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8 相棒バルディエル
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自由度が高い。
コテコテの日本人だと自由度の高さに首を捻る。
何をしてもいいけど、逆に何をすればいいのか、分からなくなるのだ。
苦手に考える人が多いのは日本人がそれだけ、自由にすればいいとすべきことを見失ったり、そもそも見つけられない気質なんだろう。
わたしもそうだ。
草原に降り立った時は広がる壮大な景色にただ圧倒された。
しかし、ふと我に返った。
こんな草原でどうすればいいのか?
何をしたら、いいのか?
『マズはコミュニティエリアに向カいマシょう』
「はい?」
『はイ』
聞きなれない声は右肩の辺りから聞こえた。
機械音声みたいな無機質な声で変なイントネーションとアクセントが独特で何だか、たどたどしい。
恐る恐る右を向くとそこには……。
『申シ遅れマシた。ぼクハばるディエルでス』
『あナタのサポートをするもノでス』と続けたソレは、わたしの右肩に乗っかっていた。
チキン・ナゲットみたいな色をしている。
両耳は大きくて、だらんと垂れている。
くりくりとした円らなお目目が可愛いくて、もきゅもきゅと動いているお鼻も可愛い。
「ほ、ほーらんどろっぷ?」
紅茶色をした垂れ耳のウサギがさも当然とでも言うようにわたしの右肩を占拠しているのだ。
重さを感じないなんて、おかしい!
そう思ったけど、よく考えたら、これはVRゲーム。
重さを感じたら、逆に怖いじゃないの。
『そノ通りでス。さア、いザ、コミュニティエリアへ」
「は、はい」
なるほど。
さすがに鈍いわたしでも気付いた。
このゲーム、元からそういう機能が付いていたのだと……。
バルディエルと名乗るサポートAIのお陰でどうにか、近場のコミュニティエリアに辿り着くことができた。
あのままだったら、ただ漠然と……。
しかし、呆然と草原でポツネンとするだけしかなかっただろう。
それを考えるとホーランドロップもどきには感謝しないといけないところなんだけど。
『全くもッテ、まスターは頼リがありまセン』
「はぁ。ごもっともで」
このAI、口と性格があまりよろしくない。
見た目こそ、可愛いけどそんなプラス要素をマイナスにしてくれる実に可愛げのないAIだった。
そうは言ってもゲームの知識がないわたしだ。
このリトリー・オンラインで右に行けばいいのか、左に行けばいいのかも分からない状況で道標になってくれる存在は貴重である。
我慢するしかない……。
実際、このバルディエルは口と性格の悪さに目を瞑れば、優秀だった。
分からない用語についてもたどたどしい言葉で丁寧に説明してくれる。
それだけでもかなりの助けになるのに何をすればいいのかもそれとなく、提示してくれるのは実に心強い。
「試しに戦うのって、本当に大丈夫?」
『もっと自信を持ってクダサイ。アーバレストを信じてクダサイ』
「あなた、言葉がちょっと上手になってない?」と言おうとして、やめた。
それを口にしてはいけない気がしたのだ。
なぜかは分からないけど、これまた漠然としかし、そう考えた。
いや、考えさせられたと言うべきなんだろう。
そして、小柄な獣人相手に戦いを挑むことにした。
バルディエル曰く、冒険に出るのなら、まず戦うのは『ゴブリン』という公式があると唆されからだ。
安全を考えて、初心者なのでコミュニティエリアから程近いところにいるのを見繕ってくれるのだから、バルディエルは優秀なAIなんだと思う。
少しくらい口が悪くて、性格もよろしくないけど実力は本物ってことだろう。
まさか、そこで師匠と呼ぶべき人に出会うとは……。
これは偶然ではなく、必然で何かの運命だったに違いない。
「何してるんですか?」
唐突に話しかけられた。
他のプレイヤーを見たことはあっても話しかけたこともなければ、話しかけられたこともない。
わたしは何をしていたのかと言えば……。
まず、どうやって戦えばいいのか、よく分からない。
バルディエルがアーバレストの使い方をきちんとレクチャーしてくれたら、そんなことは起きなかったのに一切、説明してくれなかったのだ。
当然、魔法の矢弾の装填法も分からなければ、撃ち方も知らないのだから、仕方ない。
だから、わたしがアーバレストをバットのように振り回したのも致し方ないこと。
だって、知らなかったんだから。
さらに酷いのは攻撃を回避しようとして、相手の周りを意味もなく、ぐるぐると回っていたことだ。
傍目から見れば、さぞや奇妙な風景に映ったことだろう。
わたしだって、なるべくなら、そんなことはしたくなかった。
でも、当たると痛そうだから、ぐるぐる回ったら、当たらないと思ったわたしは悪くない……。
コテコテの日本人だと自由度の高さに首を捻る。
何をしてもいいけど、逆に何をすればいいのか、分からなくなるのだ。
苦手に考える人が多いのは日本人がそれだけ、自由にすればいいとすべきことを見失ったり、そもそも見つけられない気質なんだろう。
わたしもそうだ。
草原に降り立った時は広がる壮大な景色にただ圧倒された。
しかし、ふと我に返った。
こんな草原でどうすればいいのか?
何をしたら、いいのか?
『マズはコミュニティエリアに向カいマシょう』
「はい?」
『はイ』
聞きなれない声は右肩の辺りから聞こえた。
機械音声みたいな無機質な声で変なイントネーションとアクセントが独特で何だか、たどたどしい。
恐る恐る右を向くとそこには……。
『申シ遅れマシた。ぼクハばるディエルでス』
『あナタのサポートをするもノでス』と続けたソレは、わたしの右肩に乗っかっていた。
チキン・ナゲットみたいな色をしている。
両耳は大きくて、だらんと垂れている。
くりくりとした円らなお目目が可愛いくて、もきゅもきゅと動いているお鼻も可愛い。
「ほ、ほーらんどろっぷ?」
紅茶色をした垂れ耳のウサギがさも当然とでも言うようにわたしの右肩を占拠しているのだ。
重さを感じないなんて、おかしい!
そう思ったけど、よく考えたら、これはVRゲーム。
重さを感じたら、逆に怖いじゃないの。
『そノ通りでス。さア、いザ、コミュニティエリアへ」
「は、はい」
なるほど。
さすがに鈍いわたしでも気付いた。
このゲーム、元からそういう機能が付いていたのだと……。
バルディエルと名乗るサポートAIのお陰でどうにか、近場のコミュニティエリアに辿り着くことができた。
あのままだったら、ただ漠然と……。
しかし、呆然と草原でポツネンとするだけしかなかっただろう。
それを考えるとホーランドロップもどきには感謝しないといけないところなんだけど。
『全くもッテ、まスターは頼リがありまセン』
「はぁ。ごもっともで」
このAI、口と性格があまりよろしくない。
見た目こそ、可愛いけどそんなプラス要素をマイナスにしてくれる実に可愛げのないAIだった。
そうは言ってもゲームの知識がないわたしだ。
このリトリー・オンラインで右に行けばいいのか、左に行けばいいのかも分からない状況で道標になってくれる存在は貴重である。
我慢するしかない……。
実際、このバルディエルは口と性格の悪さに目を瞑れば、優秀だった。
分からない用語についてもたどたどしい言葉で丁寧に説明してくれる。
それだけでもかなりの助けになるのに何をすればいいのかもそれとなく、提示してくれるのは実に心強い。
「試しに戦うのって、本当に大丈夫?」
『もっと自信を持ってクダサイ。アーバレストを信じてクダサイ』
「あなた、言葉がちょっと上手になってない?」と言おうとして、やめた。
それを口にしてはいけない気がしたのだ。
なぜかは分からないけど、これまた漠然としかし、そう考えた。
いや、考えさせられたと言うべきなんだろう。
そして、小柄な獣人相手に戦いを挑むことにした。
バルディエル曰く、冒険に出るのなら、まず戦うのは『ゴブリン』という公式があると唆されからだ。
安全を考えて、初心者なのでコミュニティエリアから程近いところにいるのを見繕ってくれるのだから、バルディエルは優秀なAIなんだと思う。
少しくらい口が悪くて、性格もよろしくないけど実力は本物ってことだろう。
まさか、そこで師匠と呼ぶべき人に出会うとは……。
これは偶然ではなく、必然で何かの運命だったに違いない。
「何してるんですか?」
唐突に話しかけられた。
他のプレイヤーを見たことはあっても話しかけたこともなければ、話しかけられたこともない。
わたしは何をしていたのかと言えば……。
まず、どうやって戦えばいいのか、よく分からない。
バルディエルがアーバレストの使い方をきちんとレクチャーしてくれたら、そんなことは起きなかったのに一切、説明してくれなかったのだ。
当然、魔法の矢弾の装填法も分からなければ、撃ち方も知らないのだから、仕方ない。
だから、わたしがアーバレストをバットのように振り回したのも致し方ないこと。
だって、知らなかったんだから。
さらに酷いのは攻撃を回避しようとして、相手の周りを意味もなく、ぐるぐると回っていたことだ。
傍目から見れば、さぞや奇妙な風景に映ったことだろう。
わたしだって、なるべくなら、そんなことはしたくなかった。
でも、当たると痛そうだから、ぐるぐる回ったら、当たらないと思ったわたしは悪くない……。
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