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第7話 エミーがすぐに謝るなんて、珍しいわ

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 馬車で帰宅するのも一人。
 馭者は何かを言いたそうな顔をしてた。
 「お姉様達を待つわ」とでも言うと思ったのかしら?

 以前のあたしなら、そうしたでしょう。
 ニコニコと笑顔を絶やさずにきっと、そうしてた。
 でも、もうしない。

「どうしたの、エミー? ゴホゴホ」

 エヴァエヴェリーナの声で現実に引き戻された。
 彼女にしては珍しく、ベッドから起きてきたらしい。
 顔に血の気がなくて、青褪めていた。
 咳も苦しそうで見ていて、辛い。

 小説の中でもエヴァだけが常にエミーの味方だった。
 あたしの記憶の中でもエヴァはいつも優しくて、変わらなかった。
 それは誰に対しても変わらないエヴァは、愛が欲しくて見せかけで愛想を振りまいていたあたしとは違うのだ。

 だけど、彼女は病弱でこのまま、手を施さないでいると病が悪化していく。
 一年後には重篤な症状に襲われて、ついには帰らぬ人になってしまう。

「何でもないわ」
「嘘でしょ? エミーは嘘をつく時、鼻の頭を触る癖があるの。気が付いてなかった?」
「嘘!?」

 エヴァは咳が治まったからか、先程の苦しそうな表情よりは少し、穏やかになった。
 静かに微笑みかけてくれるエヴァをみんなが愛してる。
 あたしだって、例外ではない。

「それでどうしたの?」
「どうもしないわ」
「どうもしないのに髪の色が変わったの?」

 あたしの負け。
 エヴァの疑いを知らない真っ直ぐな目を見てたら、黙っておくことなんて出来ない。
 あたしは小説の中だけではなく、おしゃまでお喋りなのだ。
 黙っていられない。

「分かったわ。エヴァの部屋で話しましょ」
「ええ」



 エヴァにとって、起きていたこと自体が負担だったようだ。
 かなり無理が祟ったのか、部屋に戻るとベッドに寝そべったまま、起き上がれなくなった。

「ごめんなさい、エヴァ」
「あら。エミーがすぐに謝るなんて、珍しいわ」

 エヴァは荒い息遣いをしながらもそう言って、微笑み返してくれる。

 愛されないことが悲しくて、月の女神様にお祈りをしたら、不思議なことが起きた。
 それは事実だ。
 この世界が、小説『淑女レディへの子守歌ララバイ』と同じということをのだから。

 でも、そのことをそのまま、話しても信じてはもらえないだろう。
 あたしが怪我をして、寝てたと知ったら、びっくりするし、悲しむだろうし……。
 そこは秘密にしておくべきかしら?

 多分、お母様とマリーはエヴァになるべく、負担をかけないようにしてるはず。
 あたしのことを話してないと考えて、間違いない。

 心配なのはあたしに意地悪なことしか、しないユナだ。
 でも、エヴァのことは気にかけているみたいだから、大丈夫?

「あのね、エヴァ」
「うん。どうしたの?」
「実は……」

 あたしはまとめたりするのが苦手だ。
 かなり苦労した。
 言わないといけないこと。
 言っちゃいけないこと。
 ゴチャゴチャしちゃって、うまく言えたかは分からない。
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