5 / 37
5 転機
しおりを挟む
母は足が不自由になった。
日常生活を送るうえで差し当った支障がある訳ではない。
だけど、やれていたことが思うようにできなくなったのは事実だ。
祖母が死んでから、慢性的な腰の痛みに悩まされていた母だが、ある日、耐えられないような激痛に襲われ、原因が判明した。
まさかの骨董壊死だったのだ。
母は運動をしている訳でもなく、まだ若い年齢から考えるとどうして発症したのか、分からなかった。
股関節の手術を受けることになり、人工股関節になって、母はこうしてはならないと動きに制限を設けられた。
祖母が癌になったのも母が骨董壊死になったのも……。
全部、わたしのせいじゃないかと己を責めるように悩んだのはこの時期だ。
もし、あの時、言うことを聞いていたら、こんなことになっていなかったのではないか。
そう考え始めると埒が明かない。
まるで堂々巡りの迷宮にでも落とされたような感覚だった。
そのまま、何も無ければ、思考がループする虚無の海で溺れていただろう。
そう。
わたしは出会ったのだ。
運命的なものに……。
その日、わたしは熱にでも浮かされたようにはっきりとしない意識のまま、ただ漠然とテレビを見ていた。
コマーシャルが流れた。
「もう一人の自分が見つかる……あなたの新たな運命が今、始まる! リトリー・オンライン、いよいよベータテスター登録スタート!」
スマートフォンのゲームアプリのコマーシャルだった。
特に特徴はない。
ありきたりの宣伝文句だ。
それなのになぜか、妙に気になる。
不思議だった。
たいがいのゲームアプリがサービス前の登録者数を増やそうと豪華賞品をプレゼントだの賞金が出るだの餌を撒く。
それが一切ない。
気になって仕方なかった。
自由を奪われても母は悲観することなく、案外人生を楽しんでいる。
それなら、わたしもそろそろ、自分を探す時だ。
漠然と纏わりつく、漆黒の虚無から抜け出しかった。
失業したまま、いつまでも何もしないでいる訳にもいかない。
何かしなくてはならないと強迫観念だってある。
スマホのアプリをしたところで何かが変わるはずもないのにわたしは妙な確信を胸にリトリー・オンラインをインストールした。
ありきたりのスマホアプリだと思っていたら、全く違う。
珍しいことに疑似VRゲームなのだという。
それが何なのかも分からず、画面の指示に従う。
「リトリー・オンラインへようこそ。あなたの新たな可能性を見つけましょう。もう一人の自分を……」
不思議な感覚と興奮に包まれながら、わたしはただ画面に見入っていた。
日常生活を送るうえで差し当った支障がある訳ではない。
だけど、やれていたことが思うようにできなくなったのは事実だ。
祖母が死んでから、慢性的な腰の痛みに悩まされていた母だが、ある日、耐えられないような激痛に襲われ、原因が判明した。
まさかの骨董壊死だったのだ。
母は運動をしている訳でもなく、まだ若い年齢から考えるとどうして発症したのか、分からなかった。
股関節の手術を受けることになり、人工股関節になって、母はこうしてはならないと動きに制限を設けられた。
祖母が癌になったのも母が骨董壊死になったのも……。
全部、わたしのせいじゃないかと己を責めるように悩んだのはこの時期だ。
もし、あの時、言うことを聞いていたら、こんなことになっていなかったのではないか。
そう考え始めると埒が明かない。
まるで堂々巡りの迷宮にでも落とされたような感覚だった。
そのまま、何も無ければ、思考がループする虚無の海で溺れていただろう。
そう。
わたしは出会ったのだ。
運命的なものに……。
その日、わたしは熱にでも浮かされたようにはっきりとしない意識のまま、ただ漠然とテレビを見ていた。
コマーシャルが流れた。
「もう一人の自分が見つかる……あなたの新たな運命が今、始まる! リトリー・オンライン、いよいよベータテスター登録スタート!」
スマートフォンのゲームアプリのコマーシャルだった。
特に特徴はない。
ありきたりの宣伝文句だ。
それなのになぜか、妙に気になる。
不思議だった。
たいがいのゲームアプリがサービス前の登録者数を増やそうと豪華賞品をプレゼントだの賞金が出るだの餌を撒く。
それが一切ない。
気になって仕方なかった。
自由を奪われても母は悲観することなく、案外人生を楽しんでいる。
それなら、わたしもそろそろ、自分を探す時だ。
漠然と纏わりつく、漆黒の虚無から抜け出しかった。
失業したまま、いつまでも何もしないでいる訳にもいかない。
何かしなくてはならないと強迫観念だってある。
スマホのアプリをしたところで何かが変わるはずもないのにわたしは妙な確信を胸にリトリー・オンラインをインストールした。
ありきたりのスマホアプリだと思っていたら、全く違う。
珍しいことに疑似VRゲームなのだという。
それが何なのかも分からず、画面の指示に従う。
「リトリー・オンラインへようこそ。あなたの新たな可能性を見つけましょう。もう一人の自分を……」
不思議な感覚と興奮に包まれながら、わたしはただ画面に見入っていた。
0
お気に入りに追加
7
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。

百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
ドマゾネスの掟 ~ドMな褐色少女は僕に責められたがっている~
桂
ファンタジー
探検家の主人公は伝説の部族ドマゾネスを探すために密林の奥へ進むが道に迷ってしまう。
そんな彼をドマゾネスの少女カリナが発見してドマゾネスの村に連れていく。
そして、目覚めた彼はドマゾネスたちから歓迎され、子種を求められるのだった。
セクスカリバーをヌキました!
桂
ファンタジー
とある世界の森の奥地に真の勇者だけに抜けると言い伝えられている聖剣「セクスカリバー」が岩に刺さって存在していた。
国一番の剣士の少女ステラはセクスカリバーを抜くことに成功するが、セクスカリバーはステラの膣を鞘代わりにして収まってしまう。
ステラはセクスカリバーを抜けないまま武闘会に出場して……

転売屋(テンバイヤー)は相場スキルで財を成す
エルリア
ファンタジー
【祝!第17回ファンタジー小説大賞奨励賞受賞!】
転売屋(テンバイヤー)が異世界に飛ばされたらチートスキルを手にしていた!
元の世界では疎まれていても、こっちの世界なら問題なし。
相場スキルを駆使して目指せ夢のマイショップ!
ふとしたことで異世界に飛ばされた中年が、青年となってお金儲けに走ります。
お金は全てを解決する、それはどの世界においても同じ事。
金金金の主人公が、授かった相場スキルで私利私欲の為に稼ぎまくります。
明智さんちの旦那さんたちR
明智 颯茄
恋愛
あの小高い丘の上に建つ大きなお屋敷には、一風変わった夫婦が住んでいる。それは、妻一人に夫十人のいわゆる逆ハーレム婚だ。
奥さんは何かと大変かと思いきやそうではないらしい。旦那さんたちは全員神がかりな美しさを持つイケメンで、奥さんはニヤケ放題らしい。
ほのぼのとしながらも、複数婚が巻き起こすおかしな日常が満載。
*BL描写あり
毎週月曜日と隔週の日曜日お休みします。
ナイナイづくしで始まった、傷物令嬢の異世界生活
天三津空らげ
ファンタジー
日本の田舎で平凡な会社員だった松田理奈は、不慮の事故で亡くなり10歳のマグダリーナに異世界転生した。転生先の子爵家は、どん底の貧乏。父は転生前の自分と同じ歳なのに仕事しない。二十五歳の青年におまるのお世話をされる最悪の日々。転生チートもないマグダリーナが、美しい魔法使いの少女に出会った時、失われた女神と幻の種族にふりまわされつつQOLが爆上がりすることになる――
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる