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第8話 ご飯はちゃんと食べてる?
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「エミー。無茶はダメだよ」
エヴァはそれだけを言うと軽く、咳き込んで辛そうにしてる。
口に当てた真っ白な布が見る間に赤く、染まっていく。
「ごめんね、エミー」
「ううん。大丈夫? 薬は飲んでる? ご飯はちゃんと食べてる?」
「う、うん」
エヴァは人と話をする時、決して目を逸らしたりしない。
どんな話でも真っ直ぐに目を見て、話をしてくれる。
そんなエヴァが僅かに目を逸らした。
ホントに微かな瞳の揺れで分かりにくかったけど、気付いてしまった。
エヴァが嘘を言ってるって。
サイドテーブルにはあたしも朝食で飲んだスープのよそわれたお皿と水差し。
それにグラスと薬包があった。
具合がよくないエヴァでも食べやすいようにと考えて、スープなんだろうけど、ほとんど、手が付けられてないように見えた。
ふと気付いた。
おかしい。
よく目を凝らして見たら、グラスはいつ洗ったのかも分からないほどに曇ってる。
サイドテーブルも薄らと埃が積もってる。
「何よ、これ」
スープもあたしが飲んだのとは違う……。
煮込まれた鶏肉や色とりどりの野菜が入ってない。
色だって、水で薄めたとしか思えないくらいに薄い。
「エミー。どうしたの?」
血の気が通ってない青白い肌をしたエヴァは、ベッドに寝そべったまま、いつもと同じように穏やかな表情をしてる。
何、これ?
あたし、知らない。
エヴァがこんな扱いを受けてたなんて、知らなかった。
小説の中にもそんな描写はなかったはずだ。
「これ、ずっとなの?」
エヴァは声を発しないでただ、頷くことで肯定した。
どうして、気が付かなかったんだろう。
病気のせいだと思ってたけど、それだけじゃなかったんだ。
顔も頬が痩せこけて、血色の悪い。
大きな目だけが妙に目立ってた。
腕も骨に皮がついただけみたいにガリガリで栄養が足りてない。
お母様は戦地にいるお父様の代わりに領地の差配で忙しい。
何かに憑りつかれたように慈善活動ばかりしてる毎日だ。
あたし達に無関心や無頓着な訳ではないと思う。
ただ、お家のことにあまり、気を遣いたくないのかもしれない。
もしかして、デビュタントが控えてるマリーにお家のことを任せて、成長を促そうとしてるのかしら?
小説でもマリーが長女として、責任感の強い淑女になってく様子が描かれてた気がする。
じゃあ、これは誰の仕業?
あたし達の身の回りを管轄してるのはあの人しか、いないんだけど……。
「エミー」
「何?」
「無茶はダメだからね」
エヴァはあたしが何をしようとしてるのか、察してるのかもしれない。
そんな言い方をしてもあたしが止まらないのは知ってるだろうに……。
「分かってるって。ねぇ。この薬、いらないよね?」
「え? う、うん。何に使うの?」
「内緒」
「変なエミー」
無理して、笑ってるのが分かるくらいに辛そうな笑顔だ。
それでも無理をするのがエヴァ。
「な、何をしているの?」
「怪しまれないように工作してるのよ」
薬包の薬を別の紙に移して、包み直してから、薬包の外紙をくずかごに見やすいように捨てておいた。
それから、水差しの水をグラスに注いで窓から、捨てる。
これでエヴァが薬を飲んだと思わせることは出来るはず。
名探偵が出てくる小説の中でそんな話があったのを思い出したのだ。
「じゃあ、また来るね」
「うん」
エヴァに別れを告げて、自室へと戻ったあたしは部屋を出るあたしに彼女がどういう視線を向けているのかなんて、知らなかった。
だって、背中に目はついてないもん。
エヴァはそれだけを言うと軽く、咳き込んで辛そうにしてる。
口に当てた真っ白な布が見る間に赤く、染まっていく。
「ごめんね、エミー」
「ううん。大丈夫? 薬は飲んでる? ご飯はちゃんと食べてる?」
「う、うん」
エヴァは人と話をする時、決して目を逸らしたりしない。
どんな話でも真っ直ぐに目を見て、話をしてくれる。
そんなエヴァが僅かに目を逸らした。
ホントに微かな瞳の揺れで分かりにくかったけど、気付いてしまった。
エヴァが嘘を言ってるって。
サイドテーブルにはあたしも朝食で飲んだスープのよそわれたお皿と水差し。
それにグラスと薬包があった。
具合がよくないエヴァでも食べやすいようにと考えて、スープなんだろうけど、ほとんど、手が付けられてないように見えた。
ふと気付いた。
おかしい。
よく目を凝らして見たら、グラスはいつ洗ったのかも分からないほどに曇ってる。
サイドテーブルも薄らと埃が積もってる。
「何よ、これ」
スープもあたしが飲んだのとは違う……。
煮込まれた鶏肉や色とりどりの野菜が入ってない。
色だって、水で薄めたとしか思えないくらいに薄い。
「エミー。どうしたの?」
血の気が通ってない青白い肌をしたエヴァは、ベッドに寝そべったまま、いつもと同じように穏やかな表情をしてる。
何、これ?
あたし、知らない。
エヴァがこんな扱いを受けてたなんて、知らなかった。
小説の中にもそんな描写はなかったはずだ。
「これ、ずっとなの?」
エヴァは声を発しないでただ、頷くことで肯定した。
どうして、気が付かなかったんだろう。
病気のせいだと思ってたけど、それだけじゃなかったんだ。
顔も頬が痩せこけて、血色の悪い。
大きな目だけが妙に目立ってた。
腕も骨に皮がついただけみたいにガリガリで栄養が足りてない。
お母様は戦地にいるお父様の代わりに領地の差配で忙しい。
何かに憑りつかれたように慈善活動ばかりしてる毎日だ。
あたし達に無関心や無頓着な訳ではないと思う。
ただ、お家のことにあまり、気を遣いたくないのかもしれない。
もしかして、デビュタントが控えてるマリーにお家のことを任せて、成長を促そうとしてるのかしら?
小説でもマリーが長女として、責任感の強い淑女になってく様子が描かれてた気がする。
じゃあ、これは誰の仕業?
あたし達の身の回りを管轄してるのはあの人しか、いないんだけど……。
「エミー」
「何?」
「無茶はダメだからね」
エヴァはあたしが何をしようとしてるのか、察してるのかもしれない。
そんな言い方をしてもあたしが止まらないのは知ってるだろうに……。
「分かってるって。ねぇ。この薬、いらないよね?」
「え? う、うん。何に使うの?」
「内緒」
「変なエミー」
無理して、笑ってるのが分かるくらいに辛そうな笑顔だ。
それでも無理をするのがエヴァ。
「な、何をしているの?」
「怪しまれないように工作してるのよ」
薬包の薬を別の紙に移して、包み直してから、薬包の外紙をくずかごに見やすいように捨てておいた。
それから、水差しの水をグラスに注いで窓から、捨てる。
これでエヴァが薬を飲んだと思わせることは出来るはず。
名探偵が出てくる小説の中でそんな話があったのを思い出したのだ。
「じゃあ、また来るね」
「うん」
エヴァに別れを告げて、自室へと戻ったあたしは部屋を出るあたしに彼女がどういう視線を向けているのかなんて、知らなかった。
だって、背中に目はついてないもん。
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