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第299話
しおりを挟む恭介的には間が悪いタイミングで、まったく空気の読めない上司が登場する。ちなみにレッドは公休だ。
「はぁ~い、ふたりともぉ、ちょっといいかしら~! 手をとめて頂戴~!」
「お、おはようございます、アミィさん!」
と、ユスラが真っ先に反応した。いつものパターンにつき、恭介は落ちついて席を立ち、アミィに近づいてから理由を訊ねる。
「きょうは何事ですか。」
「さすがっ、キョウくんは冷静ね! またまた男らしさが増してるわ~。」
「またって、どういう意味です? 3日間休みをもらっただけで、そう変わりませんが……。」
「うっふっふ~、とぼけてもムダよ! あなた、文官試験の会場にィ、」
「わーっっっ!!」
と、恭介が大声をだすと、アミィは「きゃっ!?」と叫び、両手で耳の穴を塞いだ。
「な、なによ、キョウくんったら! 急に大きな声だしてぇ!」
「すみません、アミィさん! 続きはこっちで話しましょう!!」
恭介はアミィの衿首をガシッと掴み、そのまま廊下へ引っ張り出した。ユスラはキョトンと目を丸くしたが、追いかけては来なかった。バタンッと、しっかり執務室の扉を閉めた恭介は、やや険しい表情を浮かべてアミィを振り向いた。
「……さっきの話ですが、どこから得た情報ですか?」
「え~? 文官試験のことォ?」
「……はい。」
「そんなの決まってるじゃないの~。ジルさまよ!」
(なんだって!?)
恭介は、口から心臓が飛びでそうなほど驚愕した。
(ど、どういうことだ!? オレは受験について一言も報せてないぞ!! うん? 待てよ。まさか、シグルトのやつがジルヴァンに教えたのか!?)〔第218話参照〕
ジルヴァンの「なぜ吾に黙っていたのだ!!」と憤慨するようすが目に浮かんだ恭介は、タラ~と、一筋の冷や汗が頬を流れた。
(マズイ、マズイ! マズイぞ!? まだ受かったかどうかわからねぇのに、ジルヴァンにバレちまってるのかよ……!!)
指で額を押さえて考え込む恭介の顔を、アミィがクスクスと笑いながら見つめてくる。
「キョウくんったら、そんな難しい顔してどうしたのよぅ? もしかして、受かる自信がないから、あたしたちに試験のことを云えずにいたの~? やぁねぇ。水くさいわ~。最初に打ち明けてくれたら、協力してあげたのにィ。ジルさまも悔しがってたわよぅ。」
秘密にしていた理由は、自分だけの力で乗り越えるためにつき、この数ヵ月間、他人行儀に接してきたつもりはない。だが、結果的にアミィやユスラだけでなく、ジルヴァンから、そう解釈されてもおかしくない状況だった。
(やばすぎるだろ。弁明必須だ。このままだと、信頼関係に亀裂が入っちまう……! そうじゃない、そうじゃないのに……、くそっ、ジルヴァン!!)
説明不足が招いた感情のすれ違いがもどかしい恭介は、思わず握った拳をガンッと、壁に叩きつけた。
「キョウくん!? なによ、どうしたの!?」
「……すみません、アミィさん。……文官試験のことは、ユスラとレッドに黙っていてもらえませんか。合否がわかり次第、オレから話します……。」
「それは構わないけどぉ、でも、どうしてジルさまに隠していたの~?」
「隠していたわけじゃ……、」
恭介は、科白の途中で口を噤む。言い訳をする相手がちがう。アミィに事情を話したところで、ジルヴァンは誤解している。深呼吸をして平静を取り戻すと、「ところで」と、アミィに質問した。
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