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6 エルフのミレイユ

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 疑似VRゲームと呼ばれる理由が分かった。
 プレイヤーキャラクターを作る際、スマートフォンのカメラを使って疑似モーションキャプチャを行う。
 だから、文字通り、自分の分身を作れるのだ。

 自分にそっくりな3Dキャラが画面に出てくる。
 こそばゆいとでもいうのだろうか。
 変な気分になってくるのはわたしだけではないだろう。

 そもそも、自分そっくりなキャラで遊びたいと思う?
 思わない!
 わたしはナルシストじゃない。
 自分と同じ顔のキャラを動かそうとは到底思えないのだけど……。

 そこは運営が一枚上手だった。
 良く考えられていると白旗を上げるしかない。
 疑似モーションキャプチャを使ってキャラを作ったら、能力やスキルにボーナスが付く。
 ちょっとのボーナスではないらしく、疑似モーションキャプチャを勧めるレビューがたくさん書かれていた。
 もしかしたら、それはサクラが書いたものかもしれない。
 信頼してはいけないのだろう。

 だけど、なぜか信用したいと思った。
 疑似モーションキャプチャで作らなければいけない。
 そう考えている自分がいて、自分が自分でない感覚だ。
 不思議だった。

 面白いのはキャラの見た目だけでなく、名前までプレイヤーから推察されるものにすれば、ボーナスポイントが付くということだ。
 見た目。
 名前。
 個人情報をこれでもかと言わんばかりに取ろうとしているように見えた。
 運営側に何らかの意図があるのは明らかだ。
 でも、わたしはこれもまた、そうしなくてはいけないと思った。
 なぜかは分からない。
 ただ、そうしなければならないと思ったのだ。



 こうして、できあがったのがわたしのプレイヤーキャラクター『ミレイユ』だった。
 名前は本名をファンタジー世界と合致しそうな洋風にした。
 ただ、見た目はどうにもならない。
 純日本人な顔立ちをしていて、それほど立体的な作りをしていないからだ。
 薄めの顔と言えば、聞こえはいいけど……。
 美人でもなければ、ブスでもない。
 割とどこにでもいそうで。
 幸薄そうな顔と言われるのが落ちだろう。

 髪型とカラーは比較的、自由に選べる設定だけど、薄い顔で髪だけを派手にしても滑稽に見えそうだ。
 それは嫌なのでやめておく。
 無難かつ地味に見えるよう、くすんだ灰色のヘアカラーを選んで、ヘアスタイルもオーソドックスなポニーテールにした。

 それなのに!
 何で種族がエルフなのか、抗議したいくらいだ。
 「あなたに最適な種族はエルフ――シルフィードです」と半ば勝手に決められたのだから。

 ここまで何から、何まで決めてくるアプリも珍しいと思う。
 不幸中の幸いでエルフと言えば、すぐに分かる長く目立つ耳ではなかったことだろう。
 アニメや漫画に出てくるエルフほどは目立たない。
 尖っているから、よく見ると気になるかも? くらいのものだった。

 だけど、わたしは何も知らない。
 ゲーム経験もそれほどなく、子供の頃に国民的RPGでちょっと遊んだ程度だ。
 だから、最近のこういうゲームはこんなものなんだろうと変に納得しようとした。
 いや、そうしなければ、こんな怪しいアプリに手を出さないと思う。

「それも決めちゃうんだ?」

 思わず、声に出してしまった。
 母に「何か、言った?」と怪訝な顔をされたので慌てて、誤魔化す他ない。

 何と使う武器まで勝手に決められてしまった。
 「あなたに最適な武器は……」と提示されたのは何とも奇妙な形をした武器だった。
 見た目はぶっちゃけ、クロスボウに似ている。
 洋弓銃とも呼ばれていて、一時期、問題視された競技用の射撃ツールだ。
 大きさは現実のわたしに合わせたのか、ちょっと小ぶりになっている。
 照準器が付いていて、引き金もあるから、どう見ても競技用クロスボウそのものだった。

「アーバレスト?」

 でも、武器名のところにはアーバレストと書いてある。
 言葉の響きから、物騒極まりないものを感じるけど、手に収まるコンパクトさと無駄に凝った装飾が施されているせいか、ぱっと見では武器に見えない。

 しかもクロスボウなのに矢を番える機構がないと思ったら、自動装填式だった。
 おまけに魔力を変換して、魔法の矢を撃つタイプで魔法武器と呼ばれているらしい。
 しかし、嫌味なのはシステムが次に続けてきた言葉だ。
 「あなたの運動能力を加味した最適の武器です」とはこのアプリ……。

 どこかから、わたしを見ていたりするのだろうか?
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