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4 変化

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 祖母がいなくなり、わたしと母の暮らしは一変する。
 彼女の遺産は資産家というにはいささか心許なく、以前と同じ暮らしを維持するのは困難としか考えられないものだった。
 その理由は簡単なものだ。
 すぐに用意できる手元の資産が片手で足りるとするとそれ以外の資産が両手でも足りない。
 完全にそれ以外が首を絞めてくる原因。
 無駄に広い敷地はわたし達にとって、どうにかできる代物ではなかった。
 H町はなぜか税率が高いことでも知られている。
 当然、土地を持っていれば、かかる固定資産税もその例に漏れない。
 高すぎて、到底維持できるものではなかった。

 生まれ育った家を離れるのは辛かったが、背に腹は代えられない。
 母の方がその気持ちは強かったと思う。
 でも、強い気持ちだけでどうにかできるものではない。
 少しでも損害が出る前に動く必要があった。



 わたし達親娘は同じH町にある集合住宅の一室へと引っ越した。
 実家と敷地は全て、手放した。
 近年、人気の出てきた土地柄だったことも幸いしたのか、割と早い段階で取引が成立したのも良かったと思う。
 まとまった資金が入ったので引っ越しもスムーズに終わった。

 引っ越し先は実家があったところから、さして離れていない。
 歩いて十分とちょっとあれば、余裕で着くくらいの距離にある『エコーハイム』という名の集合住宅だ。
 建築されてから、既に半世紀以上過ぎているマンションだから、それなりに古い建物だけど贅沢は言ってられない。
 上を見れば、キリがないのだ。

 住むのは二人だけなのでそんなに広い部屋は必要ない。
 暮らすだけなら、十分な広さと言える部屋だった。
 それでも不満がないかと言えば、嘘になる。
 今まで暮らしていた実家と比べると狭い。
 収納スペースは少ないし、物を置ける場所もほとんどない。
 ないない尽くしなのだ。
 でも、悪いことばかりではない。

 祖母の死を切っ掛けにしたというより、自分の中で踏ん切りがついたんだと思う。
 退職した。
 ようやく退職したというべきなのかもしれない。
 この頃には心身ともにすっかり、おかしくなっていたから、もう少し遅れていたら三途の川の向こうへ行っていた可能性すらある。

「ねえ、ママ。わたしさ。会社やめようと思うんだ」
「そう」

 母は「そう」としか答えなかった。
 是でもなければ、非でもない不思議な答えだ。
 「そう」の後に続くのは「勝手にしなさい」なのかも分からない。
 ただ、母はわたしの性格をよく知っている。
 一度、言い出すと曲げることがない頑固なことを……。
 だから、敢えて「そう」としか、言わなかったんだろう。

 辞めると言ってもすんなりと退職できたかといえば、そうじゃない。
 さすがはブラック企業と言うべきなのか。
 それなりにごねられた挙句、判明したのは恐ろしい事実だった。
 福利厚生の整ったなんて、嘘ばかり。
 退職金なんて期待してはいなかったけど、雀の涙どころか、一切貰えなかった。
 弁護士を立て、争うよりも早く関りを断ちたいという思いの方が強い。
 ちゃんと退職できたのだと改めて、実感したのは体色を決めてから、数ヶ月も後のことだった。
 心身共にすっかり疲れ切ったわたしは当分の間、外に出る気力すら起きなかった。
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