色とは対照的な太陽の光を散りばめたような金髪が眩しい。
澄んだ空色の瞳と相まって、王子様のようにも見える。
気のせいではないと思う。
わたしとは違って、地味な顔立ちでもない。
もしかするとハーフなのかもしれない。
それとも外国の人?
そう思えるほどに濃い顔をしていた。
それでいて、喋りは苦手な人だった。
「ここがいい」とか、「それでいい」とか、ぶっきらぼうな言い方しかできない。
だけど、何かと心遣いができる人であるのは間違いなかった。
わたしに声をかけた理由が大層な理由かと思ったら、何のことはない。
知り合いと勘違いしただけだったのだ。
ネクス師匠はちょっぴり天然が入っているのかもしれない。
わたしが名前をアルファベットで『ミレイユ』と書いたら、「ミレル?」と冗談抜きの真顔で言ったのだから……。
でも、その後も何かと面倒を看てくれる師匠だ。
そんなところをみると決して悪い人ではない。
見た目から、判断すると若い人なんだろう。
ボーナスポイントが欲しいから、キャプチャしたと聞いた。
声と見た目はわたしと変わらないくらいの年齢。
もしかしたら、年下の可能性だって否定できない。
それでも彼が師匠であることに変わりはない。
『大分、扱いに慣れたようですね』
「そりゃ、さすがにね!」
「あなたの喋り方も随分と慣れてきたよね?」と言いたいところを我慢した。
AIを相手にむきになっても大人気ない。
「便利ね、これ」
『アーバレストとマスターの相性がいいのです、えっへん』
アーバレストを用意したのはリトリー・オンラインの運営であって。
バルディエルの功績でもないのになぜ、そんなに鼻高々になるの?
不思議に思うけど、AIが感情的に物事を捉えているのも事実だ。
いささか驚きを隠せなかった。
「次はどっち?」
『三時の方向、距離およそ二百』
三時?
三時って、えっとお箸を持つ方? と聞こうとしてやめた。
下手に聞いたら、「知らないんですか?」と馬鹿にしてくるに違いない。
バルディエルはそういう子だ。
短い付き合いだが、既にある程度、理解できた。
でも、元社長のように不満の解消として、怒鳴り散らすのに比べれば、遥かにましだと思う。
「ちなみにそれって……」
『マスターが箸を持つ方です」
「そ、そう。ありがとう」
『いえいえ』
どうやら、このAIはわたしが考えている以上に賢いのだ。
人間の細やかな感情の動きを察して、慮ることができるのではないか。
そう考えてもおかしくない対応をしてくるのには驚かされる。
時代は進んでこんなに技術が進化しているのにわたしは随分と馬鹿な夢を見ていたんだなと思い知らされた瞬間でもあった。
時間は無限ではなく、有限であって。
決して無駄にしてはいけないものなのに……。
ブラック企業に勤めていた時間は全くの無駄だったと思えて仕方がなかった。
背が高くて、くすんだ灰色をしたわたしの髪色とは対照的な太陽の光を散りばめたような金髪が眩しい。
澄んだ空色の瞳と相まって、王子様のようにも見える。
気のせいではないと思う。
わたしとは違って、地味な顔立ちでもない。
もしかするとハーフなのかもしれない。
それとも外国の人?
そう思えるほどに濃い顔をしていた。
それでいて、喋りは苦手な人だった。
「ここがいい」とか、「それでいい」とか、ぶっきらぼうな言い方しかできない。
だけど、何かと心遣いができる人であるのは間違いなかった。
わたしに声をかけた理由が大層な理由かと思ったら、何のことはない。
知り合いと勘違いしただけだったのだ。
ネクス師匠はちょっぴり天然が入っているのかもしれない。
わたしが名前をアルファベットで『ミレイユ』と書いたら、「ミレル?」と冗談抜きの真顔で言ったのだから……。
でも、その後も何かと面倒を看てくれる師匠だ。
そんなところをみると決して悪い人ではない。
見た目から、判断すると若い人なんだろう。
ボーナスポイントが欲しいから、キャプチャしたと聞いた。
声と見た目はわたしと変わらないくらいの年齢。
もしかしたら、年下の可能性だって否定できない。
それでも彼が師匠であることに変わりはない。
『大分、扱いに慣れたようですね』
「そりゃ、さすがにね!」
「あなたの喋り方も随分と慣れてきたよね?」と言いたいところを我慢した。
AIを相手にむきになっても大人気ない。
「便利ね、これ」
『アーバレストとマスターの相性がいいのです、えっへん』
アーバレストを用意したのはリトリー・オンラインの運営であって。
バルディエルの功績でもないのになぜ、そんなに鼻高々になるの?
不思議に思うけど、AIが感情的に物事を捉えているのも事実だ。
いささか驚きを隠せなかった。
「次はどっち?」
『三時の方向、距離およそ二百』
三時?
三時って、えっとお箸を持つ方? と聞こうとしてやめた。
下手に聞いたら、「知らないんですか?」と馬鹿にしてくるに違いない。
バルディエルはそういう子だ。
短い付き合いだが、既にある程度、理解できた。
でも、元社長のように不満の解消として、怒鳴り散らすのに比べれば、遥かにましだと思う。
「ちなみにそれって……」
『マスターが箸を持つ方です」
「そ、そう。ありがとう」
『いえいえ』
どうやら、このAIはわたしが考えている以上に賢いのだ。
人間の細やかな感情の動きを察して、慮ることができるのではないか。
そう考えてもおかしくない対応をしてくるのには驚かされる。
時代は進んでこんなに技術が進化しているのにわたしは随分と馬鹿な夢を見ていたんだなと思い知らされた瞬間でもあった。
時間は無限ではなく、有限であって。
決して無駄にしてはいけないものなのに……。
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